無職で何が悪い!

アタラクシア

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3章「美しき水の世界」

80話「重なる思考!」

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――数時間後。


夕焼け空の下。カエデはトコトコと歩いていた。若干顔はやつれている。

「……そうだよ。もしかしたら同姓同名の人かもしれないし。そもそも髪が灰色なんだよ。違う違う。そんなわけないさ。あの子は俺よりも身長高かったし……」

ブツブツ呟き続けるカエデ。道行く人がカエデを不思議そうに見つめていた。傍から見ればただの不審者。見られてるだけならまだマシだ。


立ち直ったカエデではあったが、完全にはまだ立ち直れていない。なのでヘキオンの言った女の子のことはロードでは無い、と思い込むことにしたのだ。

「うんうんそうだそうだ。人違いだ人違い。そのはずなんだ……」

まだカエデはロードのことを実際に見たわけじゃない。だからこそこう思い込むことができる。


「――よし!考えるのやーめた!それよりもこれからヘキオンと夜ご飯に行くんだ……あーでも先に食べちゃってるかな。夜に集合としか言ってないし。……ホテルに集合って頭おかしいな。変態って思われてないかなぁ」

大雑把な性格だが、変なところで心配症。確かにホテルに集合はちょっとやばい気もするが。

「それよりも服だな。風呂には入ったから服を整えないと。……高い店に行くなら何がいいかな。とりあえず店に行って見るか。夜まで時間もないことだし」

暗い雰囲気をとっぱらい、近くのブティックへとカエデは脚を運んだのだった。





――1時間後。


夜に落ちたベネッチア。昼間とは違い静かでクールな世界。辺りに漂うのは静寂と人の声。

そんなベネッチア。そこにあるサンライトホテル。その前に男は立っていた

「……」

白いジャケット。同じく白色の襟付きトップス。またまた同じく白色のスラックスに革靴。

この気合を入れた服装をしている男はカエデ。見た目はセレブ。グラサンをかければレッドカーペットに招待された有名俳優だ。

髭も剃り、髪も散髪。清潔感もバッチリ。ここだけ見れば冒険者とは思えない。荒々しい様子も感じられない。アダルトで危険な雰囲気。これなら女性にもモテモテ……といかないのが人生。

「花でも買ってきたらよかったかな……いやそれはキザすぎるな」

だがこの男の目的はひとつ。女性からモテることではない。


「――あっカエデさん!」
「ぶッッッ――」

にモテたいのである。ちなみに今、好きな人の姿にノックアウトされたのは言うまでもない。




背中をサスサスされているカエデ。心配そうにさすり続けるヘキオン。

「大丈夫ですか……?」
「う、うん大丈夫」

鼻血を紙で拭き取る。幸先悪いスタートだが本当に大丈夫だろうか。

「夕食は食べた?」
「まだです」
「じゃあ食べに行く?」
「はい!」




割と明るい夜道。道すれ違う人々はカップルばかり。それもセレブの。腕に抱きつく女にそれと仲良さそうに話す男。なんだか知らないが怖い。


そしてそんな人達の横を通り過ぎるカエデとヘキオン。

カエデの頭の中をひっくり返してなんとか話の話題をかき集めていた。できるだけ楽しい会話をしてヘキオンを振り向かせる。今回のカエデの目的はそれ。


ヘキオンの頭の中は違う。昼間の話。ロードの言っていたことが気になって気になって仕方ないといった感じだ。

過去の話を聞いてみたいが、あんな悲惨な出来事を聞くというのは失礼ではないか。忘れようとしていた記憶を思い出させてしまうだけではないか。そう考えている。その考えは当たり前。普通の人の思考だ。

しかし気になるのも普通の人の思考。聞いてはダメと分かっていても気になってしまう。


「その服――」
「カエデさ――」

声が重なる。出そうとしていた声を同時に引っ込める。……気まずそうな空間。

全てを聞いてはいないが、重要度で言えば絶対ヘキオンの質問の方が重要。それは間違いないといえるだろう。


しかし先に口を開いたのはカエデであった。

「……その服……じゃなかった。そのドレス綺麗だね」
「あ……はい。ありがとうございます」
「いやドレスも綺麗なんだけど、ドレスを着ているヘキオンも綺麗だなーってさ!」
「あはは……ありがとうございます」

手応えを感じていない様子。肩を落とす。ヘキオンは正直それどころではない。気になることが多すぎて頭がショートしかかってる。


「……あの、カエデさん」
「ん?なに?」

口を開いたのはヘキオン。重い雰囲気を感じ取ったカエデが肩を上げる。

「ロードちゃんから話を聞きました……その……なんて言えばいいか」
「へぇロードから……」

やっぱり肩を落とす。思い込もうとしていたのに、もう確定してしまった。逃げられないとはまさにこのこと。

「色々と聞きたいことはあります……でもそういうプライベートなことは踏み入ってはダメだと思うんです」
「……俺もそうしてくれると助かる」
「でも一つだけ聞かせてください」

じっと力強い目。好きな人に見つめられると恥ずかしくなるのが男の子。サラッと目を逸らす。



「――カエデさんって小さい頃は弱かったって本当ですか!?」
「えっあっそこ?もっと聞きたいことないの?」
「だって今とのギャップがすごいんですもん!ロードちゃんは『泣き虫で弱虫。あとチビで頭も悪かったなぁ……それとむちゃくちゃ弱かった』って言ってたし!」
「あの子……そりゃあ実際にそうだったから否定はしないけど……」

頭を抱える。好きな人に自分の小さい頃を暴露されるのはとても恥ずかしい。しかもヘキオンの前ではカッコつけていたカエデだ。

「……ロードちゃんとは幼馴染だったんですよね?」
「まぁそうだよ。あの子にはあんまりいい思い出なかったけど……死ぬほど虐められたし」
「えー。ロードちゃん優しいですよ」
「他人の前では優しいよ……待って。思い出しただけでゾッとしてきた」
「一体何をされたんですか……?」
「……言いたくない」

言いたくない、と言い切るほどの内容なのか。気になりはする。しかしそれよりもヘキオンの中では恐怖の方が強かったのだった。











続く
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