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アザラシの救出
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ある日,母親がホタルに突然大きな報告をした。
母親が妊娠していると聞いて,ホタルは,腰を抜かした。すでに16歳誕生日を迎え,数年で成人式が開かれる歳になる自分は,てっきり,このまま一人っ子だと思い込んでいたから,ショックが大きかった。
母親の懐妊が意味していることを考えると,ますます複雑な心境になった。自分は,母親の子ではあるが,英介の実子ではない。母親がこのタイミングで妊娠したということは,母親と英介の子供がついに出来たということを意味している。いわゆる嫡出子として生まれて来るその子の方が,自分より,二人に幸せをたくさん与えることになるのだろう。自分の存在が母親の英介に対する裏切りの証であるのに対し,今度生まれて来る子は,その裏切りを乗り越え,絆を修復した愛の証になるような気がした。そう思うと,自己嫌悪に陥りそうになったから,気分転換に海辺を散歩することにした。
すると,大変な光景に出くわし,すぐにヒカルを呼びに行った。
「今すぐ,来て!」
ホタルが突然息を切らし,ヒカルの家の前に現れた。
「どうした?」
ここまで焦っているホタルを初めて見たヒカルは,驚いて訊いた。
「いいから,来て!…あ,そうだ!救急箱ある?」
ホタルがふと思い出したかのように付け加えた。
「あるけど…。」
ヒカルは,訳がわからずに,答えた。
「持って来て!」
ホタルがヒカルを急かすような口調で言った。
ヒカルには,ホタルがここまで焦る訳がわからなかったが,ホタルの慌てた表情を見る限り,どうやら,只事ではないらしい。急いで,災害用の避難バッグに入れている救急箱を取り出し,ホタルに渡した。
「行こう!」
ホタルは,救急箱を受け取るなり,また走り出して行った。
ヒカルは,追いつこうとしたが,さすがに,歳の差には勝てずに,ホタルよりだいぶ遅れて,海辺に着いた。
息を切らし,海辺に着いたヒカルは,息を整える間もなく,驚きの声が喉から漏れ出た。釣り網にアザラシが2匹絡まり,動けなくなっていた。片方は,怪我をしたらしく,腹の傷から血を流していた。
ホタルは,ヒカルに何も言わないまま,2匹のアザラシを救出しようと,救急箱を開け,せっせと釣り網を切り始めた。
ヒカルは,アザラシを網から出したら,すぐに傷の手当てが出来るように,綿を消毒液につけ,包帯を用意した。
アザラシは,釣り網が切れても,まるで状況をわかっているかのように,少しも暴れずに,じっと待っていた。ヒカルが腹部を怪我したアザラシを抱き上げても,不思議なくらい落ち着いていて,逃げようとはしなかった。
「フックが入っているわ!」
アザラシの傷をよく調べてから,ホタルが言った。
二人は,傷に挟まったフックを取ってから,傷を消毒し,包帯を巻いた。怪我していない,もう片方のアザラシは,一部始終,少し離れたところから二人の動きを注意深く観察した。
「今更だけど…消毒液や包帯は,アザラシに使ってもいいものなのかな…?」
ホタルが不安そうに言った。
「知らないけど…それしかないから…。」
ヒカルが言った。
包帯を巻いてもらい,手当てが終わると,アザラシ2匹は,ホタルとヒカルを不思議そうな表情で,数分見つめてから,波の中へ姿を消した。
「怪我した方は,泳げるかな?」
ヒカルが心配そうに言った。
「…戻って来ないから,泳げたみたいだね。」
ホタルがつぶやいた。
「ねぇ,さっきのアザラシ…僕たちの親だったりして…。」
ヒカルがためらいがちに言ってみた。
「…まさか!」
ホタルが思わず吹き出して,ごまかしたが、同じことを考えヒカルを呼びに行ったのは,否めない事実だった。
「もし,そうだったとしても…きっと言ってくれないよ。」
ホタルが考え深く付け足した。
ヒカルは,網に絡まってしまったアザラシのことがどうしても振り切れなくて,母親に会って,無事を確認したくなった。
ヒカルが海辺まで行ってみると,母親はすぐに現れた。いつもとは少しも変わらない様子で,腹部には傷や傷痕もなくて,ヒカルは安心した。
「ヒカル,ありがとう!」
母親がヒカルの顔を見た途端に,突然言った。
「なんで?」
ヒカルが怪しんだ。ホタルと救出したアザラシは,やっぱり親だったのだろうか?
