孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり

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3章

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どうやら兄は、宇麗に会いに来る以外にも目的があったらしい。

宇麗と話しながら、弟の燕琉の剣術の授業を見ていた兄は、宇麗との話がひと段落すると彼らのもとに行って直接燕琉に剣術の指南を始めた。

突然やってきた兄、それも狂人と二つ名がついた軍の最高官に、燕琉が緊張しているのを、少しだけ気の毒に思いながら宇麗はぼんやりと先ほどの兄の話を思い出す。

いつもながら、彼の話の中に周や陸につながる情報はなかった。

彼らは、兄の部隊に居なかったのだろうか?

もともと、違う戦場に行ったのかもしれない。

今は近衛で試されていると周は言っていた。もしかしたら今もどこかほかの場所で試されているのだろうか?

「生きているよね?」

ぽつりとつぶやく。喉が張り付いて、声らしい声にはならなかった。

先ほど兄が言っていた「お父様がそろそろ結婚相手を見繕わねば。と言っていた」という言葉、、、、このところ宇麗も少しその予感を感じていた。


この宮を出て、父の臣下に嫁いでしまったら、もう絶対に彼には会えない。

そしてその時期が刻々と迫ってきている。

せめて無事なのか、どうなのか、、、それだけでも知ることができたら。

胸の前で両手を握る。

会いたいけれど、、最後に会うことが敵わないのならば

せめて

「無事でいて」





兄の率いてきた部隊が王都に凱旋した。

長年苦しめられた南方の海域の平定に、葡葉は大いに沸いて、連日連夜祭り騒ぎとなった。

そんな中渦中の人であり最大の功労者である兄は、堅苦しい場を嫌い、本当に重要でない行事については適当な言い訳をつけて宮で好き勝手過ごしていた。

そんな中で兄が目を付けたのは、剣術の指南をしてからやけに気に入ってしまった燕琉だ。暇を見つけては二人で剣を握って稽古をしているのだった。

どうやら兄は、燕琉の剣の腕に将来性を見出したらしい。

自領へ彼を連れて行くつもりのようだ。父にもすでにその話を通しており、問題なく許可が出るだろうとのことだ。

数か月後、また一人この宮から人が減るのかと、少し寂しい気持ちもあるが、降嫁の道がある皇女はまだしも、皇子でしかも第15皇子という序列の彼は、自身の能力で身を立てていかねばならない。
そうであるならば、すでに皇帝の信も厚い兄の元で能力を伸ばすことは彼にとってもいい事であろう。

兄の領地ではきっと珠音が目をかけてくれるだろう。久しぶりに文でも認めて、彼の事をよくお願いしておこうか、、、などと考えて居ると宇麗付きの女官の奈凛が慌てた様子でやってきた。


「どうしたの?」

ただならぬ様子の彼女に声をかけると、彼女は荒い呼吸の中で「今すぐお部屋でお召替えを!」というのである。

はて、今日は何か公式的に参加しなければならない行事はあっただろうか?

首をかしげていると呼吸を整えた奈凛が焦れたように宇麗の手を取る。

「皇帝陛下がお呼びでございます!!」

あぁ、ついに来てしまったのだ、、、。

その瞬間に宇麗は悟った。

滅多に皇女を呼び出すことがない、父の要件がどういったものであるのか。

茶色味の強いあの瞳を思い出す。

兄の軍が凱旋しても彼が宇麗に会いに来る気配はなかった。

彼が兄の部隊にいないのか、もしくはもう宇麗に会いに来るつもりがないのか。

どちらにせよ、もう終わったことになってしまうのだ、いっそその方が諦めがつくのかもしれない。

そう自分に言い聞かせて、震える足を誤魔化して立ち上がると、奈凛について自室へ向かった。
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