うちのメイドは、只者ではありません。

文字の大きさ
10 / 19
第一章

敵を知るためにには己を知ることです

しおりを挟む

「お嬢様は殿下との未来が断罪ではないとなったら、婚約されますか?」

 リーナは何を言うのでしょう。
 断罪になると言ったのはリーナで、、頑張っているところなのに。

 リーナの言うように、未来が違ったとしても、私の意思は変わらない。

「いいえ、破棄となるようにするわ」
「何故ですか?」
「私のこの容姿では殿下の隣には相応しくないし、何よりサーシャこそがハウス家自慢の娘よ」

 リーナからの話がなかったとしても、社交界に顔も出さない私が、どうしたら殿下の横に並べるのでしょう。

「お嬢様は自己評価が低すぎます。殿下を知る前に、ご自身の評価を知るべきです」
「そう言ってくれるのは有り難いけれど、評価されるにも値しないわ」

 サーシャは公爵令嬢の名に恥じぬ様に振る舞い、その容姿だけではなく全てにおいて定評がある。
 それがどれだけのプレッシャーなのか、分からぬほど能天気に生きてはいない。
 それでも私のこの容姿では、ハウス家の名に傷を付けてしまうことも分かっている。

 お父様だけではなく、今まで代々続いたハウス公爵の名を守る為に出来る事、それは大人しく家を出て修道院に入る事ぐらいだ。
 他にも道はあると言われそうですが、修道院であればこんな私でも誰かの為になるのではないかと思うのです。

 もちろん反対されるでしょうから、その時は作物を育てる事を人々に普及したいと家を出るつもりです。

 貴族の娘の結婚といえば、十七歳頃が多いという事を踏まえて、その歳を迎えた時にそう告げるつもりでした。


「失礼ながら申し上げます。敵を知るには己を知れ、でございます」
「え?」
「お嬢様がご自身を理解しないままでは、殿下の事を知るなんて到底無理な事でございます」
「私自身を、理解…」
「左様にございます。この機会にお嬢様は、ご自身のことを理解下さいませ」

 厳しい事を言ってくれるリーナは、流石としか言えません。

 私自身の事は理解しているつもりでしたのに、彼女の目にはしていない様に写っていた事に驚きです。
 ですがそう見えるのなら、公爵家の娘としてそのままには出来ません。

「ではリーナ、私はどうしたら良いのかしら?」
「まずは、お嬢様をよく知る人たちから聞くのが一番かと存じます」

 なるほど、と感嘆の声を上げてしまいました。
 私自身の事を知る為に、私をよく知る人たちからお話を聴くなんて、そういう発想にならない辺り、自己完結ばかりしてきたのね。

「さっそくお屋敷にいる者たちから、聞きに参りましょう」

 この時を待っていたと言わんばかりに、リーナの目が輝いているのは気のせいではないのでしょう。

 私の事をどう思っているかを聴くのは、正直怖くて辞めたい気持ちもあるけれど、自分がどう見えているのか理解して正していかねばなりません。

 ハウス家から出たとしても、ハウス家に生まれた事に誇りを持ち続けたいから。

「料理長!少しお時間宜しいですか?」

 私が考えながら歩いていると、リーナが声をかけたのは料理長だった。
 その大きな身体からだからはとても想像が出来ない、そんな繊細で美しく美味しい料理は彼の腕にかかっている。

 私が物心ついた頃にはこの家に仕え、八歳になった時に料理長になった。
 エディオット・フランことエディは、ハウス家になくてはならない人物なのだ。
 私がたくさん食べるのも、彼の料理が美味しすぎるからに他ならない。

「リディア様、リーナ、どうかしましたか?」

 いきなり話しかけたにも関わらずニッコリと微笑む料理長は、大きな身体から優しいというオーラを隠せずにいる。

「料理長、急にごめんなさい。私についてどの様に感じているのか、素直な気持ちを知りたいの」
「リディア様について、でございますか?」

 急に何を言い出すのかと、料理長は目を丸くしてパチパチと瞬かせている。
 それぐらい唐突で、不躾な質問だったのでしょう。
 次に聞く人には、少しだけお天気の話をしてから聞く事にします。

