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最低(社会人・現代)性描写なし
最低2
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「うわ、まじすか! 今月俺、金欠なのに! 藤堂さんの一人勝ちじゃないですか!」
十二月、巻丘は金欠だった。
彼女と同棲するのに引っ越したし、それで家具や家電も買い直したし、趣味の自転車も一括で買ったし、クリスマスもあるから彼女にプレゼントも買わなければならないし、実家に帰省するのに新幹線の予約も取りたいし、姪っ子甥っ子にお年玉を用意しておかなければならないし、とにかく巻丘は金欠だった。
そこに、藤堂への支払いまでくるときついな、と。そのぐらいの軽い気持ちでの発言だった。
「巻丘!」
すると、藤堂がすごい剣幕で巻丘を制した。
藤堂のそんな態度を見たこともなかった巻丘は、もしかしてとてつもなくまずいこと言ったのかもしれないということに気づいた。
直後、三島が自分の弁当と藤堂に渡した弁当を持って立ち上がり、食堂の出入口へと大股で歩いていってしまった。
「三島! ちょっと、待って!」
それを藤堂が慌てて追う。
「ついてこないでください」
行ってしまった。
取り残された巻丘は呆然とする。まさか自分の言動でこんなことになるとは思わなかった。
これは、もしかしなくても自分のせいなのだろうか。自分のせいに違いない。
慌ててあたりを見回し、賭けの行われた飲み会にも同席していた、営業の先輩の江口を探す。
食堂にはおらず、探してみると喫煙所でタバコ吸っていた。
「江口さん、ちょっとこっち来てください!!」
「ん、どうした?」
巻丘は、喫煙所から江口を引っ張り出し、人けのない倉庫棟の方へ連れ出した。
「やばい、俺、三島さんと藤堂さん怒らせたかも!!」
「は? どうやったら怒んの、あいつら。 何やった?」
江口に先程の食堂でのことの次第を説明する。
「いや、お前! 賭けなんて本気にしたのお前だけだぞ!?」
江口は呆れ返っていた。
「えええ、そうなんですか!!?」
自分だけなのだろうか。巻丘は、飲み会当時の記憶を手繰り寄せた。巻丘は記憶力のいい男であり、ありありと当時のことを思い出せた。
『それにしても藤堂くん、三島くん好きよね』
まず沢口が、楽しげにそう言った。
『相手にされてませんけどね』
これは巻丘。
『いやいや、ちょっとは仲良くなってきたと思いますよ』
藤堂が不満げに言う。
『全然そんなふうに見えないんですけど』
巻丘がそういうと、沢口が、今日あったことだけど、と前置きをした。
『お弁当作ってなんて、三島くん、完全に引いてたじゃない』
『え! なんすかそれ!』
あまりにおかしな状況に巻丘はすぐに食いついた。
『藤堂くんが急にお弁当作ってっていって、三島くん断ったのね、そしたらお金払うから作ってって、断られてたけど』
『ああ、もう! やめてくださいよ!』
藤堂が顔をしかめて、沢口を止める。
『こわっ』
『しつこいと嫌われるぞ』
江口がそう言って意地悪く笑った。
『普通、作んないでしょう、男が男に』
『そんなのわかんないでしょ』
藤堂が口を尖らせる。
『いや、無理でしょ』
『可能性ゼロ』
『私もそう思う』
皆が口々に否定した。
『作ってもらえても吠え面かかないでくださいよ』
『いや、無理無理。俺、三島が作らない方に一万賭けるわ』
『私も』
『俺も」
『いやいやいやいや』
藤堂が軽く手を左右に振った。
『藤堂くんは作ってもらうほうよね、もちろん』
『そうじゃないと賭けにならないもんな』
『これ、藤堂さんの一人負けっしょ』
巻丘は、藤堂が三島に相手にされないという構図が面白くて仕方がなかった。
