孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり

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3章

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歳月が流れ、鄒恋が嫁いでから2年が経った。

雛恋が降嫁した後、一人きりになった宇麗の住む宮には、宇麗より3歳つほど年下の女の双子がやってきた。
そしてそのさらに半年後、双子より3つほど年下の少年もやってきて、宮の中は賑やかになった。

いったいお父様はどれだけ外に種を蒔いたのだろうか?
呆れながらも、一人きりでいるよりはありがたいと思いつつ弟妹の姿を微笑ましく見守っていた。


皇女になって、すでに3年半の月日が流れ、しっかりと教育された宇麗はすでに礼儀作法はどこに出しても恥ずかしくないレベルにまで定着して、最近では教師たちの手は宇麗から完全に弟妹に移ってしまっている。



「へぇ見違えたぞ!いい女になったじゃねぇか!」

ある日の午後、末の弟燕琉えんりゅうの剣術の稽古を眺めていると、不意に声をかけられて宇麗は驚きのあまり立ち上がった。

「お兄様!!」

悲鳴のように兄、凰訝を呼べば、彼は宇麗を驚かせられたことに満足したようにニヤニヤと笑っていた。

確かに海賊討伐が成功に終わり、近いうちに凱旋するとは聞いていた、、、しかしそれはまだ半月以上先の話だと聞いていたのだが。

驚いて、次の言葉が出ない宇麗に「驚き過ぎだろ!バケモンじゃねぇぞ」と言って、宇麗の横にどかりと豪快に座った。

宇麗の声に驚いた、燕琉と剣術の教師が呆気に取られてこちらを見ているのに、「気にするな!続けろ」と軽く言って、彼は長い脚をゆったりと組んで、宇麗を上から下まで眺める。

「なるほど!お父様がそろそろ結婚相手を見繕わねば。と言っていたから、少しは色香が出たかと思っていたが、これは想像以上だったぞ」

兄からまじまじと見られ、そんなことを言われて、宇麗は居心地が悪くなり、肩を縮める。

確かにこの1,2年で宇麗は随分磨かれた。というのも雛恋がいなくなって、雛恋についていた女官達が宇麗の世話にも加わることになったのだ。
そうして女官達のお世話したい欲に圧倒されている間に、宇麗の肌や髪は上質な触り心地と艶を持ち、栄養状態がよくなり、体に肉がついた。そしてその肉も女官達の手で、納めるべき場所に流されて、落されるべきところは落とされて、随分女性らしい身体になったのだ。


これは宇麗の努力ではなく女官達の努力で作られたものなので、宇麗自身は褒められると複雑なのだ。


「ありがとうございます、、、そんな事より、お子様のご誕生おめでとうございます」

軽く礼を言って、話をさっさと逸らせる。つい3ヶ月ほど前に、珠音が第2子となる男の子を出産したと聞いていた。
結婚後も二人は仲睦まじい夫婦として過ごしているようで、王都に兄が戻った際には、相手をしてあげてね。と珠音からの手紙に認められていた。

「あぁ!珠音から聞いたのか?まぁ、子供なんてうるせぇだけだ。珠音を抱くこともできないしな!それより戦勝の方を祝えよ」

面白くなさそうにそう言う兄は、どうやら珠音が子供に掛かり切りになる事が面白くないらしい。
珠音のことだから、そんな彼の姿も楽しんでいるのだろう。
とはいえ、第一子として生まれた女の子は珠音に似ているせいか、すでに嫁に行かせる気はないと高々と宣言しているほどに溺愛していると聞く。

彼なりの照れ隠しなのだろうと、思うと微笑ましくて口元が緩んだ。


「ふふ、そうでした。戦勝おめでとうございます」

しっかりとした作法でゆっくりと頭を下げる。
頭に刺した簪がしゃらりと音を立てた。

「今度はどのような戦だったのですか?」

「お前、、戦の話を聞きたがる女なんて本当に珍しいぞ。」

凰訝が戻って来る度に宇麗は、彼から戦の話を聞きたがった。
彼の言うように戦なんてものは男達がやるもので、女は進んでそんな話は聞きたがらないのだが、いつも興味深々な宇麗に凰訝は「変わったやつだ」と呆れながらも、戦の状況などを話してくれる。

凰訝の話の中に、周や陸につながりや手掛かりがないだろうかと、宇麗はいつもとても真剣に彼の話に耳を傾けるので、その理由は分からずとも話している凰訝も嫌な気分はしない。

多分彼がこうして宇麗のもとにやってきたのも、このために時間を作ってきてくれたのだ。

ひとしきりその時の作戦や戦況を話してもらい、この長きにわたった戦いが本当に苦労の多いものだったのだと理解するとともに、その中で策を練り、船団を展開した兄と、それに付き従った彼の部下や兵たちの勇敢さと勇気に感服する。

「海賊の根城を滅ぼして、ついでに紫瑞の船団もいくつか滅ぼしてやったよ。楽しかったぜ、船の上を逃げ惑う紫瑞兵をさ縛り上げて落として行くんだ。下はサメの餌場だやつら血の匂いで興奮してどんどん集まってきやがるんだ。
腕や足を削ぎ落して、先に目の前でサメにくれてやるんだ。その方が自分のこの先を想像できるだろ?あの恐怖に打ち震えた顔と悲鳴がたまらねぇ」

「っ、、、もういいです」

しかしうっかり聞き過ぎると、彼の持つ残忍な一部が出てきてしまうので、辞め時が肝心だ。
一気に気分が悪くなってきて、慌てて手を振って止めると、彼は「ここからが面白いのに」と少々不満そうだが、女性にするべき話ではないことは分かっているので、それ以上無理に話すことはない。

宇麗や、珠音、この宮の弟妹達には、とてもやさしいから忘れがちだが、この時ばかりは彼の二つ名の「狂人」の片鱗を垣間見てしまう。


「まぁそんなわけで十分な武功も上げたし、これで正式に俺は西部を治めることになるだろうさ」

しばらく戦もねぇからつまらない。と言いながらも、3国との国境線がある西部は国内でも重要な場所である。


「じゃあ、しばらくお会いできませんね?」

戦がなければ、王都に遠い西部から彼が出向くのは、年に1度か2年に一度ほどになるだろう。

「ははっ、まぁそうでもねぇかもしれないけどな!」


「?」

どういう意味だろうか?もしかして他にも軍の仕事を任されて王都に定期的に常駐することにでもなるのだろうか?

不思議に思って問いかけるように、兄を見上げるが、彼はニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべるだけだった。

こんな時の彼は、絶対に教えてくれない。


むむっと頬を膨らませて、宇麗は拗ねた。
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