「リディア様は私にとって、料理長になるきっかけとなった方です。歳も親子程に離れてますが、尊敬しています」
「料理長になるきっかけ?」
「少し長くなりますが、聞いていただけますか?」

 ニッコリと優しく笑いながら、私が頷けば穏やかに話し出した。


「私がこのお屋敷に来たのは、お嬢様が五歳で私が二十六歳の時でした。
 以前お世話になったお屋敷では、一度旦那様の嫌いな物を間違って出してしまってから、一切の調理を禁じられました。
 そんな時に知り合いだったこのお屋敷の先代料理長から、料理人は作らなければ料理人じゃないとこちらに呼んで頂きました。
 そしてリディア様に出会いました。
 公爵様の御息女とは思えぬほど、使用人に対しても分け隔て無い態度に驚きました。」

 料理長は目を細めながら、その時を思い出しているのか笑っている。
 私も五歳の時を思い出しながら、料理長と出会った時を思い返したいけれど、自分を思い出すのは難しいです。

「挨拶をさせて頂いた時に、リディア様は何と仰ったか覚えていらっしゃいますか?」
「思い出そうとしたけれど、全く分からないわ」

 ガックリと肩を落として見せれば、そうでしょうねとクスクスと楽しげに笑う。

「「本日よりお世話になります、スープ担当のエディオット・フランでございます」と挨拶をした時、「ハウス公爵の娘、リディア・ハウスと申します。さっそくですが、何スープが得意ですか?」と丁寧な挨拶にこちらが驚いた瞬間、目を輝かせてスープの話をされました。
 その時の可愛らしい反応は、年相応の女の子でございました。
 それがとても可愛らしく、そして受け入れて頂いたと嬉しく思ったものです。
 そして暑い時期となってましたので、ゴーウリのスープの話になった時は内心焦りを感じておりました」

 料理長は穏やかな顔から一転、少し苦い顔に笑みを浮かべています。
 幼い私は、何か嫌な態度を取ってしまったのでしょうか。

「リディア様は顔をしかめて、「私ゴーウリは苦手なのだけど、私が飲めるゴーウリスープを作ってくれる?」と仰いました。
 苦手と聞いた時、どうしても以前のお屋敷の主人を思い出してしまって、絶対に作るなと申し付けられる事を覚悟しました。
 ですがリディア様が仰ったのは、飲めるスープを作る事でした。
 そして何度もキッチンに足を運んでくださり、私が作るゴーウリスープを美味しいと飲んでくださった時、どれ程嬉しかったか。
 その後徐々にゴーウリを克服されたリディア様は、私には身に余る言葉を下さいました。
 「エディの作るゴーウリのスープが美味しすぎて、いつの間にかゴーウリを好きになっていたわ!エディのおかげだわ!エディがいつも、私でも飲めるように考えてくれたからだわ!」
 この言葉は、私が息を引き取るその瞬間まで忘れないでしょう。
 それからも毎日、毎回、お食事を取られた後に感謝を述べてくれるリディア様に、料理人一同身が引き締まり、救われて参りました。
 どんな時も笑顔で、食材に、私共に感謝を述べてくださるリディア様は、間違いなくこのお屋敷の使用人にとって無くてはならないお方です。
 ハウス公爵様の元に仕えられることはもちろんですが、リディア様に召し上がって頂ける事はこの上なく幸福な事と存じております」

 料理長はそう言うと、膝を曲げて最敬礼の形を取った。
 まさかそんな風に思ってもらえてたなんて、嬉しくて潤んでしまう目をどうにか堪える。

「そんな風に言ってもらえることが、私に取って何よりも幸せなことだわ。本当、ありがとう」

 素直な気持ちを述べれば、彼は少し目を見開きとんでもございませんと微笑んだ。

 私が自分の殻に閉じ籠っている間も、こうして評価して貰えることがあるなんて。
 私はリーナの言うように、自分の事さへ理解していなかったという事なのでしょう。

 殿下の気持ちを知る為にも、先ずは自分自身を理解しなくてはいけませんね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

処理中です...