1日だけの世界

猫田

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1日だけの世界

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 ある時はチーター。大草原の中にいた。走る。走る。風の音がビュンビュン鳴る。鼓膜を切るように鳴るその音がとても心地いい。もっと聞いていたくなる。4本の足で大地を踏み締める。足の裏に伝わる乾いた土の感触。無造作に生えている草。一瞬大地に触れ、すぐに蹴り付ける形で離れる。この後、雨が降るのかも。雨の匂いもする。視界はいつもより低いけど、そんなこと気にならないほど世界はとても広いように感じる。いくら走っても息切れなんてしない。走るたびに、もっともっととまるで体が求めてるみたい。呼吸が、心拍数が上がるのがとても気持ちいい。その内に見つけた別の生き物の後を追いかける。追いかけっこだ。この足なら誰にも負けたりなんかしない。

 また、ある時は宇宙にいた。僕は星で、周りは大きくひろーい宇宙。空気なんてない。でも僕はそこに存在していられる。音もない。静かすぎるなぁ。空気がないと音もないのかな?それとも、宇宙にも音はあるのかな?知りたいなぁ。僕の周りにある小さな小さな惑星、大きな惑星、色々あるけど僕は遠くに見える地球が一番好きだった。水色と、白。それがとっても綺麗。たまに僕の目の前に他の小さな惑星がやってきて見えなくなっちゃう。でも、その惑星がどこかに流れていくとまた僕の大好きな地球が現れる。なんて綺麗なんだろうなぁ。本物をいつか、この目で本物を見るのが僕の夢。星になってよかったことは流れ星がすごく近くで見られること。次は流星群も見たいなぁ。

 別の時は雲だった。ふよふよ浮いてて気持ちいい。流れに身を任せて漂っていく。最初、僕は小さな雲だったけど途中で色んな雲とくっついてどんどんおっきくなっていった。最後にはどの雲よりもおっきくなっててお腹の中でバチバチって雷が鳴ってた。お腹が空いてる時みたい。でもダメダメ。こんなの落ちたら皆びっくりしちゃうから。雷が出て行かないように僕はお腹の辺りにぐっと力を込める。そのうち、僕の体はまた小さくなっていって、いつの間にか雷も消えちゃってた。僕の下にはたくさんの家。色んな家があるなぁ。高い家、低い家、四角い家に三角の家。マンションや一軒家。洗濯物を干している家や、庭で水遊びしてる家。あ、飛行機だ。たくさんの人が乗ってる。手を振っちゃおうかな。気付いてもらえるかな。ああ、そうだ。今は手がないんだった。あ、でも小さな女の子が手を振ってくれてた。可愛いなぁ。バイバイ、いい旅を!──なんてね。


 目を開けるとそこは見慣れた天井。顔を横に向けると点滴があって、顔の横には大好きな絵本。ああ、起きちゃった、と少し残念。もう少し、雲でいたかったなぁ。そんなことを思ってるとシャッ、とカーテンが開く音がする。

 「健斗くん、おはよう。朝の体温測りましょね」

 看護師さんがやってきた。僕の今日が始まる。
  
 ──今日はどんな夢が見られるかな?どこにだっていけて、なんだって出来て何にでもなれる。僕の1日だけの世界。
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