『俺が一人勝ちしても知りませんからね』
藤堂がむくれるのがますます面白い。
『買収はなしだぞ』
『そうそう、大金払って作ってもらうのなしね』
『そんなことしませんってば』
それで、みんなで笑って、その話は終わったのだった。
巻丘は、思い出してみて、自分だけが本気にしていたのかと、改めて自問した。
その結果、どうやら自分だけが賭けの部分を真に受けていたようだったことに気づき青ざめた。
「でもでも! 悪気なかったんですよ!? 三島さんを傷つけようっていうんでもないし!」
江口が目を細めて、苦い顔をする。
「そんなん俺もよ……でも三島本人からしたら気分悪いんじゃないの、冗談でも自分の行動が賭けの対象にされてるみたいなのは」
「……そ、そうかな、そうかも、どうしよう……」
「三島に謝ろう、先延ばしにするとどんどん状況悪くなるから」
「俺、謝ってきます……」
江口の言葉に、早く三島に謝りに行き、誤解を解くことに決めた。
「俺も一緒に行く」
巻丘と江口は、昼食を食べ終わると、三島のもとに向かった。
オフィスに入ると、藤堂が三島に話しかけているところだった。藤堂は午後からアポがあり、これから出るので上着と鞄を持っていた。
「三島、あの」
「もう出ないとアポ遅れますよ、いってらっしゃい」
「え、あ、うん……いってきます」
三島は、取り付く島もない全くの無表情で、声からも何の感情も読み取れなかった。
それがかえって非常に恐ろしいと巻丘は感じた。
藤堂が憔悴した面持ちでオフィスを出ていった。
「……今は、やめておくか」
そうつぶやいた江口に、謝るのは早いほうが良いのではなかったのか、と巻丘は思ったが、言うのはやめておいた。
十五時の休憩時間になり、
「三島さん、あの、ちょっといいですか?」
と、巻丘と江口は、三島を廊下連れ出した。
巻丘は、気持ちがせいて早口での謝罪になった。
「すみません、藤堂さんがちょっかいかけても三島さんに相手にされてないのが面白くなっちゃって、それで、賭けるみたいな話になっちゃって。三島さんのこと傷つけるつもりとか全然なかったんです、ごめんなさい!」
「巻丘、変な言い訳するな。三島、本当にすみませんでした」
巻丘に続いて、江口も頭をさげる。
「江口さんも巻丘さんも頭上げてください。巻丘さんたちのせいじゃないですよ」
頭を上げる途中で、上目遣いに三島を見ると、その顔からは表情という表情が消え去っていた。氷のような、冷え切った目をしている。
これは、非常にまずい。
「三島、本当に悪かった」
「ごめんなさい」
もう一度、謝罪する。
「いいですよ、本当に」
言葉とは裏腹に、絶対にいいと思っていないことは、鈍感な巻丘にもわかった。
「藤堂も三島と仲良くなりたかっただけだと思うから」
「それは、俺もそう思います!」
藤堂のことを言うと、三島の眉間がぴくりと動いたが、すぐにもとの無表情に戻った。
「……藤堂さんにも怒ってませんから。すみません、俺、ちょっとやることあるんで戻りますね」
三島はそう言うと背中を向け、オフィスに入って行った。
これは、絶対に滅茶苦茶怒っている。静かな怒りが余計に怖い。
「三島、やばいな……」
江口がぼそりとつぶやいた。巻丘は完全に同意した。
巻丘は、今外に出て打ち合わせ中であるはずの藤堂に、直接の謝罪は明日にして、とりあえずラインを送ることにした。
『今日は本当に軽率な発言をして申し訳ございません。三島さんにも江口さんと謝罪しました』
それに対して、打ち合わせが終わったころに返信が来た。
『わかった』
わかった、のみである。
巻丘は震えた。
翌日から、藤堂と巻丘の二人で遠方の客先をあいさつ回りする一週間の出張に出た。
藤堂と二人で社用車に乗り込む。気まずい沈黙が続いた。しばらくして、意を決した巻丘が運転中の藤堂に話しかけた。
