孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり

文字の大きさ
20 / 75
2章

19

しおりを挟む
逃げるように川辺に向かって大股で下っていく。


周と明芽がいなくなってから、そう時間も経過していないので急げば二人を待たせることなく身を清めることはできるだろう。
そう思って人の歩いた形跡のある場所の草をかき分けて、、、、そして苓は硬直した。



草を分けたその先、、、苓の視界に入ってきたのは半裸状態で睦み合う若い男女の姿だった。

まぎれもなくそれは周と明芽で、上半身の衣類をはだけさせた周の上に、それはそれは豊満で見事な胸を剥き出して彼に突き出すようにしている明芽が跨っているのだ。

「ひっ!!」

当然苓には男女のそんな光景に免疫なんてない。

のどの奥から出てきたのは、恐怖を含んだ短い悲鳴で、数秒の後に踵を返した。

「苓!まて!」

慌てた周の声が、草越しに呼び止めるのが聞こえたが、そんなことで止まれるほど苓は冷静ではなかった。


混乱状態の苓は、どこを走っているかも分からないまま、草をかき分け、走った。とにかく少しでも早くあの忌まわしい光景から離れたかった。


脳裏には先ほどの、密着した二人の光景がしっかりと残っていて。

気づかぬうちに涙がこぼれていた。


そうしてどこまで来たか分からない場所で、岩場に辿り着いてその先に進めなくなり足を止めるとその場にうずくまった。

周にとっては、苓は妹みたいなもので、、、そして明芽はそういう事をする対象の相手だったのだ。

勝手に明芽も苓と同じように妹と同じ年頃で放って置けないだけなのだと思っていたのに、そこには随分と差があったらしい。

「なんでっ、、、別にいいじゃない」

最初から苓は彼の妹の代わりのようなものだと分かっていたはずなのだ、それ以上に望むべきものもないはずなのに、、、なぜこんなにがっかりしているのだろう。

苓の中で周に対する、特別な気持ちが生まれているからなのだろう。

先ほど陸と話していて、気づきたくないと思ってしまった事が何だったのか、、、ここまで来てしまっては、気づかざるを得ない。

「うぅ、このタイミングってのが最悪」

一人でうなって膝を抱える。

空を見上げれば薄紫の雲が流れていく、もうしばらくすると、日が暮れて、辺りは真っ暗になるのだろう。

とにかくあんな光景を目の当たりにしてしまった以上、このまま周と明芽と共に行くのは無理だ。
ここまで周と陸には随分と良くしてもらったし、ここからは大きな街が続く。人に聞きながら歩いて行けば葡葉にはたどり着けると、、、思う。


とにかく今夜はここで野宿をして、明日明るくなってから動こう。

正直自分がどう走ってきたのかも、ここが陸のいる野営地からどれだけ離れているのかも分からない。

ただ一つ分かるのは、動かない方がいいという事だ。


以前、周に脅されたようにクマや、トラ、蛇なんかもいるのだろうが。

正直今の苓は自暴自棄になってしまって、そんなことはどうでもよくなってしまっていた。


「あぁ、消えたい。でもお腹すいた」

膝を抱えて空を見上げ、呆然と呟いた。





日が暮れて、辺りが暗くなると苓は樹の幹に身を寄せて、眠ることにした。

朝になり辺りが明るくなり始めたら出発しようと決めていた。

とにかく苓は明日は明るい内に街道に出なければならない。方向音痴の彼女が来た道を戻るには随分と時間を要すに決まっているのだ。
明るい時間を少しでも活用しなければと、自分の方向音痴を呪いながらも現実的に考えた。


そうして、横になり、少しうとうととし始めた頃、ガサリとどこかで物音がした気もしたのだが、全速力で走った疲れと、いろいろ考えすぎた疲れが重なりそのまま吸い込まれるように眠りについてしまったのだ。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...