星が降りそうな港町

Yonekoto8484

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文化教室の開始

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歌子が都会から帰ってきて,再会した。一ヶ月ぶりに出会うと,「ようやくだね!」と言われ,思いっきり抱きしめられた。なかなか離してくれなかった。これまで,誰かにそこまでハグされたのは,この時ぐらいだ。

ゆっくり話す機会も持てて,中国語教師みたいに中国語指導ばかりやらせるのではなく,うまく使って欲しいと話すと,すぐにわかってくれた。早速,「中国文化講座」という名前で,月一回講演会をすることになった。

最初の頃は,参加者も多く,かなりやり甲斐を感じた。「日本語ではなく,中国語で話して欲しい。」や,「こんなことより,中国語を教えて欲しい。」などと,時々不満の声を上げる人もいたが,関心のある人だけに参加してもらえればいいということで,こう言った苦情を図太く無視した。

歌子の国際交流組織のミーティングでも,一度言われた。「せっかく講演会をやってくれているのに,日本語で話していると,日本人が話しているのと何も変わらないし,物足りない。他にも,こう思っている人は,絶対いる。」と。この時,歌子が庇ってくれて,ジーンと来たのは,今でも覚えている。

二年ぐらいこの事業を続けたのだが,二年も経てば,やはり,参加者は減ってくるし,私もネタ切れになり,いよいよ最終回を迎えることになった。最終回のテーマは,「日中の終活」にした。参加者は,高齢者が多かったし,最終回だから,歌子にも,相応しいと勧められた。

ところが,用意した内容を話し終わると,質疑応答の時間に入ると,あるおじいさんが手を挙げた。

「終活というもんだから,てっきり,死ぬための心の準備や気持ちの整理について話してくれると思っていた。」と不服を言われた。

私が用意した内容は,中国の老後施設や介護施設の事情,中国の墓事情,中国の葬儀などの話だった。この内容にしたのは,文化講座をやるものとして話せるのは,この程度だと判断した上での決断だった。

死ぬための心の準備について話す資格は,文化交流の仕事をしている立場の二十代の私には,どう考えても,ない。それに,死ぬための心の準備や気持ちの整理は,非常に個人的なもので,生き方や価値観や死生観によって異なるものだから,そもそも指導したり,教えたりできるものではない。そう答えた。

すると,隣のおばあさんに「関心がないというか…向こうの人は終活をしないんですかね?」とぶつぶつ言い続けた。このせいで,せっかく用意していた,お礼の挨拶も言えずに,悔しい思いで最後の講演会を終えることになった。

おまけに,片付けをしていると,あるおじさんが歌子に声をかけた。私にお願いしたいことがあるという内容だったから,歌子が「本人に話してください。」と話をわたしにまわそうとした。

すると,おじさんの反応は,「この人は,日本語がわかるんですか?僕は,中国語ができないんです。」というものだった。

これは,参った。一時間に及ぶ長い講演会を全部私一人が日本語で行い,質疑応答の時間も一人で対応した直後に,このことを言われると,どう反応すれば良いのか,わからないものだ。このおじさんが私の講演会をずっと聴いていたはずだというのに…。

この町で何をしても,この気持ちを味わうことになるのだ。不甲斐なくて,虚しくて、悔しくて…。どうして否定ばかりされなければならないのだろう。一人ぐらい認めてくれてもいいのに…。

すると,歌子が答えてくれた。「わかりますよ。私より,日本語話しますよ。」

これも,救われた。日本人より,日本語がわかるというのは,もちろん違うが,答えてくれたのは,有り難かった。
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