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2章
18
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苓の感覚は正しかった。
翌日の朝、ともに出発した明芽は苓の事に極力触れようとしなかった。
というよりは
「ねぇ周はどこの生まれなの?」
「生まれはよくわからねぇんだよなぁ。捨てられてたみたいだからさ」
「え!どうやって育ったの?」
「盗賊に拾われてさ。陸も一緒に」
「へぇ~苦労したのね~」
彼女は朝から周に興味深々で、周の隣に馬を寄せてあれこれと追及している。
そして苓は、今日は陸と馬に乗り、そんな二人のやり取りをなぜか面白くない気分で聞いていた。
結局、周にとっては苓でも明芽でも、同じ年頃の女は一緒なのだろう。
彼が大切なのは郷に残してきた妹で、苓や明芽はただ妹を彷彿して放っておけないだけなのだ。
おあいにく!その盗賊の話も嘘なんだから!
心の中で二人の会話に突っ込んで、そして自分の性格の悪さに愕然として一人で勝手に落ち込んだ。
私こんな嫌な奴だったっけ?
なんでこんなにイライラもやもやしてるのだろう。
こんな事は今まで初めてだった。
村の中でも苓はあまり人と衝突することもなく、比較的誰とでもうまくやれるタイプだったし、誰かを嫌うようなこともなかったように思う。
こんな感情は初めてだった。
まぁ、あんなあからさまな態度取られたのも初めてのことだしなぁ。でもこれから葡葉で働くことになったらそんな人にも出会うのかもしれない。
都会の女性は気が強いとも聞く。
まぁ、ちょっとした予行練習なのかもしれない。
そう自分に言い聞かせて少しだけ心を落ち着けた。
その日は当初の予定通り、夕暮れ前に野宿の場所を確保した。
街道から少しだけ入った窪地に火を焚いて、馬たちに餌を与えて食事の準備をしていると、少し離れた沢に水を汲みに行っていた陸が、戻って来る。
「この川も比較的安全そうだから良かったら明るい内に水浴びしてきてね」
誰とは呼びかけなかったものの、苓と明芽に言っている事は分かった。
苓はちょうど夕食用の干し肉を割いていた所で、まだ水浴びの準備ができていなかったため、作業をする手を速めた。
「あら!じゃあお先にいただくわ!ねぇ周付き合って~獣が出たら怖いわ」
しかし明芽にそんな苓を待つという配慮は全くなかった。
すぐに立ち上がると、自分のまとめてある荷を持って、火の前に座る周の肩に触れる。
「あぁ、いいよ」
言われた周は大して気にしていない様子で腰を上げる。
そこで苓を一度くらい気にしてくれるだろうと思ったのに、彼は何事もないように川辺に降りていく明芽の後に着いて行ってしまった。
「何なら一緒に水浴びする?」
「ハハハ、そりゃ悪くないな!」
二人の姿が消えてからそんな軽口が耳に入ってくる。
腹が立つ!なんなんだあの態度は!
