38 / 70
間章 雨の降る前
第37話 あなた達を包む者
しおりを挟む
最悪な朝は止まることを知らず。カラスの死骸は毎日のように家の前へ置かれていた。
次の日も。
その次の日も。
そのまた次の日も。
警察は『パトロール中には不審な人物は見なかった』と言っている。……喜久は信用することができなかった。
かといってずっと引きこもるのも無理がある。カラスが置かれる度に喜久は庭へ死体を埋めて村雨を幼稚園へと送っていった。
ストレスも溜まるに決まっている。日々の仕事も合わさって喜久と海琴は体調を悪くしていった。
そんな時――夜に戸を叩く音が聞こえた。警戒しながらも出てみると――居たのは喜久の兄である陸であった。
「よ!元気そうだな!」
「……」
「――なんて様子でもないよな」
弟のことを聞いて兄夫婦が家へとやってきたのだ。
「疲れてるわね。大丈夫?」
「大丈夫……ではないです」
萩花は海琴とも仲が良い。この一件を聞いて居ても立っても居られなくなったようだ。
「村雨ちゃんは?」
「――ここだよ!」
「おー!お前は元気だなー!」
机の下から飛び出してきた村雨をワシャワシャと撫でる。……そんな村雨を見て2人はため息をついた。
「……実家へ帰れ。流石に疲れすぎだ」
顔はニコニコながらも声は低く。真面目に心配している様子であった。
「だが仕事が……」
「――村雨ちゃんのことの方が大事でしょう」
――萩花の圧に負けた喜久と海琴は首を縦に振るしかなかった。
というわけで帰省した3人。まだギリギリ活気のある日和佐町の中。出迎えたのは喜久の父親である官寺であった。
「――久しぶりだな村雨ちゃーーん!!」
「おじいちゃん久しぶり!」
――親は子に似るというか。父親も叔父も村雨に対する態度があまり変わらない。海琴も久しぶりにクスッと笑った。
「悪いな親父」
「ご迷惑をかけます」
「いいっての。俺も村雨に会えるのが楽しみなんだよ。仕事もどうせ休みだしなー」
「――まったく。いい迷惑よ」
家へ入ると喜久の母親である菫が小言を言ってきた。
「たかが動物の死骸を置かれた程度で弱って情けない。大人2人がそれでどうするの」
「……すみません」
「特に海琴さん。貴女は身篭っているのでしょう。気を強く持たないでどうするの。子供に影響があったら責任が取れるの?」
「――菫の言うことは気にせんでいーぞ」
村雨を肩車しながら官寺は言う。
「そいつ俺よりお前らが来ることを楽しみにしてたんだからな」
「――べ、別にそんなこと!」
「その割には豪華な飯だよなぁ」
……机の上には確かに豪華な食事。見るだけで涎が出てくるような飯がずらりと。しかも村雨、喜久、それどころか海琴の好物までたっぷりと皿に乗ってある。
「そ……それは……お腹の子がすくすく育つように、ってだけよ!」
「お母様……ありがとうございます」
「……ふん。謝る時間があるならさっさと食べるわよ」
夜の縁側で海琴は外の景色を見ていた。涼しい風が気持ちいい。それでいて木の葉という冬の残り香もしてくる。
そこへ――パジャマ姿の菫がやってきた。
「何してるの。早く寝なさい」
「あ、すみません――」
「――まぁ?どうしてもって言うならお茶もあるけど」
――湯気の立っているお茶を海琴の横に置いた。
「……いただきます」
微笑みながら茶を口にする。
「……」
「……」
「……はぁ。ダメね」
菫はため息をついた。
「今更心配の言葉をかけるのを恥ずかしく感じてしまうわ」
「……言葉じゃなくて行動で分かっています」
「なによ生意気なこと言うわね」
そんなことを言いつつも嬉しそうに笑う。
「体の方は大丈夫?」
「ええ、本当にありがとうございます」
「いいのよ。あんた達の幸せが私たちにとって一番大切なんだから」
――恐怖。疲れ。ストレス。全てに押しつぶされそうになっていた海琴にとってその言葉はあまりにも優しく。暖かく。思わず涙を流してしまった。
「ちょっとちょっと。私が泣かせたみたいじゃないの」
「お義母さんに泣かされたんですよ……!」
背中を撫でる手も優しく。涙はさらに溢れてくる。
「――ここは安全よ。ゆっくりお休みなさい」
海琴の涙が月の光でキラリと煌めいた。
次の日も。
その次の日も。
そのまた次の日も。
警察は『パトロール中には不審な人物は見なかった』と言っている。……喜久は信用することができなかった。
かといってずっと引きこもるのも無理がある。カラスが置かれる度に喜久は庭へ死体を埋めて村雨を幼稚園へと送っていった。
ストレスも溜まるに決まっている。日々の仕事も合わさって喜久と海琴は体調を悪くしていった。
