4 / 48
節分
しおりを挟む
学校訪問をしていると,驚くような文化体験も沢山出来た。その中でも,一番驚いたのは,幼稚園の節分行事だった。
先生たちが全校の園児たちを幼稚園の一番広い「遊戯室」に集めて,説明を始めた。今日は,節分だから,近くの山に住む鬼が今からやって来ると。みんなにやっつけてもらいたいから、今から豆を配ると。
小さな手作りの紙袋を持っていた園児たちは,みんな鬼がいつ飛び出してくるのかと辺りをキョロキョロしながら,列を作り,鬼をやっつけるための豆を配ってもらった。
豆を配り終わり、豆を投げるときの掛け声は,「鬼は外、服は内!」だよと説明し終わるや否や,いきなり鬼の格好をした保護者が怖い唸り声を出しながら,遊戯室の中へ乱入して来た。
ここまでは,予想できていたが、次何をするかと思ったら、何と鬼が教頭先生を捕まえ,手や足を紐で括り,人質にしてしまったのだ。この意外な展開に、子供たちも,私も,びっくり仰天した。
年少さんや年中さんは,目の前の光景が恐ろしすぎて,怖くなって,号泣し出した。鬼が登場してもあまり動揺していなかった年長さんでさえ、教頭先生が人質にされたのを見ると、さすがに怯えた。泣きそうになっている子も,沢山いた。
顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくる子供たちだらけの混沌とした状況に陥ってしまった幼稚園の遊戯室に,身を拘束されていない先生たちが現れ,子供に豆を投げ,鬼を退治するように促したが,年少さんや年中さんの園児たちはとてもそれどころではない。呼吸困難になっていないかな?と心配するほど激しく全身を恐怖で震わせながら咽び泣き続ける。
年長さんだけ,これまでの二年間分の経験と知恵を活かそうと,気を取り直し,鬼に向かって,豆を投げ始めた。
鬼は,子供たちが豆を投げ始めると,意外とあっさりと,人質の教頭先生の手や足を括っていた紐を解き,遊戯室から逃げ出した。
私は,鬼が登場してすぐに助けを求めて,私にしがみついて来た,年少の女の子を背中を撫でたりして,慰めようとしたが,鬼が逃げても,しばらく震えながら泣き続けていた。可哀想だった。
鬼がいなくなると,本気で教頭先生のことを心配している園児たちが,教頭先生を囲み,
「大丈夫?」や,「怖かった?」など,涙の粒を顔につけたまま,質問した。
「うん,すごく怖かったけど,みんな助けてくれたから,もう大丈夫!ありがとう!」と教頭先生が真剣な顔で言う。先生も演技が上手い。
私にしがみついていた女の子がようやく少し落ち着いて,手を離してくれたと思いきや,何と,どう言うわけか,鬼が戻って来た!
鬼の顔が見えただけで,園児たちは,また大泣きしてしまった。
鬼は,「心を入れ替えた。もう悪いことはしない。よくわかった。教えてくれてありがとう。」と話し,改心したことを子供たちにアピールをしていたのだが,泣きじゃくる子供たちは,鬼の話を聞いていなかった。それどころではなかった。
鬼が二度と子供を脅かしたりしないと約束してから,また退場した。いなくなって少しすると,子供たちがまた落ち着いた。
そしたら,園長先生が前に出て,園児たちに言った。
「今は,鬼をやっつけたけど,節分はまだ終わっていないから,今夜またみんなのお家にも鬼が来るかもしれない。でも,やっつけ方がわかっているから,怖くないね?大丈夫だね?」
これを聞くと,たちまちのうちに,園児たちがまた顔を真っ赤にして,号泣し出した。
一体,何回泣かせる気なんだろう?日本では,幼い子供に,こういう教育をするのだと開いた口が塞がらなかった。
子供は,今後鬼を見るたびに,幼稚園での怖い体験を思い出し,泣くに違いない。トラウマになっても,おかしくない。そう思った。
このイベントを町の全ての学校で開催していたようで,翌年からも,私が毎年同じ光景を見ることになったのだが,何回見ても,子供たちが可哀想で仕方がなかった。
学校によっては,鬼の衣装がちゃんとしていなくて,子供たちが最初から,「なんだ!~ちゃんのお母さんだ!」と鬼の正体がバレている時もあったが,ほとんどは子供を泣かせて終わった。
私は,こうして,日本の「節分」という行事を知ったのだった。
先生たちが全校の園児たちを幼稚園の一番広い「遊戯室」に集めて,説明を始めた。今日は,節分だから,近くの山に住む鬼が今からやって来ると。みんなにやっつけてもらいたいから、今から豆を配ると。
小さな手作りの紙袋を持っていた園児たちは,みんな鬼がいつ飛び出してくるのかと辺りをキョロキョロしながら,列を作り,鬼をやっつけるための豆を配ってもらった。
