23 / 75
2章
22
しおりを挟む苓の言いつけを守ったのか、周が追いかけてくる気配はなかった。
宿を出て沿道に出ると、特に行く当てもなく人込みにまぎれた。
超のつく方向音痴である。路地を曲がらずにまっすぐ進もう。そう決めて歩き始めた。
そうしてしばらく歩いて、すでに自分が来た道を見失って迷子となったのだった。
なんで?同じ道しか歩いていないのに元の通りに戻れないなんて!
辺りをきょろきょろ見渡してみるものの見覚えのある通りではなくて肩を落とす。
歩き疲れて石段に腰かけてぼんやりと道行く人を眺める。
運よく陸が通りかからないだろうか、、、と淡い期待をもってみる。
しかし、陸に会えたからとてどうするというのだ、結局逃げ出してきたはずの周のもとへ戻る事となるのだ。
なんとも格好がつかない。
あまりにも自分が情けなくて、思わず「はぁ~」っと深いため息をこぼして項垂れた。
そんなとき不意に苓の頭上に影が差した。
周に見つかってしまったのだろうか。
そう思って見上げると、こちらをのぞき込んでいる人物としっかり目が合った。
少し年上の若い男性で、、、顔は見たことがなかった。
男性は苓と目が合うとニコリと急に表情を崩した。
「ねぇ君旅の人?今時間ある?」
あまりにも軽い調子でなれなれしく話しかけられて、苓の思考は一瞬停止する。
なにこの人!すごいグイグイ来るんですけど!!
田舎の小さな村育ちの苓にとっては都会の街中で、出会ったばかりの同年代の異性に気安く話かけられるなんて初めての経験である。
「ちょっと一緒に遊ぼうよ!俺さっきこの町に着いてさぁ!一人でぶらぶらしててもなんだし、どうせならかわいい子と過ごしたいじゃん?」
そう言って肩に手を乗せられる。
「甘味とかどう?おごるよ?」
「えぇっとぉ」
今出会ったばかりの人が、甘味をごちそうしてくれるなんてそんなうまい話があるのだろうか。
これは何かの詐欺ではないのだろうか、それとも本当にこの人は甘味が食べたくて一人じゃ寂しいから暇そうにしていた苓に声をかけてるのか、、、。
わっ、、、わかんない!!
無下に断るのも難だし、かといって着いて行って大丈夫なのだろうか?
しかしこのまま、物陰に連れ込まれでもしたら、、、
さぁっと血の気が引く。
今苓の懐には、母の形見のあの櫛が入っている。もし物取りだったら、苓一人では太刀打ちできない。
なんとしても物陰に連れていかれることだけは避けねばならない。
そう思って辺りを見渡して、目に入ってきた店の一つを指さす。
「あ、あの!!じゃああの店がいいです!!」
そう言って少し先にある、甘味処を指さす。そこは外にも客席があって、通りを見通せる。
上手くすれば陸を見つけられるかもしれないし、甘味を指定している青年の希望も聞ける。
とにかく今すぐ物陰に連れていかれることだけは避けられる。
持ち金も、甘味を食べる分くらいは持っているので、大丈夫だ。
とにかく、甘味を食べて適当なところで逃げ出そう!
「ん?あぁいいねぇ!じゃあ行こうか」
青年は、店を一瞥してこだわりなく笑った。
どうやら本当に甘味を誘っただけだったのかもしれない。
そのまま彼に肩を抱かれて居心地が悪いまま歩き出す。
そうして甘味処に入る目前で、パンっと力強く、手をつかまれて、急に身体を後ろに引かれた。
「わっ!!」
突然バランスを失って後ろに倒れこみそうになった身体は、少しバランスを崩しただけで、すぐに何か大きなものにぶつか
た。
「お前!こんなところで何してんだ!」
そうして頭上から落ちてきた、不機嫌な周の低い声に、苓はさぁっと血の気が引いた。
「えっと?お知り合い?」
目の前の青年も苓と同じように血の気が引いたような顔をしていた。
うん、怖いよねぇだって周、お兄さんよりずいぶん体大きいし、変な圧あるからね。
しかもなんとなく背中だけで感じるだけの雰囲気でも、彼が相当怒っているのを感じるのだ。
「うん、ごめん、、、同行者なの、見つかっちゃったからごめんね」
仕方なく彼に逃げ道を与えてやる。
「あ、ははは、じゃあ仕方ないねぇ!またいつか!」
そう言うと青年は、すごい速さで逃げ去って行った。
どうやら本当に苓と甘味を食べたかっただけなのかもしれない、かわいそうなことをしたなぁとその背中を目で追った。
10
あなたにおすすめの小説
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
※本編を加筆修正しますので、一旦一部公開とさせていただいています。
〜花が良く育つので「緑の手」だと思っていたら「癒しの手」だったようです〜
王都の隅っこで両親から受け継いだ花屋「ブルーメ」を経営するアンネリーエ。
彼女のお店で売っている花は、色鮮やかで花持ちが良いと評判だ。
自分で花を育て、売っているアンネリーエの店に、ある日イケメンの騎士が現れる。
アンネリーエの作る花束を気に入ったイケメン騎士は、一週間に一度花束を買いに来るようになって──?
どうやらアンネリーエが育てている花は、普通の花と違うらしい。
イケメン騎士が買っていく花束を切っ掛けに、アンネリーエの隠されていた力が明かされる、異世界お仕事ファンタジーです。
※本編を加筆修正する予定ですので、一旦一部公開とさせていただいています。
*HOTランキング1位、エールに感想有難うございました!とても励みになっています!
※花の名前にルビで解説入れてみました。読みやすくなっていたら良いのですが。(;´Д`)
話の最後にも花の名前の解説を入れてますが、間違ってる可能性大です。
雰囲気を味わってもらえたら嬉しいです。
※完結しました。全41話。
お読みいただいた皆様に感謝です!(人´∀`).☆.。.:*・゚
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる