56 / 72
求めていた声【ライル視点】
しおりを挟む「ライル?目が覚めたの?」
求めていた声が自分の名を呼んだ。
「リリー!っーー!!」
「だから動かすなと言っておるだろう!」
慌てて声の方向・・・船室の入り口に向けて顔を動かすが、咄嗟に身体に力が入ったせいか鋭い激痛が走った。
思わず顔を歪めるのと、ダンテからの叱咤が飛んでくるのは同時で、あまりの痛みに呼吸を止めていると、パタパタと軽い足音と共に、不安そうな顔のリリーがこちらを覗き込んだ。
「リリーっ」
詰めていた息を安堵と共に吐き出す。
良かった。リリーはきちんと存在していて、こうして自分の側にいる。
怪我で朦朧とした意識の中で見た変な夢は、夢に過ぎなかったのだ。
ここ最近ずっと、リリーの事で頭がいっぱいで、彼女が奪われるかもしれないという不安を抱えていたせいで変な夢を見ただけだ。
「とりあえず目ぇ覚ましたし、こんだけ無茶に動こうとするんだから、もう安心だ。あとは折角綺麗に縫ってやった傷が開かないように大人しくしているしかねぇな。また明日傷の消毒に来る」
リリーの顔を見て落ち着いた様子の俺を見て、やれやれと言った様子で息を吐いたダンテが、脇に置いた荷物を持ち、部屋を出て行こうとする。
「っ、すまねぇ、ありがとう」
なんとかその背中に礼を言えば、彼はヒラヒラと手を降り退室し、気を使ったのかその後ろをギルがついて出て行った。
残されたのは俺とリリーだけで、リリーは俺の手を取るときゅうっと握った。
「心配したんだからっ!」
その声は泣きそうで、見上げれはいつも勝気な瞳には涙が浮いていた。
いつもならば、すぐに手を伸ばして拭ってやって、そこに口付けるのに、今の自分にはそれすらできない。
「ごめんな」
きっとこうなったからには、彼女もその理由については聞かされているのだろう。
最悪な形で知らせることになってしまった
「きちんと、話す・・・な」
そう告げれば、涙を瞳に溜めた彼女はこくりと頷いて、唇を引き結んだ。
俺の耳にこの件が入ってきたのは、前回の航海の時の事だった。
馴染みの商船から仕入れているものの中に、物資だけではなく情報もある。
この島に拠点を置いてからというもの、故国の様子は常に情報として仕入れ、彼の国が動き出す事については警戒をしていた。
この日情報屋から仕入れたものの中に、手配書を見つけて一瞬にして背筋を冷たいものが走った。
手配書に描かれた肖像画は、間違いなくリリーのもので、彼女を見つけた者には随分と多い額の謝礼が払われる事が書かれていた。
そして、その連絡先は、彼女の生家であるルーセンス家ではなく、アドレナード侯爵家だったのだ。
昔から若い女が好きで、何人もの娘を娶っては数年で病で亡くしている男だ。
影ではその異常な性癖と暴力で妻を痛めつけ、辱め、衰弱または、自死に追い込んでいるのではないかと噂されていた。
それは、自分が王子時代に耳に入ってくるほどの有名な話だった。
だからこそ、リリーが初めに彼から逃げてきたと話した時には、彼女の選択を賢明な判断だと納得できたのだ。
そして、そんな男だからこそ、自身を出し抜いて逃げたリリーを執拗に探すのではないかという不安もあった。
「これは?」
たまたま目にして気になった風を装い、情報屋に問うてみれば、彼は困ったように肩をすくめた。
「なんでも陛下の側近のお大臣様の婚約者らしい。どうやら連れ去りに遭って海を渡られた形跡があるらしく、捜索隊の船が出されているそうだ。国軍の船が最近増えてるのはそう言うわけらしい。あんた達も気をつけな。」
「娘1人に捜索隊?そりゃあまた大掛かりだな。相当に高貴なお嬢さんなのか?」
一介の伯爵令嬢が1人消えたところで、この大規模な捜索はありえない。しかも国軍の船を出しているなど・・・。
「さぁね。たしかに、滅多にない大掛かりな捜索ではあるな。時々商業船や貨物船なんかも止めて聞いてまわっているらしいし」
情報屋の方も、眉を寄せ不可解な顔をする。
どうやら自分に指摘されて始めてこの件に少し興味がで出来たという様子だ。
「裏に、何かあるかもしれないな」
わざと聞こえるように呟けば、情報屋の眉がピクリと動く。
「令嬢探しに格好つけて、もしかしたら国軍は別の何かのために動いているのかもしれない」
意味あり気な事を匂わせてチラリと情報屋を見てみれば
「なるほど!そういう見方もあるな・・・旦那にゃあ敵わないねぇ。もう少しこの件、調べてみるよ」
どうやら彼の興味を完全に引くことに成功したらしい。
優秀な男だ、きっと次までにはなんらかの新しい情報を仕入れてくるだろう。
「リリー様にはどのように?」
商業船から離れると、ずっと黙って控えていたディーンが問うてくる。
「とりあえずは、知らせない」
キッパリと迷いなく言い切れば、彼が息をつめる気配を感じる。
「言ったところで不安にさせるだけだ。まだ確実な情報もないわけだし、続報が入ってから対策を立てた上できちんと告げてやりたい」
せっかく島の生活にも慣れて、夫婦の生活も軌道に乗ってきたところだ。変に不安だけを煽るのは避けたい。
何より、彼女が自分たちに迷惑をかける事を気にするだろう事は容易に想像がついた。
「だから、リリーに聞かれても、隠し通そうとしていた。すまない。」
そう詫びると、リリーは静かに頷いて自身の手で涙を拭うと。
「バカねぇ。バレバレだったわ。むしろその方が不安だったんだから!」
といつものような勝気な口調で言った。
0
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
スローライフ 転生したら竜騎士に?
梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる