星が降りそうな港町

Yonekoto8484

文字の大きさ
2 / 48

歌子との出逢い

しおりを挟む
上司との話し合いは,真摯になって話を聞いてくれているように感じた。沢山頷いてくれた。

町の方針として,町民に中国語が話せるようになって欲しいので,協力して欲しいと言われた。でも,中国語を教えているのではなく,子供たちにコミュニケーションについて教えているという風に考えて欲しいとも言われた。

私のせっかくこれまで勉強してきて,日本に来たのだから,色々な経験がしたい,色んな仕事に挑戦したいという思いには,共感してくれた。「その気持ちがよくわかるし,力になりたい。他の部署にも,声をかけてみる。」と言ってくれた。

人を素直に信じ,疑う理由がなければ疑わなかったあの頃の私は,上司の言葉を信じ,わかってもらったと満足し,スッキリした。これで,問題を解決したとも思った。

ところが,時間ばかりが過ぎて,職場では,私の扱いは少しも変わらず,中国語指導以外の仕事が回ってくることもなかった。中国語指導の約束で埋まっている時間は,学校で過ごし,それ以外の時間は市役所で過ごすことになった。しかし,学校にいくと,ノーハウの全く身に付いていない中国語指導をこなすように求められる。市役所にいると,逆に,することがなくて,暇を持て余していた。どうすれば良いのか,わからなかった。

教育委員会には,私以外に外国人が二人いた。この二人は,本当の中国語教師だった。中学校と高校に通っていると話した。

私の置かれている状況について,すぐにわかってくれて,「何とかしなくちゃ!」と毎日のように私の背中を押してくれたのだが,来たばかりのよく知らない田舎の町である以上,私には,上司や上司の助手に訴えることしか思いつかない。他に何をすれば良いのか,誰に訴えれば,待遇は改善されるのか,わからなかった。立ち往生している状態だった。

そこへ,ある日,教育委員会には,新しい顔が突然現れた。

小柄の可愛らしい雰囲気のおばさんがいきなり私に中国語で話しかけてきたのである。中身は,訳の分からないものだった。

「今度,友人の自宅で,あなたのためにパーティーを開くんだけど,聞いているよね?」といきなり言われたのだ。

ところが,私は,パーティーについて何も聞いていなかったし,目の前に立っているおばさんがどうして赤の他人のはずの私のためにパーティーを開くのか,そもそもこのおばあさんがどこの誰なのか,分からない。

「パーティーのことは知らない。聞いていない。」
とだけ慎重に答えてみると,びっくりされた。

「聞いているはずだ。」とまた言われた。

「聞いていない。」ともう一度答えた。聞いていないと言っているのに,「聞いているはずだ。」と主張するなんて、厚かましい人だと思った。

その後,このおばさんの押しの強いところにどれだけ振り回されることになるのか,この頃の私には,もちろん想像が付かなかった。このおばさんとむきになって喧嘩したり,泣きついて謝ったり、誰にも話したことがない悩みを打ち明けたり,母親のように思うようになったり、傷つけられて泣かされたり,力を合わせて何かをやり遂げたりするなど,これから家族のように喜怒哀楽を共にすることになるということも,当然,少しも予想していなかった。

「聞いていない」と二回も言っているので,さすがに相手も諦めて,パーティーの開催日程を教えてくれた。

私は,おばさんに告げられた日時は予定が入っていて,空いていなかった。でも,相手のあまりのしつこさに負けて,予定をキャンセルし,空けることにした。つまり,おばさんのパーティーに参加することにした。

「行く。」と答えたら,おばさんは,ようやくテンションが下がり,満足げに頷いた。そして,すーっと帰って行った。

約束の日時になると,例のパーティーに参加するべく,教えてもらったおばさんの友人のおじいさんのお宅へと向かった。何が待っているのか,とても気になった。正直に言うと,押しが強い人も,パーティーも苦手な私は,あまり気が進まなかった。でも,約束したから行くしかないのだ。