「すみません、藤堂さん、俺、三島さんあんなに怒ると思わなくて」
「うん、わかってる」
藤堂の目が、前方を見据えたまま、完全に据わっている。
「あっ! 江口さんと謝ったんですけど、三島さん、怒ってないですって!」
絶対零度という感じではあったが。
巻丘はあまりのいたたまれなさに、どうにか藤堂の怒りを和らげたかった。
「今、本当にお前に八つ当たりしそうになっちゃうから、その話やめて」
だがしかし、余計に怒らせただけに終わった。
出張の二日目、一件取引先を回ったあとに、路上に車を停めて、藤堂が車を降りた。
「ちょっと会社に電話してくる」
「はい」
何故、車から降りる必要があるのか。
藤堂が木立の方に向かう背中を見送り、スマートフォンをいじりながら助手席で待っていると、もう一台の会社から貸与されているスマートフォンが鳴った。
部長からだった。
『お前たち今どこいんの? 藤堂、繋がんなくてさ。俺、今、駅にいるんだけど』
今日、取引先との会食に部長も合流することになっていた。
「あ、藤堂さんちょっと電話中でして。すぐ迎えに行きますね」
電話を切り、藤堂のところに小走りで近寄る。藤堂はまだ電話中だった。
「あ、三島、お疲れさま、PDFでプレゼン資料送って欲しいんだけど、あ、そうそう、先月作ってもらったやつ」
「よろしく。あ、あと、その、弁解させてほしい」
「あ、それはわかってるんだけど」
「あっ、まっ……」
途中で切られてしまったようだった。
非常に気まずい、見てはいけないものを見てしまった。
通話を強制的に終わらされた藤堂が振り返る。
生気がない。
藤堂は、巻丘に気づくと表情を引き締めた。
「どうした?」
「……あの、部長が、駅についたって」
「わかった、迎えに行こう」
これは、全部自分のせいなのだろうか。自分のせいなのか。間違いなく自分のせいだ。
巻丘に、この事態を引き起こしたのが自分だという事実が重くのしかかった。
おわり
初出:2021年1月25日
十二月、巻丘は金欠だった。
彼女と同棲するのに引っ越したし、それで家具や家電も買い直したし、趣味の自転車も一括で買ったし、クリスマスもあるから彼女にプレゼントも買わなければならないし、実家に帰省するのに新幹線の予約も取りたいし、姪っ子甥っ子にお年玉を用意しておかなければならないし、とにかく巻丘は金欠だった。
そこに、藤堂への支払いまでくるときついな、と。そのぐらいの軽い気持ちでの発言だった。
「巻丘!」
すると、藤堂がすごい剣幕で巻丘を制した。
藤堂のそんな態度を見たこともなかった巻丘は、もしかしてとてつもなくまずいこと言ったのかもしれないということに気づいた。
直後、三島が自分の弁当と藤堂に渡した弁当を持って立ち上がり、食堂の出入口へと大股で歩いていってしまった。
「三島! ちょっと、待って!」
それを藤堂が慌てて追う。
「ついてこないでください」
行ってしまった。
取り残された巻丘は呆然とする。まさか自分の言動でこんなことになるとは思わなかった。
これは、もしかしなくても自分のせいなのだろうか。自分のせいに違いない。
慌ててあたりを見回し、賭けの行われた飲み会にも同席していた、営業の先輩の江口を探す。
食堂にはおらず、探してみると喫煙所でタバコ吸っていた。
「江口さん、ちょっとこっち来てください!!」
「ん、どうした?」
巻丘は、喫煙所から江口を引っ張り出し、人けのない倉庫棟の方へ連れ出した。
「やばい、俺、三島さんと藤堂さん怒らせたかも!!」
「は? どうやったら怒んの、あいつら。 何やった?」
江口に先程の食堂でのことの次第を説明する。
「いや、お前! 賭けなんて本気にしたのお前だけだぞ!?」
江口は呆れ返っていた。
「えええ、そうなんですか!!?」
