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番外編ー清劉戦ー
1日目 謁見1
しおりを挟む『湖紅国、皇弟殿下、並びに禁軍大将
紅冬隼様
並びに御内室翠玉様』
謁見の間に、文官のかしこまった声が響く。
その瞬間、一気に広間に緊張感が漂うのを、翠玉は肌で感じる。
赤と金が鮮やかな絨毯を踏みしめ、一歩踏み出せば視線の先には、皇帝と、その妃達が並んでいる。
冬隼と共に、ゆっくりと前に進み礼をとる。
冬隼が兄である皇帝陛下を代理して祝いの口上を述べ、翠玉は夫に付き従って頭を下げたままそれが終わるのを待った。
「遠路はるばる、ようお越しくださった。湖紅の皇室にはわが姉妹が世話になっている。昨年の姉の突然の死には驚いたものですが、妹の姿をこうして見られたことは嬉しく思っております」
皇帝の口から出た言葉は、最初こそねぎらいの言葉であったものの、その先は当て擦りだと、翠玉には分かった。
異母姉、、、彼にとっては実姉の死は、この祖国にも当然知らされていた。
しかしその死は自国の後宮のいざこざを隠すため病死と伝えている。
当然彼らがそれをそのまま鵜呑みにすることはないだろう。
極め付けに翠玉が彼女の忘れ形見の皇子を養育している事で、「お前が計ったのではないのか?」と、翠玉を見下ろす目が言っているのを、翠玉は敏感に感じ取っていた。
予想通りの反応に、つい口元に皮肉な笑みを浮かべそうになるのを堪える。
「義姉上の死は非常に残念なことにございました。まだ幼き皇子を残してさぞ無念であったことでしょう。」
おそらく気づいている冬隼が、当たり障りなく言葉を繋いでくれる。
「皇子はどのように過ごしておられる。繊細な子と聞いております。もし馴染めぬようならば、母の祖国でしばらく過ごす事もお考えいただいてもよいかもしれない。こちらには皇子にとっての祖母も叔母達もおりますゆえ」
少し前のめりになった皇帝が、冬隼に向けて問いかける。
程よく湖紅の後継者候補を自国で養育して染め上げようという事だろう。
惺眞が、皇位継承権を放棄している事を彼らは知らない。清劉にはその習慣がない上、それを説明するには、姉が犯した罪まで公表しなければ納得させられないだろう。
彼らがそうした提案をしてくる事は、最初から翠玉には想像がついていた事だった。そして隣の冬隼も予め翠玉から、おそらくそうした提案があるだろうと聞いていたため、驚くような素振りも見せなかった。
くすりと翠玉は笑う。
「ご心配には及びません異母兄様。他でもない華遊異母姉様が今際の際に私を指名して惺眞を託されたのです。たしかにしばらくは母の死に塞いでおりが、今は異母兄や従兄達と仲良く勉学や剣術に励んでおります。とても優秀な子ですから、将来は異母兄の御代をしっかり支える臣下となるでしょう。」
その言葉に、皇帝がグッと息を飲むのが分かった
すでに、湖紅内部では彼らの思い描く、惺眞を次期皇帝にという路線は無いものとなっている事が分かったはずだ。
極め付けに、皇帝には今現在、自身の御代を支える兄弟と言うものがいない。なぜなら彼の母が殺し尽くしてしまったからである。
無事であった歳下の皇子達も、そんな卑劣な母子の御世のために働こうとするものはいなかった。
実際のところそれが、今皇帝の座についた彼を苦しめているのだ。心から信頼できる者は少なく、彼の近習達もあまりいい働きはしていない。
母に付き従って協力していた有力者達は年老いて引退を迎えている。そしてその後を継ぐ子供は、必ずや自身に心から忠誠を誓っているとは限らない。
祖母や叔父、母のしてきた行いとは違い、惺眞は兄弟で支えあって生きて行くのだ。それが出来なかったお前達になど、あの子を関わらせてなるものか。
冷ややかな視線を向ければ、目の前の兄がぐっと唇を噛み締めたのがわかった。
どうやら翠玉の皮肉は、余す事なく彼には伝わったらしい。
「まったく。結婚して子も産んだと言うのに、あいも変わらず可愛げのないことよ、華遊が其方に子を託したなどという戯言誰が信じるものか」
このまま、形式ばかりの挨拶を終えて辞そうかと思った矢先、そこに苛立たしげな女の声が響く。
「母上!」
驚いたように腰を浮かせたのは皇帝で、その場にいるもの達がハッと息を飲む気配がした。
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