孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり

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3章

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季節が巡り宇麗がこの宮廷にやってきて1年半が経過した頃。

雛恋の結婚が決まった。

つい半年ほど前には、珠音と前線から一時的に戻った凰訝の婚姻が成り、凰訝の治める南西部に珠音が旅立って行ってしまい寂しく感じていただけに、雛恋がいなくなってしまうことは宇麗にとっては寄る辺を失ってしまったような気分である。


寂しいと、明らかにシュンとしている宇麗に対して、その艶の良くなった髪を優しく梳いて雛恋は言い聞かせるように笑った。


「いずれはね。わたしも、ねぇ様方がお嫁に行かれることが決まった時には本当に落ち込んだわ」

でも仕方ないのよね、、、とため息を吐いた彼女は肩を竦める。

「私たちは降嫁要因だからさ!温室育ち組は基本的に他国の王室に嫁がせたいでしょ?反対に私たちは抱え込みたい家臣のもとに嫁がせるのにぴったりなのよ。他国との縁談より抱え込みたい家臣に降嫁させたい件の方が多いわけだから、自然と私達は早いうちにお声がかかるのよねぇ」


そういって卓に肘をついて小首を傾けた彼女は、辛そうに眉を寄せた宇麗に微笑んで見せる。


「そんな顔しないで?考えようによったら私たち幸せなのよ?」


ふふふ、とどこか勝ち誇ったように笑った彼女の言葉に首を傾ける。



「だって皇女を下賜されるような相手なら将来は有望よ?しかも皇女を下賜されて、側室にはしないでしょ?それどころか、ありがたがられてとても大事に扱ってもらえることが多いのですって!
でも他国の王室の場合は違うでしょう?皇女でも平気で側室にされたり冷遇されるのよ?宇麗なら、どっちに嫁ぎたい?」


そう聞かれて、確かにそうなのかもしれない。と宇麗は思った。
雛恋の元には時折「ねぇ様」達から文が届いており、時々その話を聞くこともあるが、二人とも夫に大切にされている事はうかがえた。

しかも雛恋のお相手は東部を束ねる軍の高官だ。東部と言えば、大陸の中で碧相に並ぶ大国紫瑞国との激戦地だ。そこで兵をまとめている男となれば実力も皇帝の信頼も厚い。そして年齢は雛恋より4つほど上で年端もちょうどいい。
父親ほどの年齢の男に嫁がされるような無理な縁談でもない。
雛恋自身、突然降って湧いた縁談に戸惑ってはいるものの、降嫁することを嘆いているような様子はない。

「だから怖がらないで!貴方にもきっといい方をお父様が見つけてくれるわ」

サラリと宇麗の長い髪にまた手を伸ばして、励ますように雛恋は笑った。

「そう、かな?」

結婚と言われても17歳の宇麗にはまだあまりピンとこない。
確かに雛恋が降嫁することで、いずれ自分もそんな道をたどるのだろうというものはなんとなく見えてきてはいるものの。いまいち現実味がなかった。

「ふふ、でも宇麗はまだまだ礼儀作法を完璧にするのが先かな?」

そう言って笑われて、宇麗は項垂れる。

「うぅっ、、、頑張る。」

一年半かけて身に着けるべきものはきちんと身については来ているが、それでもまだまだ粗削りな部分も多い。
教師たちに言わせれば特段筋がいいわけでも、悪いわけでもなく、平均的だという。

もともと農民の平凡な娘だったのだから、それは仕方ないだろうと、宇麗はため息をつく。

せめて将来の旦那様に呆れられない程度にはしっかりしなければ、、、。

そう思って、ふと頭に浮かんだ人物の姿に自嘲する。

月日が流れても忘れられない人。

凰訝の部隊が展開されている、南部の海賊討伐の任はまだ継続しているらしい。
時折宮廷に報告にやってくる凰訝に言わせれば「まだまだ先は長い」とのことだった。

彼もまだ、そこにいるのだろうか?それとも別の場所?

無事でいるのだろうか。

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