うちのメイドは、只者ではありません。

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閑話

アティス伯爵の悩み

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  小高い丘の上にある小さな村の伯爵、それがアティス伯爵である。
  彼は黄金色に輝く髪に碧い瞳を持ち、その甘いマスクは、歩けば女性からうっとりとした眼差しを向けられていた。

  そんな彼の悩みは、ルーベルト伯爵である。

  二人は幼い頃からの友人で、彼にとっては唯一無二の存在である。しかし、そんなルーベルト伯爵が最近よそよそしいのだ。

  社交界で見かけても、彼は執事であるカイトを連れて、誰と喋るでも、まして踊ることもない。
  彼が話しかけても、「ほっといてくれ」の一言で終わってしまう。

  ミューゼン・ルーベルト、その名は国の誰もが知っている。
  良い意味でも、でも。

  そもそも自分たちが伯爵と名乗る前は、お互いの愛称で呼んでいた。
  彼ノーデン・アティスをノーディと、彼もミューと呼んでいた。

  そもそも本来ならば、彼がミューと愛称で呼ぶことは許されない。
  何故なら彼は伯爵家の生まれであるが、ミューゼンは公爵家の生まれだからだ。

  しかし当の本人であるミューゼンが良いと言うし、当時のルーベルト公爵である、ミューゼンの父までもが良いと言うのだ。
  こうなれば彼の家で、彼を叱ることは出来ない。

  公爵家といえば、どこか近寄りがたい存在であるのに、ルーベルト公爵家だけは違った。
  
  国王からの信頼も厚く、民からは愛される、絵に描いたような家であった。

  ミューゼンのシルバーヘアと母親譲りの蜂蜜色の瞳は、誰からも羨望の眼差しを向けられるほど美しい顔を際立たせた。

  貴族の間では、なんとか自分の娘と婚約させようと、誰もが必死になっていた。
  父親がいずれ継ぐその爵位に、母親が見目麗しいその姿に、ぜひ我が子をと懇願していた。

  社交界にミューゼンが出向けば、ダンスの誘いが後を絶たなかった。
  そして彼がそんなミューゼンに、「何故全ての誘いを受けるんだい?」と聞けば、ミューゼンはしっかりと答えた。

「女性だって誘うのに勇気がいるものだろう?ならば、そんな女性に恥をかかせてはいけない。時間が許してくれると言うのなら、僕はどれだけだって踊り続けよう」

  自分と同じ僅か十五歳の少年が、そう言ってのけたのだ。
  彼は今までの自分を、ここまで恥じたことはなかった。

  女性の気持ちなど、考えたこともなかった。
まして時間を持て余しながら、ダンスを断ってしまった自分。
  この事は、今でも彼がダンスを断らないことに影響している。


  しかし、そんなミューゼンがダンスを全て断り、誰も寄せ付けないのだ。
  彼はミューゼンをとても大切な友人だと思っているし、そう思われていると自負していた。

  だからこそどうしてそうなったのか、、理解できなかった。
  何故なら彼は幸せで、ミューゼンものだから。

  彼がもしも、この悩みを今だけだろうと思わなければ、少しでも寄り添っていたなら、違う結末もあったのだろうか。

  もはや変わることのない結末は、今の彼のこの悩みさへ、幸せだったと思わせるのだ。

  ミューゼンがもしも、ルーベルト公爵になっていたのなら。
  彼がもしも、ミューゼンに寄り添えたなら。

  どのもしも話も、全てはなのである。

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