自分だけなのだろうか。巻丘は、飲み会当時の記憶を手繰り寄せた。巻丘は記憶力のいい男であり、ありありと当時のことを思い出せた。
『それにしても藤堂くん、三島くん好きよね』
まず沢口が、楽しげにそう言った。
『相手にされてませんけどね』
これは巻丘。
『いやいや、ちょっとは仲良くなってきたと思いますよ』
藤堂が不満げに言う。
『全然そんなふうに見えないんですけど』
巻丘がそういうと、沢口が、今日あったことだけど、と前置きをした。
『お弁当作ってなんて、三島くん、完全に引いてたじゃない』
『え! なんすかそれ!』
あまりにおかしな状況に巻丘はすぐに食いついた。
『藤堂くんが急にお弁当作ってっていって、三島くん断ったのね、そしたらお金払うから作ってって、断られてたけど』
『ああ、もう! やめてくださいよ!』
藤堂が顔をしかめて、沢口を止める。
『こわっ』
『しつこいと嫌われるぞ』
江口がそう言って意地悪く笑った。
『普通、作んないでしょう、男が男に』
『そんなのわかんないでしょ』
藤堂が口を尖らせる。
『いや、無理でしょ』
『可能性ゼロ』
『私もそう思う』
皆が口々に否定した。
『作ってもらえても吠え面かかないでくださいよ』
『いや、無理無理。俺、三島が作らない方に一万賭けるわ』
『私も』
『俺も」
『いやいやいやいや』
藤堂が軽く手を左右に振った。
『藤堂くんは作ってもらうほうよね、もちろん』
『そうじゃないと賭けにならないもんな』
『これ、藤堂さんの一人負けっしょ』
巻丘は、藤堂が三島に相手にされないという構図が面白くて仕方がなかった。
『俺が一人勝ちしても知りませんからね』
藤堂がむくれるのがますます面白い。
『買収はなしだぞ』
『そうそう、大金払って作ってもらうのなしね』
『そんなことしませんってば』
それで、みんなで笑って、その話は終わったのだった。
巻丘は、思い出してみて、自分だけが本気にしていたのかと、改めて自問した。
その結果、どうやら自分だけが賭けの部分を真に受けていたようだったことに気づき青ざめた。
「でもでも! 悪気なかったんですよ!? 三島さんを傷つけようっていうんでもないし!」
江口が目を細めて、苦い顔をする。
「そんなん俺もよ……でも三島本人からしたら気分悪いんじゃないの、冗談でも自分の行動が賭けの対象にされてるみたいなのは」
「……そ、そうかな、そうかも、どうしよう……」
「三島に謝ろう、先延ばしにするとどんどん状況悪くなるから」
「俺、謝ってきます……」
江口の言葉に、早く三島に謝りに行き、誤解を解くことに決めた。
「俺も一緒に行く」
巻丘と江口は、昼食を食べ終わると、三島のもとに向かった。
オフィスに入ると、藤堂が三島に話しかけているところだった。藤堂は午後からアポがあり、これから出るので上着と鞄を持っていた。
「三島、あの」
「もう出ないとアポ遅れますよ、いってらっしゃい」
「え、あ、うん……いってきます」
三島は、取り付く島もない全くの無表情で、声からも何の感情も読み取れなかった。
それがかえって非常に恐ろしいと巻丘は感じた。
藤堂が憔悴した面持ちでオフィスを出ていった。
「……今は、やめておくか」
そうつぶやいた江口に、謝るのは早いほうが良いのではなかったのか、と巻丘は思ったが、言うのはやめておいた。
十五時の休憩時間になり、
「三島さん、あの、ちょっといいですか?」
と、巻丘と江口は、三島を廊下連れ出した。
巻丘は、気持ちがせいて早口での謝罪になった。
「すみません、藤堂さんがちょっかいかけても三島さんに相手にされてないのが面白くなっちゃって、それで、賭けるみたいな話になっちゃって。三島さんのこと傷つけるつもりとか全然なかったんです、ごめんなさい!」
