風太と龍神たち

Yonekoto8484

文字の大きさ
2 / 5

雪の龍神

しおりを挟む
気がついたら,雪の舞う銀世界の中に立っていた。

地面は,足跡の一つない,真っ白な雪に埋もれ,陽射しがその表面に反射し,ギラギラと光る。谷を囲んでいる山の頂点も,真っ白になっている。雪がちらちらと風の中で舞い回り,頬に当たる。目の前にある洞窟や樹々にも雪が積もり,氷柱が出来ている。

とても静かで,何処を見ても,人の気配がしない。人間の住まいらしいものも,何処にもない。眩しくて,白い景色が果てしなく広がっているだ。

突然,生き物が動き回る音がしたと思いきや,凛とした龍が洞窟の中から出て来て,興味深く風太を見つめた。

龍は,雪と同じ濁りのない白い色で,四本の足でのしのしと,風太に徐ろに近付いて行った。龍が歩くと、足元の雪が凍って,氷に変わるから,洞窟から細長い氷道が出来ていた。龍が歩き進むにつれて,氷道も少しずつ伸びていく。

風太が怖くなり,言った。
「止まれ!それ以上,近づくな!」

すると,龍が足を止め,鋭い目で風太の目を覗いた。

「龍を見るのは,初めてか?」
龍が深くて,威厳のある声で訊いた。

「はい。」
風太が龍と目を合わせずに,目を逸らして,つぶやいた。

龍は,自分は,龍神であることと,龍神はみんな,歳になると,自然の力を一つ選び,その力を司ることになっていることを説明した。

「じゃ,あなたは,どの力を選んだのですか?」

「私は,雪を降らせたり,ものを凍らせたりする力,冬の力を司る龍神だ。」
龍が,響くような声でそう言うと,地面に向かって,ゆっくりと,息を吐いた。すると,地面に積もっていた雪が舞い上がり,ぐるぐると回り始めた。いよいよ,雪が動きを止めると,花の形をした氷の彫刻になっていた。太陽の光が彫刻の表面に映り,キラキラと結晶のように光った。美しかった。

「どうして,冬を選んだのですか?」
風太は,龍神の披露する技に感心しながら,尋ねた。

「冬は,大事なことを私たちに教えるからである。
冬になると,動物が冬眠し,春になるまで眠る。植物は,葉や花びらを全部落とし,一度枯れて,じっと休む。
みんなは,早く自分の夢を叶えたいから,早く花を咲かせようと,焦る。でも,そうするためには,じっと力を蓄える時期も,必要なのだ。突き進む前に,まず,力をつけなくちゃならない。立ち止まる必要がある。
冬が全ての生き物に,立ち止まり、じっとする時間を与えるのだ。次に向かって,突き進めるように。

あなたは?何か夢があるのかい?」
龍神が颯太の目を真っ直ぐに見て,尋ねた。

龍神の質問にどう答えたら良いのか,風太には,よくわからなかった。自分の夢について,本気で考えたことがない。自分には,夢のようなものはないと思うが、そう言わない方がいいと思った。小さい頃は,よく空が飛んでみたいと思ったがあるが,それが夢の類に入るのかどうかすら,よくわからなかった。答えずに,質問をすることにした。

「凄い力ですね。龍神の力の中で,冬の力は一番強いですか?」
風太が訊いた。

「そのことはない。火の龍神が口を開けるだけで,どんな寒い冬でも,あっけなく終わってしまうのだから。」
龍神が首を横に振って,答えた。

雪の龍神がそう答えると,風太の目の前の景色が,ガラッと変わり始めた。銀世界が緑の世界に変わり,凛々とした冬の風が穏やかでぬるい風に変わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

処理中です...