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11話

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 今、雪音家に暮らしているのは僕たち兄妹に加えて、お亡くなりになられた前当主の奥方である希海さん、その娘である沙月さん、そして現当主であられる涼の五人である。
 雪音家はあくまで分家であり、そこまで経済的に余裕のある陰陽師家ではないため、使用人なとは雇っていない。そのため、屋敷における家事は陰陽師としての仕事がない僕たち兄妹と希海さんがこなしていた。
 家事として基本的に僕が担当しているのは買い出しであった。

「えっと、今日買うのは……」

 料理担当である希海さんから渡された買い物メモを見ながら道を進んでいく。

「あら! ちょい待って!」
「は、はい?」

 そんな僕は急にすれ違ったおばちゃんに声をかけられて足を止める。

「急に呼び止めて悪いなぁ! ちょいうちの隣を若い色男が通りがかって話しかけとうなってもうた」
「は、はぁ……」
「今日は平日やけど、学校やらはいける?……あっ!? もしかしてプライベートな問題であまり突っ込んでええ話題やなかったわね! かんにんな。うちの娘からもおかんは色々と突っ込みすぎて怒られんねんけどついねぇ、ほんまにかんにんなぇ、つい気になってもうて」
「いえいえ、そんな深い話でも深刻な話でもないので大丈夫ですよ。実は自分、既に実家の仕事を継ぐことが決まっていまして。既に少しは働いているような状況なんです。ですから、高校にはいっていないんです」
「あら! 立派! その年でもうおとんのお仕事を手伝うてるなんて偉いねんなぇ、おばちゃん尊敬してまうわぁ! 頑張ってな!」
「ありがとうございます」
「それで? おとんのほうはどんな事業やってるん?」
「酒屋の方をやっていますね。うちの酒屋はかなり」

 基本的に陰陽師は表向きの家業として語れるものをなにかしら持っている。
 雪音家が家業としているのは酒屋である。

「あら、もしかして雪音家やったりするんやろか?」

 陰陽師が持っている表向きの家業は実際に行っている場合といない場合があるのだが、雪音家の場合は実際に家業として酒屋の運営を行っていた。
 この街だと雪音家の酒屋は最も大きな酒屋であり、かなり珍しい酒も扱っていることからかなりの人気店である。
 目の前のおばちゃんのように知っている者も多かった。

 陰陽師は国からお金が支給される制度となっているのだが、雪音家のようにただの分家でそこまで強くない陰陽師家だと国から貰える金額も少なく、割とカツカツになってしまうことも多いため、小さな陰陽師家だと実際の家業として運営している場合が多い。

「あらあら! いつもあそこの酒屋にはお世話になってるわ! にしてもあそこにこんな小さな子ぉいたのね!」
「あぁ、自分は元々親戚筋の者でして、ちょっと諸事情でこちらの方に来ているんです」
「あら、そうやで。ほな、家業のお手伝い頑張ってなぇ! うちも酒屋に顔を見せるとするわ! あそこの酒屋は品揃えもええし、安いしね!」
「ありがとうございます。その際はオススメの品を見せられるようにしますね」
「実際にお酒は飲んだりせえへんようにな?」
「えぇ、それはもちろん。未成年の飲酒は犯罪ですから」
「そう!せやったらええわ」
「それじゃあ、自分はこれで……買い物もありますので」
「あら、かんにんな。邪魔したわね。あっ、後、頑張ってる君にご褒美として飴ちゃんあげてまう。飴ちゃんいる?」
「あっ、ありがたくいただきます」

 大阪のおばちゃんあるある。
 何故かみんな持っている飴ちゃんを一ついただいた僕はそれを自分のポケットの中へと入れる。

「それじゃあ、失礼します」
「はーい」

 僕はおばちゃんに別れの挨拶を告げ、目的地であるお店の方へと向かう。
 鳴門家に居た頃は外にもなかなか出せてもらえなかった。だけど、今の僕はこうして外に出て多くの人と交流させてもらっている。
 あぁ、本当に……僕は恵まれている。
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