家出令嬢が海賊王の嫁!?〜新大陸でパン屋さんになるはずが巻き込まれました〜

香月みまり

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求めていた声【ライル視点】

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「ライル?目が覚めたの?」

求めていた声が自分の名を呼んだ。

「リリー!っーー!!」

「だから動かすなと言っておるだろう!」


慌てて声の方向・・・船室の入り口に向けて顔を動かすが、咄嗟に身体に力が入ったせいか鋭い激痛が走った。

思わず顔を歪めるのと、ダンテからの叱咤が飛んでくるのは同時で、あまりの痛みに呼吸を止めていると、パタパタと軽い足音と共に、不安そうな顔のリリーがこちらを覗き込んだ。

「リリーっ」

詰めていた息を安堵と共に吐き出す。

良かった。リリーはきちんと存在していて、こうして自分の側にいる。

怪我で朦朧とした意識の中で見た変な夢は、夢に過ぎなかったのだ。

ここ最近ずっと、リリーの事で頭がいっぱいで、彼女が奪われるかもしれないという不安を抱えていたせいで変な夢を見ただけだ。


「とりあえず目ぇ覚ましたし、こんだけ無茶に動こうとするんだから、もう安心だ。あとは折角綺麗に縫ってやった傷が開かないように大人しくしているしかねぇな。また明日傷の消毒に来る」


リリーの顔を見て落ち着いた様子の俺を見て、やれやれと言った様子で息を吐いたダンテが、脇に置いた荷物を持ち、部屋を出て行こうとする。


「っ、すまねぇ、ありがとう」

なんとかその背中に礼を言えば、彼はヒラヒラと手を降り退室し、気を使ったのかその後ろをギルがついて出て行った。


残されたのは俺とリリーだけで、リリーは俺の手を取るときゅうっと握った。

「心配したんだからっ!」

その声は泣きそうで、見上げれはいつも勝気な瞳には涙が浮いていた。

いつもならば、すぐに手を伸ばして拭ってやって、そこに口付けるのに、今の自分にはそれすらできない。

「ごめんな」

きっとこうなったからには、彼女もその理由については聞かされているのだろう。

最悪な形で知らせることになってしまった

「きちんと、話す・・・な」


そう告げれば、涙を瞳に溜めた彼女はこくりと頷いて、唇を引き結んだ。




俺の耳にこの件が入ってきたのは、前回の航海の時の事だった。
馴染みの商船から仕入れているものの中に、物資だけではなく情報もある。

この島に拠点を置いてからというもの、故国の様子は常に情報として仕入れ、彼の国が動き出す事については警戒をしていた。
この日情報屋から仕入れたものの中に、手配書を見つけて一瞬にして背筋を冷たいものが走った。


手配書に描かれた肖像画は、間違いなくリリーのもので、彼女を見つけた者には随分と多い額の謝礼が払われる事が書かれていた。


そして、その連絡先は、彼女の生家であるルーセンス家ではなく、アドレナード侯爵家だったのだ。


昔から若い女が好きで、何人もの娘を娶っては数年で病で亡くしている男だ。

影ではその異常な性癖と暴力で妻を痛めつけ、辱め、衰弱または、自死に追い込んでいるのではないかと噂されていた。
それは、自分が王子時代に耳に入ってくるほどの有名な話だった。

だからこそ、リリーが初めに彼から逃げてきたと話した時には、彼女の選択を賢明な判断だと納得できたのだ。
そして、そんな男だからこそ、自身を出し抜いて逃げたリリーを執拗に探すのではないかという不安もあった。

「これは?」

たまたま目にして気になった風を装い、情報屋に問うてみれば、彼は困ったように肩をすくめた。

「なんでも陛下の側近のお大臣様の婚約者らしい。どうやら連れ去りに遭って海を渡られた形跡があるらしく、捜索隊の船が出されているそうだ。国軍の船が最近増えてるのはそう言うわけらしい。あんた達も気をつけな。」

「娘1人に捜索隊?そりゃあまた大掛かりだな。相当に高貴なお嬢さんなのか?」

一介の伯爵令嬢が1人消えたところで、この大規模な捜索はありえない。しかも国軍の船を出しているなど・・・。

「さぁね。たしかに、滅多にない大掛かりな捜索ではあるな。時々商業船や貨物船なんかも止めて聞いてまわっているらしいし」

情報屋の方も、眉を寄せ不可解な顔をする。
どうやら自分に指摘されて始めてこの件に少し興味がで出来たという様子だ。

「裏に、何かあるかもしれないな」

わざと聞こえるように呟けば、情報屋の眉がピクリと動く。

「令嬢探しに格好つけて、もしかしたら国軍は別の何かのために動いているのかもしれない」

意味あり気な事を匂わせてチラリと情報屋を見てみれば


「なるほど!そういう見方もあるな・・・旦那にゃあ敵わないねぇ。もう少しこの件、調べてみるよ」

どうやら彼の興味を完全に引くことに成功したらしい。
優秀な男だ、きっと次までにはなんらかの新しい情報を仕入れてくるだろう。



「リリー様にはどのように?」

商業船から離れると、ずっと黙って控えていたディーンが問うてくる。


「とりあえずは、知らせない」

キッパリと迷いなく言い切れば、彼が息をつめる気配を感じる。

「言ったところで不安にさせるだけだ。まだ確実な情報もないわけだし、続報が入ってから対策を立てた上できちんと告げてやりたい」

せっかく島の生活にも慣れて、夫婦の生活も軌道に乗ってきたところだ。変に不安だけを煽るのは避けたい。

何より、彼女が自分たちに迷惑をかける事を気にするだろう事は容易に想像がついた。




「だから、リリーに聞かれても、隠し通そうとしていた。すまない。」

そう詫びると、リリーは静かに頷いて自身の手で涙を拭うと。

「バカねぇ。バレバレだったわ。むしろその方が不安だったんだから!」

といつものような勝気な口調で言った。
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