「…やっぱり,お母さんたちだった?」
ヒカルが躊躇しながら,あえて訊いてみることにした。
「え?…なんの話?」
母親がキョトンとした表情をして,聞き返した。
ヒカルには,母親のとぼけた反応が演技なのか,本当なのか,見極めることが出来なかった。
「さっきの「ありがとう」は?アザラシを助けたお礼じゃなかったの?」
ヒカルが追求した。
「さあ…。」
母親が不思議そうな笑みを浮かべて,言った。
やっぱり,はっきりと答えるつもりはないのだとヒカルは,それ以上追求するのを諦めることにした。
母親は,相変わらず,謎が多いが,逃げるように慌てて帰ることがなくなったのは,有り難かった。会う時は,長い時間一緒にいてくれるし,間隔を空けなくても,2日や3日連続でも、会ってくれるようになっていた。
母親が妊娠していると聞いて,ホタルは,腰を抜かした。すでに16歳誕生日を迎え,数年で成人式が開かれる歳になる自分は,てっきり,このまま一人っ子だと思い込んでいたから,ショックが大きかった。
母親の懐妊が意味していることを考えると,ますます複雑な心境になった。自分は,母親の子ではあるが,英介の実子ではない。母親がこのタイミングで妊娠したということは,母親と英介の子供がついに出来たということを意味している。いわゆる嫡出子として生まれて来るその子の方が,自分より,二人に幸せをたくさん与えることになるのだろう。自分の存在が母親の英介に対する裏切りの証であるのに対し,今度生まれて来る子は,その裏切りを乗り越え,絆を修復した愛の証になるような気がした。そう思うと,自己嫌悪に陥りそうになったから,気分転換に海辺を散歩することにした。
すると,大変な光景に出くわし,すぐにヒカルを呼びに行った。
「今すぐ,来て!」
ホタルが突然息を切らし,ヒカルの家の前に現れた。
「どうした?」
ここまで焦っているホタルを初めて見たヒカルは,驚いて訊いた。
「いいから,来て!…あ,そうだ!救急箱ある?」
ホタルがふと思い出したかのように付け加えた。
「あるけど…。」
ヒカルは,訳がわからずに,答えた。
「持って来て!」
ホタルがヒカルを急かすような口調で言った。
ヒカルには,ホタルがここまで焦る訳がわからなかったが,ホタルの慌てた表情を見る限り,どうやら,只事ではないらしい。急いで,災害用の避難バッグに入れている救急箱を取り出し,ホタルに渡した。
「行こう!」
ホタルは,救急箱を受け取るなり,また走り出して行った。
ヒカルは,追いつこうとしたが,さすがに,歳の差には勝てずに,ホタルよりだいぶ遅れて,海辺に着いた。
息を切らし,海辺に着いたヒカルは,息を整える間もなく,驚きの声が喉から漏れ出た。釣り網にアザラシが2匹絡まり,動けなくなっていた。片方は,怪我をしたらしく,腹の傷から血を流していた。
ホタルは,ヒカルに何も言わないまま,2匹のアザラシを救出しようと,救急箱を開け,せっせと釣り網を切り始めた。
ヒカルは,アザラシを網から出したら,すぐに傷の手当てが出来るように,綿を消毒液につけ,包帯を用意した。
アザラシは,釣り網が切れても,まるで状況をわかっているかのように,少しも暴れずに,じっと待っていた。ヒカルが腹部を怪我したアザラシを抱き上げても,不思議なくらい落ち着いていて,逃げようとはしなかった。
「フックが入っているわ!」
アザラシの傷をよく調べてから,ホタルが言った。
二人は,傷に挟まったフックを取ってから,傷を消毒し,包帯を巻いた。怪我していない,もう片方のアザラシは,一部始終,少し離れたところから二人の動きを注意深く観察した。
「今更だけど…消毒液や包帯は,アザラシに使ってもいいものなのかな…?」
ホタルが不安そうに言った。
「知らないけど…それしかないから…。」
ヒカルが言った。
包帯を巻いてもらい,手当てが終わると,アザラシ2匹は,ホタルとヒカルを不思議そうな表情で,数分見つめてから,波の中へ姿を消した。
「怪我した方は,泳げるかな?」
ヒカルが心配そうに言った。
「…戻って来ないから,泳げたみたいだね。」
ホタルがつぶやいた。
「ねぇ,さっきのアザラシ…僕たちの親だったりして…。」
ヒカルがためらいがちに言ってみた。
「…まさか!」
ホタルが思わず吹き出して,ごまかしたが、同じことを考えヒカルを呼びに行ったのは,否めない事実だった。
「もし,そうだったとしても…きっと言ってくれないよ。」
ホタルが考え深く付け足した。
ヒカルは,網に絡まってしまったアザラシのことがどうしても振り切れなくて,母親に会って,無事を確認したくなった。
ヒカルが海辺まで行ってみると,母親はすぐに現れた。いつもとは少しも変わらない様子で,腹部には傷や傷痕もなくて,ヒカルは安心した。
「ヒカル,ありがとう!」
母親がヒカルの顔を見た途端に,突然言った。
「なんで?」
ヒカルが怪しんだ。ホタルと救出したアザラシは,やっぱり親だったのだろうか?
「…やっぱり,お母さんたちだった?」
ヒカルが躊躇しながら,あえて訊いてみることにした。
「え?…なんの話?」
母親がキョトンとした表情をして,聞き返した。
ヒカルには,母親のとぼけた反応が演技なのか,本当なのか,見極めることが出来なかった。
「さっきの「ありがとう」は?アザラシを助けたお礼じゃなかったの?」
ヒカルが追求した。
「さあ…。」
母親が不思議そうな笑みを浮かべて,言った。
やっぱり,はっきりと答えるつもりはないのだとヒカルは,それ以上追求するのを諦めることにした。
母親は,相変わらず,謎が多いが,逃げるように慌てて帰ることがなくなったのは,有り難かった。会う時は,長い時間一緒にいてくれるし,間隔を空けなくても,2日や3日連続でも、会ってくれるようになっていた。
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