星が降りそうな港町

Yonekoto8484

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歌子との蜜月の日々とダンス

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歌子とは,ほぼ毎日会うようになった。会っていない時間も,日本語と中国語がごちゃ混ぜになったメールのやりとりをしょっちゅうするようになった。

メールでやりとりをしていると,歌子は,時々変なことを言うことがあった。

ある日,やりとりが終わり,「そろそろ寝るから,おやすみ。」と挨拶したら,中国語で,「夢の中で会いましょう。」と書かれたメール文が歌子から届いた。誰にも言われたことがなく,違和感を覚えたので,歌子に,「日本なら分からないが,中国ではあまりそういうことを言わない。恋人みたいだ。」と指摘すると,「恋人じゃん!」と冗談っぽく返された。

ある時,「あなたの喜びは私の喜びであり,あなたの悲しみは私の悲しみ。」という内容のメールももらったことがあった。自分がこれに対して,どう返事をしたのか,覚えていない。

「あなたは私にとって大切な人だ。私の娘たちと同じだ。一緒にいても疲れない。」
とも言われた。これに対して,「私も一緒にいても,疲れない。」と返事した。

ある日,歌子にいきなり誘われた。
「ちょうどツツジの季節だし、一緒に山登りしない?」

町を囲む山の一つは,ツツジの季節になると山一面にツツジが咲き誇り,町の名所となっている。山は,傾斜の強いところはほとんどなく,子供でも登れる山だ。

私は,暇だったので,すぐに「行く」と返事した。

歌子と合流すると,本当の目的を聞かされた。奏にもらった瓢箪の形をした御守りを先日一人で来た時に落とし,なくしてしまったのだった。

私も,奏から同じ御守りをもらっていたが,非常に小さいもので,中にさらに小さなパーツが入っているものだった。雨が降った後だったし,歌子の落とした御守りを見つけるのは,とても困難だと思った。雨で流されたに違いないと探し始める前から諦めていた。

歌子と山道を歩きながら,色々話した。私と同じ大学を出ているから大学生時代について色々尋ねてみた。すると,
「過去の話がしたくない。終わったことについて話すのは,時間がもったいない。」とぶっきらぼうに言われた。

「じゃ,どんな話題が好きですか?」と訊いてみると,

「孫の話題が好きだけど,奏には子供がいないから孫の話をなるべくしないようにしている。訊かれたら言うけど…。」
と歌子が返事した。

そう言われて,私は,歌子のお孫さんについてあれこれ訊きながら例の御守りを探し続けた。

すると,なんと見つかったのだ!山道の真ん中に流されずに落ちていたのだ。中に入っていた小さなパーツも,御守り本体のすぐ横に転がって落ちていた。奇跡だと思った。

歌子は,恋人同然の関係の奏からもらった大事なお土産であるだけに,非常に喜んだ。大事そうに鞄に付け直した。

ところが,その一週間後に,散歩中に外れて,またなくしてしまった。いくら探しても,見つからなかったそうだ。

一緒に花見もした。インターネットで調べた花見スポットのページを見せると、行きたいというから一緒に行くことになった。

ところが,特急電車に乗れば一時間で着ける距離なのに,歌子は特急料金を払うのがもったいないというから,三時間もかけて行くことになった。目的地に到着するまでの三時間余りを歌子が打ち合わせの時間だと考えていたようで,席に座った途端に,いつも持ち歩いている仕事ノートを出し,リストの一つ一つの項目を読み上げ,私にあれこれお願いしながら,仕事を片付けようとした。

三時間も経てば,さすがに疲れて来て,花見しながらも,歌子はこの打ち合わせを続けるのかな?と不安になって来た。帰りの電車も,三時間もあるし,耐えられないと思った。

しかし,電車を降りると,「よーし,切り替えよう!仕事はおしまい。今から観光をするんだから,楽しもう。」と歌子が,まるで私が電車内で,内心で呟いていたことが聞こえたかのように,言った。

私は,歌子のこの言葉を聞いて,ホッとした。

桜はちょうど満開になっていて,最高に美しかった。歌子は,子供のように,いっぱい声を出して,感動していた。感動した顔と声を見ていると,六十代のおばさんなのに,可愛らしく思えた。

歌子が,突然記念に二人で写真が撮りたいと言い出した。

「自撮りは難しいよ。」と写真が苦手な私が逃げようとすると,

「ツーショットがほとんどないじゃん。」と歌子が不満そうに言った。

確かに,奏も一緒に写っている写真なら,あるが,歌子と二人で写っている写真なんて,一枚もないかもしれないと思った。個人的には,私は,景色の写真だけで十分だと思ったが,歌子が撮りたいというから,協力した。