そして,パーティーは始まった。しかし,パーティーというより,おばさんが会長を務め,自分で立ち上げた国際交流組織に協力してくれるようにお願いするための歓迎会だった。

参加してわかったことは,おばさんが国際交流組織を自分で立ち上げ,外国語好きな仲間と一緒に様々な活動を展開していること,昔からこの町で働く中国語教師の生活支援をしてきたこと,私が留学した日本の大学の卒業生であること,そして,おばさんは歌子という名前であることだった。

この中で特に,歌子が私の留学した大学出身であることに興味を持った。この方とは,何かご縁があるのかもしれないと思った。

歌子が日本語で私に言った。「あなたは,この町に初めて来られた国際交流を仕事とする者だから,とても期待している。」歌子は,中国語の日常会話が上手だが,大事なことや難しいことは,やっぱり日本語で言う。

歌子のこの言葉は,とても嬉しかった。どうやら,私が中国語教師ではないことを理解しているようだった。歌子が仕切る組織の活動内容も,ちょうど私が希望していたような中身だった。つい色々話してみたくなったが,パーティーだということもあり,二人でゆっくり話ができる雰囲気ではない。

パーティーが終わり,家へ帰ってから,歌子に連絡をし,自分の置かれている状況について話してみようと心を決めた。

すると,すぐに,返信が来た。私のこの町で国際理解や異文化交流を広めたいと言う気持ちは,自分と全く同じだという内容だった。次の日,二人で会って,話すことになった。

歌子とは,町のマクドナルドで会って,色々話した。彼女は,現在,子育てが一段落して,自分の時間を,社会に役立ちつつ、楽しんでいると自分の事情を話してくれた。国際交流組織の活動の他に外国語を学んだり,ダンスを教えたりして過ごしていると説明した。歌子にダンスを習うことになるとは,この時は,夢にも思わなかった。

その時に聞いた組織の活動内容や活動目的は,共感出来るものだったので,一緒にやりたいと言った。上司の了解を得ないと行けないので、また上司に話してみてから連絡すると言ったら,歌子は,「私たちの気持ちは合致しているから,大丈夫。」と言ってくれた。この言葉も,昨日まで四面楚歌で非常に心細い心境だった私には,仲間が出来たように感じて,とても嬉しいものだった。

マクドナルドでの面談が終わってから,また例の先日のパーティー会場を提供してくれたおじいさんのお宅へ連れて行かれた。歌子の友人のおじいさんとは,パーティーの時に対面しているはずだったが、全く記憶にはなかった。初対面のように,互いに挨拶をした。趣味について色々聞かれたが,この頃の私には,趣味と呼べるようなものは,何もなくて,答えに困った。おじいさんは,奏という名前で,音楽が好きだと話してくれた。この頃の私は,自分が,この家に毎日のように通い,このおじいさんとおばさんと一緒にお茶をしたり,音楽鑑賞をしたり,ダンスを練習したり,一緒に食事をしたりすることになるとは,想像もしなかった。

この頃,歌子と奏の関係についても,何も知らなかった。どう考えても,少し歳の離れた老夫婦にしか見えなかった。しかし,どうも,同居していないようだった。

夫婦ではなく,とても違う関係であることが,後になって,知った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

書籍化の打診が来ています -出版までの遠い道のり-

ダイスケ
エッセイ・ノンフィクション
ある日、私は「書籍化の打診」というメールを運営から受け取りました。 しかしそれは、書籍化へと続く遠い道のりの一歩目に過ぎなかったのです・・・。 ※注:だいたいフィクションです、お察しください。 このエッセイは、拙作「異世界コンサル株式会社(7月12日に電子書籍も同時発売)」の書籍化の際に私が聞いた、経験した、知ったことの諸々を整理するために書き始めたものです。 最初は活動報告に書いていたのですが「エッセイに投稿したほうが良い」とのご意見をいただいて投稿することにしました。 上記のような経緯ですので文章は短いかもしれませんが、頻度高く更新していきますのでよろしくおねがいします。

処理中です...