アザラシの華

Yonekoto8484

文字の大きさ
14 / 14

アザラシの華

しおりを挟む
ある日、ヒカルの母親は、「話がある。」と突然ヒカルを呼んだ。

「どうした?」
ヒカルが素直に尋ねた。

「落ち着いて聞いて欲しいんだけど…
もしよかったら…私の皮を返して欲しい。」
母親が言いにくそうに、息子に申し出た。

「え⁉︎なんで⁉︎」
ヒカルは、うろたえた。本来海を気ままに泳ぎ回り自由に暮らす生き物の母親は、陸での暮らしは窮屈だと感じるのかな?やっぱり、母親にとっては、子供のことより、自分の自由の方が大事なのかな?

「兄のことについて、色々考える中で思ったんだけど、ヒカルがたとえどんなにうまくあの皮を隠したとしても、他人には見つからないという保証はない。そして、万が一、他人の手へ渡ってしまうと、取り返しのつかないことになる。

あの皮を盗られてしまうと、私は自分のことを自分では、全くコントロール出来なくなる。要するに、ヒカルのことも、守れなくなる。あの皮を私の手で守ることは、自分を守ることであると同時に、ヒカルを守ることにもなる。

だから、お願いすることにした。」
母親が切実にヒカルに訴えた。

「でも、返したら、海に帰らないといけないでしょう?」
ヒカルが尋ねた。

母親が悲しそうに頷いてから、言った。
「帰らないといけないけど、自分の皮を自分の手に持つ限り、私は自分の主だから、前みたいにあなたに会いに来れる。あの皮を盗られてしまったら、もう2度と、あなたには会えないかもしれない…。」

ヒカルは、しばらく黙って考えた。母親の言っているは、よくわかる。筋は、通っている。いわゆる、正論というものである。自分が母親の考えに、反対する理由はただ一つ、寂しくなるからだ。しかし、それは、単なる我儘であることに気づいた。長い間を置いてから、ヒカルはようやく頷いた。
「わかった…返すよ。」

静かにヒカルの返事を待っていた母親は、目に涙を浮かべて、ヒカルを誇らしく見た。
「わかってくれて、ありがとう。」

「残念だけど…僕のアザラシの華がまだ見つかっていないし…。」
ヒカルがつぶやいた。

「たった今、見せてもらったよ。」
ヒカルの母親が嬉し涙を流して、言った。

ヒカルの母親が旅立った日は、ホタルも、一緒に見送りに行った。
「アドバイス、ありがとう。」

「いえいえ、一応兄の子だから。」
ヒカルの母親が笑顔で言った。

「じゃ、ヒカル、またいつでも呼んでね。呼んでくれたら、ちゃんと来るから。あなたも、またね。」
ヒカルの母親が二人に挨拶をした。

ヒカルが頷くと、ヒカルの母親はすぐに波へ姿を消した。

母親の姿が見えなくなっても、いつまでも洋々と広がる碧海を物欲しそうに眺め続けるヒカルを見て、ホタルが彼の肩に手を掛けた。
「また会えるよ、きっと。」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

処理中です...