何とか,いい感じの写真が撮れた。歌子は,嬉しそうだった。

帰りも,打ち合わせかと思いきや,歌子は,ずっと余韻に浸っていて,仕事の話を一切しなかった。

私たちが住む町まで帰って来て,電車を降りると,「ありがとう。今日はいい日だったわ。」
と夢を見ているような顔で私にお礼を言った。

これも,可愛いと思った。

一方では,上司との話し合いはうまくいかなかった。

学校に行っていない時間に,歌子と国際交流イベントの企画や打ち合わせがしたいと言ったら,「それは仕事ではないので,それがしたければ年休を使ってやってください。」と言われた。

しかし,私からしたら,学校巡りより,国際交流イベントの企画の方が私に合った内容の仕事であり,ただ机に座り携帯をいじるより,ずっと有効な時間の使い方でもあると思った。

歌子に,国際交流組織の会長として,私の職場に対して,私の派遣をお願いするための正式な依頼文を作成し,私の上司に渡すようにお願いした。歌子が自分の知り合いに私のことを話したら,その人はたまたま町長と同級生だったようで,何と,町長と面談することも決まった。この町は,外の世界とは違い,全てがコネや人脈で動いていて,みんなが知り合い同士で繋がっていることをこの時に知った。

歌子がすぐに,依頼文を書いてくれた。上司も,依頼文をもらうと,勤務時間中に歌子と打ち合わせをすることを認めると言って,「仕事ではない。」と言ったことについても謝ってくれた。町長と面談する必要はなくなった。

この旨を歌子に報告すると,歌子が突然泣き出した。私が驚くと,嬉し涙だと言った。私が飼い殺し状態から解放され,やっと一緒に活動できるから嬉しいと説明した。自分でも泣かないようなことで,誰かが涙を流してくれるのは初めてのことで,とても感動した。この人は,本当に私の喜びを自分の喜びとして感じてくれていると確信し,歌子を信じることにした。

歌子の繋がりで,私をこの町に招聘した職員と話す機会もあった。この職員によると,昨年度までは教育委員会で勤めていたが,異動になり,今は違う部署にいると言う。この職員が私を呼ぶことについて町長を説得し,たまたま予算が付いたのは教育委員会だったから教育委員会配属になったが,異動になっていなければ,私が着任してから町長に直訴して,私を違う部署に異動させるつもりだったと話した。教育委員会だと,どうしても学校関係の仕事になるから。ところが,今は違う部署にいるから,口出しができないと言われた。市役所は,縦割り社会であることをこの頃はまだ知らなかったので,どうして口出しができないのか,私にはよくわからなかったが,私には心強い仲間が出来たから大丈夫だと思った。

私を,町長を説得し,招聘したのだから,活動計画を始め,どういう業務を担当させるかなどを記した書類はあるはずだと考え,尋ねた。私を呼んだ職員は,「そういうものは,作っていない。とりあえず,呼んだ。」と答えた。私は,それは,とても無責任だと思ったから,そう伝えた。怒っても,しょうがないことだったかもしれないが。

いつからか,私は,歌子がインストラクターを務めるダンス教室に通うようになっていた。どういう経緯で通うことになったのか,今では,もはや思い出せない。

リズム感が全くなく,お洒落なことをしたことがない私は,どんなにしつこく誘われても,歌子の誘いにはなびかなかったはずだった。それなのに,断らなかったようで,気づいたら,通っていた。

ステップというものには馴染みがなく,リズム感もなく,不器用で鈍臭い私は,みんなについていこうと四苦八苦した。ステップを覚えるのは,体が慣れていないから難儀で,くるくる回りながら,向きをみんなに合わせるだけで,やっとだった。

みんなの脚の動きには,何か理屈があるとわかってはいたが、ちんぷんかんぷんで,みんなを真似しようとしても,脚がもつれて,転けそうになるだけだから,ただ闇雲に,必死でくるくる回った。

ところが,ちょうど発表会前で,町のお寺で踊ることになっていたので,簡単な曲ばかりではなく,難しい曲も練習していた。難しい曲の中でも,テンポやステップが他の曲の何倍も速くなっているものが一曲あり,どんなに速くくるくる回っても,みんなと向きを合わせることすら出来なかった。くるくる回る作戦失敗,お手上げだった。

何をしても周りの人の足を踏んでしまうので,申し訳なくて,みんなの踊る輪から抜けた。そして,私はどうしてここにいるのだろう?と初めて疑問に思った。ダンスなんか,私にできるわけがないのにと内心で嘆いた。

ところが,私が抜けたことに気づいたあるおばさんが私に向かって手を差し伸べ,輪の中へ戻るように促した。そうされたら,戻るしかない。戻って,またあちこちで人とぶつかったり、足を踏んだりした。穴があったら,入りたい気持ちだった。
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