誰がために筆を執る 画面越しのたいあっぷ

八ッ坂千鶴

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第1章

進まない執筆

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 ◇◇◇数週間後 千鶴目線◇◇◇

「やっぱりすごいなぁ~。絵も可愛いし、綺麗だし。さすがはイラストレーター。尊敬しちゃうよぉ~」

 次々と送られてくる画像を、私は何度もハシゴする。希望通りのイラスト。あともう少しでキャラクターが全員揃う。

 ――ポロロン。

 スマホの甲高い着信音。SNSをひらきメールを覗く。差し出し人は、イラストを担当してくれている琴葉だ。

『これで以上になります。次は表紙絵になるので、ご希望のレイアウトはありますでしょうか?』

 琴葉からのメッセージ。登場人物のデザインが決まった。早速レイアウトを送信する。そして返ってくる相手からの反応。

『先程確認したのですが、まだ2千文字しか書かれていませんね』

 執筆者としての役割を指摘された。よくよく考えると、私はイラストで胸を躍らせてばかり。
 執筆作業を疎かにしていた。絵のことから一旦離れ、スマホを手に持ち筆を執る。

〝成せばなる、成さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなり〟

 そのような言葉を浮かべ、己を叱咤する。たいあっぷするには、4万5千文字以上書かないといけない。

「締切日…………。間に合うかな…………」

 迷走しながらの作業。ほんとにこれでいいのだろうか? 私は速筆派。質より量で攻める。だから、読まれる可能性も低くなる。
 とにかく思いついたことを書く。修正はそれからだ。執筆には推敲という工程があり、必ずやらないといけない作業。
 私はノートにプロットは書かない。全て頭の中で整理する。理由はノートをなくしてしまうから。

「ほんとは書いた方いいことは、わかってるけど…………」

 プロットは大事な役目を果たしてくれる。シナリオチャートと世界観。そしてキャラ設定。建物や世界のルールも併せてプロットと言う。
 でも、私は即興で作るため、時々物語がズレる。直したいが、基本的には書きたいことを書くのが執筆だ。読み手を考えるのは後。指を滑らせ文字を打つ。

 ◇◇◇数週間後◇◇◇

「お待たせいたしました。目標数まで書けました」

 ヘロヘロになりながらも連絡する私。1話1万文字から1万2千文字。合計話数は5話。ここまでくるのに、何回行き詰まったことか…………。

『ありがとうございます。早速読みますね』

 さて、相手はどんな反応をして感想を書くのか、ドキドキが止まらなかった。

 ◇◇◇数時間後◇◇◇

『拝読しました。内容は良かったと思います。ただ……』
「ただ?」

 言葉を詰まらせたような、琴葉の返信。疑問を浮かべて続きを待つ。

『ただ、情景描写が少ない感じがします。やはり、風景をしっかり説明してもらえないと、背景を描くのは難しいと思います。加えて……』

 的確なアドバイス。しっかり取り入れないといけないのは、わかってる。わかってるけど、情景描写は説明過多。
 つまり、説明が多くなりすぎて、物語が進みづらくなってしまう。なので、情景描写を避けてきた。
 代償に風景を想像できても、文章で表現することができなくなってしまった。この代償をなくしたい。
 短い文章で、上手く説明できるようになりたい。強く思えば思うほど、願いはどんどん遠ざかる。

『加えて、情景描写は読者にとっても大事になってきます。世界観を想像出来れば、楽しみが広がります』
「た、たしかにそうですね…………」

 読み手目線でも考えてくれるなんて。琴葉の優しさと、本気で勝負したいという熱量が、チャットの文面から伝わってくる。

『文章に縁のない私が言うのもあれですが、一度外で見た物を文字に起こしてみたらどうでしょうか?』

 まるで〝赤ペン先生〟だ。私の代わりに琴葉が教えてくれる。

「わかりました。今日はもう遅いので、明日やってみます。アドバイスをありがとうございます」
『こちらこそ、共にたいあっぷを作る身として、心から応援しています。千鶴さんも頑張ってください』
「わかりました。頑張ります」

 時刻は深夜2時過ぎ。日曜日だから、明日は仕事がある。見た物を書く。ほんとにできるのだろうか…………。
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