「巻丘、変な言い訳するな。三島、本当にすみませんでした」
巻丘に続いて、江口も頭をさげる。
「江口さんも巻丘さんも頭上げてください。巻丘さんたちのせいじゃないですよ」
頭を上げる途中で、上目遣いに三島を見ると、その顔からは表情という表情が消え去っていた。氷のような、冷え切った目をしている。
これは、非常にまずい。
「三島、本当に悪かった」
「ごめんなさい」
もう一度、謝罪する。
「いいですよ、本当に」
言葉とは裏腹に、絶対にいいと思っていないことは、鈍感な巻丘にもわかった。
「藤堂も三島と仲良くなりたかっただけだと思うから」
「それは、俺もそう思います!」
藤堂のことを言うと、三島の眉間がぴくりと動いたが、すぐにもとの無表情に戻った。
「……藤堂さんにも怒ってませんから。すみません、俺、ちょっとやることあるんで戻りますね」
三島はそう言うと背中を向け、オフィスに入って行った。
これは、絶対に滅茶苦茶怒っている。静かな怒りが余計に怖い。
「三島、やばいな……」
江口がぼそりとつぶやいた。巻丘は完全に同意した。
巻丘は、今外に出て打ち合わせ中であるはずの藤堂に、直接の謝罪は明日にして、とりあえずラインを送ることにした。
『今日は本当に軽率な発言をして申し訳ございません。三島さんにも江口さんと謝罪しました』
それに対して、打ち合わせが終わったころに返信が来た。
『わかった』
わかった、のみである。
巻丘は震えた。
翌日から、藤堂と巻丘の二人で遠方の客先をあいさつ回りする一週間の出張に出た。
藤堂と二人で社用車に乗り込む。気まずい沈黙が続いた。しばらくして、意を決した巻丘が運転中の藤堂に話しかけた。
「すみません、藤堂さん、俺、三島さんあんなに怒ると思わなくて」
「うん、わかってる」
藤堂の目が、前方を見据えたまま、完全に据わっている。
「あっ! 江口さんと謝ったんですけど、三島さん、怒ってないですって!」
絶対零度という感じではあったが。
巻丘はあまりのいたたまれなさに、どうにか藤堂の怒りを和らげたかった。
「今、本当にお前に八つ当たりしそうになっちゃうから、その話やめて」
だがしかし、余計に怒らせただけに終わった。
出張の二日目、一件取引先を回ったあとに、路上に車を停めて、藤堂が車を降りた。
「ちょっと会社に電話してくる」
「はい」
何故、車から降りる必要があるのか。
藤堂が木立の方に向かう背中を見送り、スマートフォンをいじりながら助手席で待っていると、もう一台の会社から貸与されているスマートフォンが鳴った。
部長からだった。
『お前たち今どこいんの? 藤堂、繋がんなくてさ。俺、今、駅にいるんだけど』
今日、取引先との会食に部長も合流することになっていた。
「あ、藤堂さんちょっと電話中でして。すぐ迎えに行きますね」
電話を切り、藤堂のところに小走りで近寄る。藤堂はまだ電話中だった。
「あ、三島、お疲れさま、PDFでプレゼン資料送って欲しいんだけど、あ、そうそう、先月作ってもらったやつ」
「よろしく。あ、あと、その、弁解させてほしい」
「あ、それはわかってるんだけど」
「あっ、まっ……」
途中で切られてしまったようだった。
非常に気まずい、見てはいけないものを見てしまった。
通話を強制的に終わらされた藤堂が振り返る。
生気がない。
藤堂は、巻丘に気づくと表情を引き締めた。
「どうした?」
「……あの、部長が、駅についたって」
「わかった、迎えに行こう」
これは、全部自分のせいなのだろうか。自分のせいなのか。間違いなく自分のせいだ。
巻丘に、この事態を引き起こしたのが自分だという事実が重くのしかかった。
おわり
初出:2021年1月25日
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