明芽の態度は当たり前のごとく腹は立つが、それ以上になぜか周にも腹が立つ。
「苓、もうそれくらいでいいよ、、、その、それ以上ちぎると肉の味しなくなりそうだから」
怒りに任せてブチンブチンと干し肉をちぎる苓に、陸が恐る恐る声をかけてくる。
「え?あぁ!ごめんやり過ぎた」
手元を見てみれば、一口サイズに千切るべきものを、すでに小指の爪ほどの大きさまでにしてしまっていた。
「大丈夫だよ、火にかければ少しは戻るだろうしね」
そうフォローしながら陸は苓から肉を受け取ると、先ほど苓が切り取った野菜と米を鍋に入れて火にかけ始める。
「いろいろと嫌かもしれないけど、明日の夜には延桟に着けるように進めるから、、辛抱してね」
鍋の位置を調節しながら、独り言のように陸が呟く。
驚いて彼を見ると、彼は苓に一切視線を向けることなく、ただまっすぐに手元を見ていた。
朝からずっと苓と同じ馬に乗っていた陸は、敏感に苓の苛立ちを察していたらしい。もしくは苓自身が自分が思う以上に態度に出していたのかもしれない。その可能性も少なくない。
「ごめん。感じ悪いよね。あんな風な敵意を向けられるの初めてで、、、ついイライラしちゃってたわ」
いざ、少し冷静になれば、とても恥ずかしい気分になる。いくら腹が立っても、明芽は明日までの付き合いなのだもう少し鷹揚に構えられても良かっただろうに、なぜか無性に対抗意識が湧いてしまったのだ。
「んー、いやそれは無理もないと思うよ。だって苓は16歳で、彼女は18歳だ。どちらかというと大人でなきゃならないのは彼女なんだから、苓が恥じる必要はないと思うよ。」
しかし陸は、そんな苓の言葉をやんわり否定して、そこでようやく苓の方向を向いてクスっと笑った。
「やきもち焼くなんてかわいいじゃん?」
その笑顔は、いつもの不自然なまでの無害な笑みではなく、何か面白いものでも見つけたとでも言うような笑みだった。
「や、きもち?」
思わず一歩後退りしそうになりながら、苓が復唱すれば、またしても陸はニコリと微笑む。
「そう、仲良くしてる二人に腹が立ったんでしょ?それって立派なやきもちだよ」
そう言われて、苓ははっきりと、、、しっかりと、気づいてしまったのだ。
今日一日中のイライラのあれは、、、、、。
「わぁああ!!私、、、水浴びに行ってくる!!」
考えるよりも先に立ち上がっていた。これ以上陸と話していたら、気づいてはいけないことにどんどん気づいてしまいそうだった。
早く!早く逃げなきゃ!
そう思って、慌てて荷に手をかけて、まだ準備もできていなかった事に気づくけれど、そんなことはもうどうにでもなる!とにかく逃げなくては!!と反射的に考えて、荷を抱えて川辺への道を降りた。
「あーあ、逃げられちゃった。ちゃんと忠告しておこうと思ったんだけどなぁ。まぁいいか、追々どっかで釘刺しておこう」
だから陸が、その背を見送りながらそんなことを呟いていた事なんて気づきもしなかったのだ。
翌日の朝、ともに出発した明芽は苓の事に極力触れようとしなかった。
というよりは
「ねぇ周はどこの生まれなの?」
「生まれはよくわからねぇんだよなぁ。捨てられてたみたいだからさ」
「え!どうやって育ったの?」
「盗賊に拾われてさ。陸も一緒に」
「へぇ~苦労したのね~」
彼女は朝から周に興味深々で、周の隣に馬を寄せてあれこれと追及している。
そして苓は、今日は陸と馬に乗り、そんな二人のやり取りをなぜか面白くない気分で聞いていた。
結局、周にとっては苓でも明芽でも、同じ年頃の女は一緒なのだろう。
彼が大切なのは郷に残してきた妹で、苓や明芽はただ妹を彷彿して放っておけないだけなのだ。
おあいにく!その盗賊の話も嘘なんだから!
心の中で二人の会話に突っ込んで、そして自分の性格の悪さに愕然として一人で勝手に落ち込んだ。
私こんな嫌な奴だったっけ?
なんでこんなにイライラもやもやしてるのだろう。
こんな事は今まで初めてだった。
村の中でも苓はあまり人と衝突することもなく、比較的誰とでもうまくやれるタイプだったし、誰かを嫌うようなこともなかったように思う。
こんな感情は初めてだった。
まぁ、あんなあからさまな態度取られたのも初めてのことだしなぁ。でもこれから葡葉で働くことになったらそんな人にも出会うのかもしれない。
都会の女性は気が強いとも聞く。
まぁ、ちょっとした予行練習なのかもしれない。
そう自分に言い聞かせて少しだけ心を落ち着けた。
その日は当初の予定通り、夕暮れ前に野宿の場所を確保した。
街道から少しだけ入った窪地に火を焚いて、馬たちに餌を与えて食事の準備をしていると、少し離れた沢に水を汲みに行っていた陸が、戻って来る。
「この川も比較的安全そうだから良かったら明るい内に水浴びしてきてね」
誰とは呼びかけなかったものの、苓と明芽に言っている事は分かった。
苓はちょうど夕食用の干し肉を割いていた所で、まだ水浴びの準備ができていなかったため、作業をする手を速めた。
「あら!じゃあお先にいただくわ!ねぇ周付き合って~獣が出たら怖いわ」
しかし明芽にそんな苓を待つという配慮は全くなかった。
すぐに立ち上がると、自分のまとめてある荷を持って、火の前に座る周の肩に触れる。
「あぁ、いいよ」
言われた周は大して気にしていない様子で腰を上げる。
そこで苓を一度くらい気にしてくれるだろうと思ったのに、彼は何事もないように川辺に降りていく明芽の後に着いて行ってしまった。
「何なら一緒に水浴びする?」
「ハハハ、そりゃ悪くないな!」
二人の姿が消えてからそんな軽口が耳に入ってくる。
腹が立つ!なんなんだあの態度は!