そんな時――夜に戸を叩く音が聞こえた。警戒しながらも出てみると――居たのは喜久の兄である陸であった。
「よ!元気そうだな!」
「……」
「――なんて様子でもないよな」
弟のことを聞いて兄夫婦が家へとやってきたのだ。
「疲れてるわね。大丈夫?」
「大丈夫……ではないです」
萩花は海琴とも仲が良い。この一件を聞いて居ても立っても居られなくなったようだ。
「村雨ちゃんは?」
「――ここだよ!」
「おー!お前は元気だなー!」
机の下から飛び出してきた村雨をワシャワシャと撫でる。……そんな村雨を見て2人はため息をついた。
「……実家へ帰れ。流石に疲れすぎだ」
顔はニコニコながらも声は低く。真面目に心配している様子であった。
「だが仕事が……」
「――村雨ちゃんのことの方が大事でしょう」
――萩花の圧に負けた喜久と海琴は首を縦に振るしかなかった。
というわけで帰省した3人。まだギリギリ活気のある日和佐町の中。出迎えたのは喜久の父親である官寺であった。
「――久しぶりだな村雨ちゃーーん!!」
「おじいちゃん久しぶり!」
――親は子に似るというか。父親も叔父も村雨に対する態度があまり変わらない。海琴も久しぶりにクスッと笑った。
「悪いな親父」
「ご迷惑をかけます」
「いいっての。俺も村雨に会えるのが楽しみなんだよ。仕事もどうせ休みだしなー」
「――まったく。いい迷惑よ」
家へ入ると喜久の母親である菫が小言を言ってきた。
「たかが動物の死骸を置かれた程度で弱って情けない。大人2人がそれでどうするの」
「……すみません」
「特に海琴さん。貴女は身篭っているのでしょう。気を強く持たないでどうするの。子供に影響があったら責任が取れるの?」
「――菫の言うことは気にせんでいーぞ」
村雨を肩車しながら官寺は言う。
「そいつ俺よりお前らが来ることを楽しみにしてたんだからな」
「――べ、別にそんなこと!」
「その割には豪華な飯だよなぁ」
……机の上には確かに豪華な食事。見るだけで涎が出てくるような飯がずらりと。しかも村雨、喜久、それどころか海琴の好物までたっぷりと皿に乗ってある。
「そ……それは……お腹の子がすくすく育つように、ってだけよ!」
「お母様……ありがとうございます」
「……ふん。謝る時間があるならさっさと食べるわよ」
夜の縁側で海琴は外の景色を見ていた。涼しい風が気持ちいい。それでいて木の葉という冬の残り香もしてくる。
そこへ――パジャマ姿の菫がやってきた。
「何してるの。早く寝なさい」
「あ、すみません――」
「――まぁ?どうしてもって言うならお茶もあるけど」
――湯気の立っているお茶を海琴の横に置いた。
「……いただきます」
微笑みながら茶を口にする。
「……」
「……」
「……はぁ。ダメね」
菫はため息をついた。
「今更心配の言葉をかけるのを恥ずかしく感じてしまうわ」
「……言葉じゃなくて行動で分かっています」
「なによ生意気なこと言うわね」
そんなことを言いつつも嬉しそうに笑う。
「体の方は大丈夫?」
「ええ、本当にありがとうございます」
「いいのよ。あんた達の幸せが私たちにとって一番大切なんだから」
――恐怖。疲れ。ストレス。全てに押しつぶされそうになっていた海琴にとってその言葉はあまりにも優しく。暖かく。思わず涙を流してしまった。
「ちょっとちょっと。私が泣かせたみたいじゃないの」
「お義母さんに泣かされたんですよ……!」
背中を撫でる手も優しく。涙はさらに溢れてくる。
「――ここは安全よ。ゆっくりお休みなさい」
海琴の涙が月の光でキラリと煌めいた。
0
あなたにおすすめの小説
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/16:『せきゆすとーぶ』の章を追加。2026/1/23の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/15:『しばふ』の章を追加。2026/1/22の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
【完結】百怪
アンミン
ホラー
【PV数100万突破】
第9回ネット小説大賞、一次選考通過、
第11回ネット小説大賞、一次選考通過、
マンガBANG×エイベックス・ピクチャーズ
第一回WEB小説大賞一次選考通過作品です。
百物語系のお話。
怖くない話の短編がメインです。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる