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第一章
頭の中を整理しましょう
しおりを挟む陛下や殿下に対しての不敬にもなる不躾は、国の為だったととくに御咎めはないと、あの後陛下より言われました。
少しだけ息をし易く感じるのは、気のせいではないでしょう。
「お嬢様、如何でしたか?」
お父様からのお叱りを受ける前に、 「少し考える時間を下さい」と部屋に逃げたけれど、リーナへの報告は避けられません。
「リーナ、ごめんなさい」
私の言葉を聞いた瞬間に、何かを察したようにリーナが固まりました。それだけで尚更、申し訳なさが襲ってきます。
「陛下には御理解頂けそうだったのだけど、殿下に御理解頂けなくて…」
事の経緯を全て話ながら、リーナの顔が見れなくなってしまう。
あんなに気合を入れて準備をしてくれて、私の為にと教えてくれたのに、そんなリーナに出来ませんでしたなんて。自分が情けなくて、涙が出てきそうです。
「お嬢様、もう一度全てを整理致しましょう」
「全て?」
「はい。私の知っている小説と、今の状況を照らし合わせてみましょう」
リーナは思ったよりも落ち込んでもなく、むしろ打開策があるはずと言わんばかりに、目を輝かせている。出来すぎたメイドのリーナには、頭が上がりません。
「まず小説では、陛下と顔を合わせる機会が多いのはお嬢様でしたが、実際にはサーシャ様が多く、お嬢様は幼少の頃に会ったきり」
「そうね。サーシャは社交界デビューしてから今日まで、ハウス家の娘としてしっかりと役目を果たしてるもの」
「そして作物を育てる事に夢中になっていたのはサーシャ様で、お嬢様は見向きもしませんでした」
「だけど実際の私たちは真逆と言うか、サーシャも作物については学んでいるけれど、育てる事はないものね」
たったこれだけでも、リーナの知る状況とは似ても似つかぬ現実です。
「サーシャの見た目はそのままと言ったけど、私は瞳が漆黒で他はハウス家の容姿だったのよね?」
「左様にございます」
実際の私の髪は漆黒で、瞳は薄いグレー。何かこの容姿で、世界が変わってしまったのでしょうか。
漆黒の髪は魔女の髪だと、そんな噂など信じなければ良いのだけど、そんな力が働いたのではないかと思ってしまいます。
「容姿が変わっているのは私だけ?」
「不思議なことにお嬢様の容姿だけ、小説と異なります」
「何か意味があるのかしら?」
「意味があるのだとしたら、小説とは異なる未来があると信じています」
リーナの真剣な顔に、彼女の優しさを感じます。私の断罪となる未来を、彼女は変わると信じてくれているのだから。
「リーナ、殿下は何故婚約破棄を嫌がるのかしら?」
「私の予想としては、二通りございます」
「二通り?」
私には一つとして浮かばない理由が、彼女には二つも浮かんでいるらしい。
リーナは小説を直接読んでいるのだから、この後の展開にも何か思い当たることがあるのでしょうか。
「まず一つ目は、既に殿下とサーシャ様が心を通わせている可能性です」
「素敵!でも、サーシャは本当に喜んでくれているみたいだったのよ?」
「ですので、二つ目が濃厚かと存じます」
「ぜひ聞かせて」
もしも既に心を通わせているのなら、殿下が破棄をしない理由と、サーシャが喜んでくれる理由が必要になってしまいます。
つまり、その可能性は低い気がするのです。それはリーナも感じている様で、二つ目の可能性が高いと思っているみたいです。
「殿下が一目見て気に入ったのが、現実ではお嬢様という可能性です」
リーナは何を思ったのか、一番ありえない言葉を言った気がします。
「それこそ可能性を感じられないと思うのだけど」
「何故ですか?」
「だって殿下は、一目でサーシャに心を寄せたのでしょう?その理由は、サーシャの容姿も含めてだと思うの。そしたら私は、逆立ちをしたって見向きもされないでしょう」
そう、サーシャの容姿とは似ても似つかぬ私なのですから。
もしも私がサーシャの様に人目を惹く容姿をしていたのなら、あるいは自分の容姿に自信があったのならそれも考えたでしょう。
けれどどちらでもない私は、それだけはありえないと分かります。
「お嬢様は髪の色と瞳の色が他の方と違うだけで、とても美しいことを理解してくださいませ」
「ありがとう。そんな事を言ってくれるのは、リーナだけね」
「お嬢様が社交界に顔を出せば、皆から言われますよ」
まったく心外だと言わんばかりに、顔を膨らませて怒るリーナは、本音でそう言ってくれているのだろうと思う。
嬉しいけれど、世間の目がそうではないことを知らないほど、もう幼くない。
「リーナ、話を戻しましょう」
まだ何か言いた気なリーナですが、まずは殿下との婚約破棄をする為に整理です。
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