明芽の態度は当たり前のごとく腹は立つが、それ以上になぜか周にも腹が立つ。
「苓、もうそれくらいでいいよ、、、その、それ以上ちぎると肉の味しなくなりそうだから」
怒りに任せてブチンブチンと干し肉をちぎる苓に、陸が恐る恐る声をかけてくる。
「え?あぁ!ごめんやり過ぎた」
手元を見てみれば、一口サイズに千切るべきものを、すでに小指の爪ほどの大きさまでにしてしまっていた。
「大丈夫だよ、火にかければ少しは戻るだろうしね」
そうフォローしながら陸は苓から肉を受け取ると、先ほど苓が切り取った野菜と米を鍋に入れて火にかけ始める。
「いろいろと嫌かもしれないけど、明日の夜には延桟に着けるように進めるから、、辛抱してね」
鍋の位置を調節しながら、独り言のように陸が呟く。
驚いて彼を見ると、彼は苓に一切視線を向けることなく、ただまっすぐに手元を見ていた。
朝からずっと苓と同じ馬に乗っていた陸は、敏感に苓の苛立ちを察していたらしい。もしくは苓自身が自分が思う以上に態度に出していたのかもしれない。その可能性も少なくない。
「ごめん。感じ悪いよね。あんな風な敵意を向けられるの初めてで、、、ついイライラしちゃってたわ」
いざ、少し冷静になれば、とても恥ずかしい気分になる。いくら腹が立っても、明芽は明日までの付き合いなのだもう少し鷹揚に構えられても良かっただろうに、なぜか無性に対抗意識が湧いてしまったのだ。
「んー、いやそれは無理もないと思うよ。だって苓は16歳で、彼女は18歳だ。どちらかというと大人でなきゃならないのは彼女なんだから、苓が恥じる必要はないと思うよ。」
しかし陸は、そんな苓の言葉をやんわり否定して、そこでようやく苓の方向を向いてクスっと笑った。
「やきもち焼くなんてかわいいじゃん?」
その笑顔は、いつもの不自然なまでの無害な笑みではなく、何か面白いものでも見つけたとでも言うような笑みだった。
「や、きもち?」
思わず一歩後退りしそうになりながら、苓が復唱すれば、またしても陸はニコリと微笑む。
「そう、仲良くしてる二人に腹が立ったんでしょ?それって立派なやきもちだよ」
そう言われて、苓ははっきりと、、、しっかりと、気づいてしまったのだ。
今日一日中のイライラのあれは、、、、、。
「わぁああ!!私、、、水浴びに行ってくる!!」
考えるよりも先に立ち上がっていた。これ以上陸と話していたら、気づいてはいけないことにどんどん気づいてしまいそうだった。
早く!早く逃げなきゃ!
そう思って、慌てて荷に手をかけて、まだ準備もできていなかった事に気づくけれど、そんなことはもうどうにでもなる!とにかく逃げなくては!!と反射的に考えて、荷を抱えて川辺への道を降りた。
「あーあ、逃げられちゃった。ちゃんと忠告しておこうと思ったんだけどなぁ。まぁいいか、追々どっかで釘刺しておこう」
だから陸が、その背を見送りながらそんなことを呟いていた事なんて気づきもしなかったのだ。
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