豆を配り終わり、豆を投げるときの掛け声は,「鬼は外、服は内!」だよと説明し終わるや否や,いきなり鬼の格好をした保護者が怖い唸り声を出しながら,遊戯室の中へ乱入して来た。
ここまでは,予想できていたが、次何をするかと思ったら、何と鬼が教頭先生を捕まえ,手や足を紐で括り,人質にしてしまったのだ。この意外な展開に、子供たちも,私も,びっくり仰天した。
年少さんや年中さんは,目の前の光景が恐ろしすぎて,怖くなって,号泣し出した。鬼が登場してもあまり動揺していなかった年長さんでさえ、教頭先生が人質にされたのを見ると、さすがに怯えた。泣きそうになっている子も,沢山いた。
顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくる子供たちだらけの混沌とした状況に陥ってしまった幼稚園の遊戯室に,身を拘束されていない先生たちが現れ,子供に豆を投げ,鬼を退治するように促したが,年少さんや年中さんの園児たちはとてもそれどころではない。呼吸困難になっていないかな?と心配するほど激しく全身を恐怖で震わせながら咽び泣き続ける。
年長さんだけ,これまでの二年間分の経験と知恵を活かそうと,気を取り直し,鬼に向かって,豆を投げ始めた。
鬼は,子供たちが豆を投げ始めると,意外とあっさりと,人質の教頭先生の手や足を括っていた紐を解き,遊戯室から逃げ出した。
私は,鬼が登場してすぐに助けを求めて,私にしがみついて来た,年少の女の子を背中を撫でたりして,慰めようとしたが,鬼が逃げても,しばらく震えながら泣き続けていた。可哀想だった。
鬼がいなくなると,本気で教頭先生のことを心配している園児たちが,教頭先生を囲み,
「大丈夫?」や,「怖かった?」など,涙の粒を顔につけたまま,質問した。
「うん,すごく怖かったけど,みんな助けてくれたから,もう大丈夫!ありがとう!」と教頭先生が真剣な顔で言う。先生も演技が上手い。
私にしがみついていた女の子がようやく少し落ち着いて,手を離してくれたと思いきや,何と,どう言うわけか,鬼が戻って来た!
鬼の顔が見えただけで,園児たちは,また大泣きしてしまった。
鬼は,「心を入れ替えた。もう悪いことはしない。よくわかった。教えてくれてありがとう。」と話し,改心したことを子供たちにアピールをしていたのだが,泣きじゃくる子供たちは,鬼の話を聞いていなかった。それどころではなかった。
鬼が二度と子供を脅かしたりしないと約束してから,また退場した。いなくなって少しすると,子供たちがまた落ち着いた。
そしたら,園長先生が前に出て,園児たちに言った。
「今は,鬼をやっつけたけど,節分はまだ終わっていないから,今夜またみんなのお家にも鬼が来るかもしれない。でも,やっつけ方がわかっているから,怖くないね?大丈夫だね?」
これを聞くと,たちまちのうちに,園児たちがまた顔を真っ赤にして,号泣し出した。
一体,何回泣かせる気なんだろう?日本では,幼い子供に,こういう教育をするのだと開いた口が塞がらなかった。
子供は,今後鬼を見るたびに,幼稚園での怖い体験を思い出し,泣くに違いない。トラウマになっても,おかしくない。そう思った。
このイベントを町の全ての学校で開催していたようで,翌年からも,私が毎年同じ光景を見ることになったのだが,何回見ても,子供たちが可哀想で仕方がなかった。
学校によっては,鬼の衣装がちゃんとしていなくて,子供たちが最初から,「なんだ!~ちゃんのお母さんだ!」と鬼の正体がバレている時もあったが,ほとんどは子供を泣かせて終わった。
私は,こうして,日本の「節分」という行事を知ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
書籍化の打診が来ています -出版までの遠い道のり-
ダイスケ
エッセイ・ノンフィクション
ある日、私は「書籍化の打診」というメールを運営から受け取りました。
しかしそれは、書籍化へと続く遠い道のりの一歩目に過ぎなかったのです・・・。
※注:だいたいフィクションです、お察しください。
このエッセイは、拙作「異世界コンサル株式会社(7月12日に電子書籍も同時発売)」の書籍化の際に私が聞いた、経験した、知ったことの諸々を整理するために書き始めたものです。
最初は活動報告に書いていたのですが「エッセイに投稿したほうが良い」とのご意見をいただいて投稿することにしました。
上記のような経緯ですので文章は短いかもしれませんが、頻度高く更新していきますのでよろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる