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彼女と建築……オレ足でまといになりました

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「よし!! これくらい集まれば十分足りる。もうちっと欲しいけど……」

 鉄鉱石を発掘し続けて約5時間。掘りまくった大穴の入口は、鉄鉱石で山積みになっていた。
 岩壁も長いトンネルになり、木の棒が最強すぎて笑ってしまう。
 消費した木の棒は20本。意外と耐久性もあったので活用法の幅は広がる。ガノンと未来は添い寝中。
 オレも一度休むため、ガノンと挟むようにして未来の隣へ横になる。未来の血はまだ止まっていないが意識は正常だった。

「ほんとお前はバカだよな。オレのために頑張るし。命捨ててまで協力しようとするし。命知らずにも……」
「咲夜くん?」
「未来!? す、すまん起こしちまって……」
「いいの。それにぐっすり眠れたし……」
「本当か?」
「ふふっ、私が嘘言うと思う? 安全運転だからこそ、咲夜くんは心配性なんだから」
「ふふ普通心配するだろ?」
「咲夜くんらしいね」

 オレの顔を見てクスクス笑う未来。どんな未来も可愛い。これからが楽しみになってくる。土地開拓で何が起こるのか……。
 オレは目をつむったまま、未来の胸に刺さったナイフを引き抜く。脳裏に浮かぶ『グリグリして』との要望。
 やりたくない。けれども彼女は、やって欲しそうな眼差しで見ている。直視はできない、まぶたを閉じて再びナイフを胸へ。

「もしかして咲夜くん?」
「な、なんだよ……」
「ううん。そのまま続けて。何も言わないから」
「何も言わないって気になるじゃんか……」
「私のお願い覚えてたんだ……」
「そんな時間経ってないしな……」
「だね。ほら固まらないでよ!!」
「しゃーねぇなぁ……。もう刺し直しちまったし1回だけだぞ!!」
「お願い」

 オレはナイフを握る。出血量が増えるだけなのに、楽しそうな未来。もう〝血〟を回収する人はいないのに……。
 日が昇ったら建設予定地に戻る。オレがナイフを動かすと強風が吹き始め、山積みの鉄鉱石が血に触れたその時。

 ――ボワンッ!! ジューーーー……。

「て、鉄鉱石が液状化した……」
「え? それって私の血で?」
「おん……。さっきの風で落ちた鉄鉱石がさ……。こりゃ製鉄所要らずになるな……。つらいけど……」
「それも私が賢者だからかもね。よくわからないけど……」
「けど、これで工程が短縮できる。金槌も鉄製になるしさ……」

 未来が賢者。それを理由にして欲しくなかった。大好きな人を苦しめてしまう。
 だけど、スキル同様に賢者の血の使いどころは多そうだ。その証拠は、ライチと戦った情報を上書きしている。
 夜の帳は終わりを告げて、新しい1日の幕が上がる。結局オレは一睡もしないまま、鉄鉱石の運搬が始まった。

「そういえば未来。傷は大丈夫なのか?」
「治癒魔法使ったから治ってるよ」
「そういうとこは抜かりなしだよな……」
「また仲良しごっこか……。俺は関係ないが……」
「ごっこじゃねぇよ!! ガノン!! オレと未来は幼なじみなんだ!!」
「残念だけど、中学からだと幼なじみとは言いませーん。なんちゃって」
「未来突っ込んでくるな!! んもいいとこだったんによォ……」

 彼女の発言は確かに正論。正しい関係は同級生の恋仲同士。そんなことを声に出したくない。
 オレはガノンと協力して鉄鉱石を運ぶ。目的地には、留守番していたミカエルをレノン。手を振って出迎えてくれた。
 彼らも保管場所を準備していて、鉄鉱石を積み上げる。思った以上の大収穫で、溢れかえる事態になってしまったが……。

「それじゃ金槌でも作るか……。木と木の噛み合わせも強力にしたいしな……。ついでにノミも作るか……」

 まずは柄になる木を削る。手で握りやすい大きさに加工したら、今度は鉄鉱石を溶かす作業。未来にも協力してもらう。
 事前に臼型にした石へ血を流し入れ、接触時の燃焼で鉄を溶かす。固まらないうちに錬成スキルで金槌に。
 さらに柄を削り、同じ工程を繰り返してノミとノコギリも錬成。釘も大量生産して、準備を進めていく。

「咲夜さん長方形のこれは……?」
「ああこれか。角材の準備しているのさ……。本当は専用の電動工具があるんだけどさ……。
 カンナ削りか電動ヤスリがあればなぁ……」
「咲夜くん。日曜大工DIYするの?」
「そうだけど……。今回が初経験なんだよなぁ……」
「チャレンジャーだね。そういうところ大好き!!」
「未来恥ずいって。嬉しいけどよ……」

 ちょくちょく雑談を入れて、組み木の準備。ノミを使って横に置いた木にみぞの線を引く。定規がないので直線が難しい。
 もう一つの木にも噛み合うように同じ溝を彫る。彫った木同士を何度も重ねながら、隙間を埋めて釘3本で固定。
 横にも4分の1ほどの段差を作り、同じものを1000本近く用意。

「この彫った深さと同じ厚さのを作りーの……。段差同士を並べて、間に木を挟んで両側から釘で固定っと……」
「咲夜くん!! そうするんだったら反対側も溝彫らないとだよ!!」
「そ、そうなのか?」
「この木って厚さ40ミリくらいだよね? 釘の長さが12ミリって長いけど……」
「彫った深さは約10ミリ……ってことは」
「反対側から打ち込んでも貫通しないよ」
「マジかァァァ!!」

(さっきから誤算続きじゃねぇかよオレ!! 何やってんだよもう!!)

「ちょっと私にやらせて」

 混乱しているオレを差し置いて、ノミと金槌を握る未来。立たせた状態の板を寝かせて、またぐように縦の溝を彫る。
 等間隔に彫ったところへ厚めの木をはめ込み、奥まで叩き入れるとノコギリで余分を切り取った。
 断面はガタガタしているが、カンナが手に入ればどうにかなる。というよりも未来の手際が良すぎて、一瞬で作業が終わってしまった。

「テレビで見たのをやってみたけど……」
「いや、迷い無かったような気が……」
「気のせいだよ咲夜くん」
「気のせいって……オレの負けだ。ほんと……」
「ほらほらー。落ち込まない落ち込まない。らしくないよ?」
「未来さんと咲夜さんを見ていると、ほっこりしてしまうのです」

(んなわけねぇだろ!! ミカエル……)

 両手をほおに当てながら、オレと未来の会話を眺めるミカエル。天使の微笑みに心が温まる。
 レノンもガノンも協力して木を運び、未来が先陣を切って組み立てていく。床と壁ができるのはあっという間だった。

「あとは屋根か……」
「屋根って難易度高いらしいよ?」
「うへぇ……。そういやオレも未来も〝高所恐怖症〟だもんな……」
「それでも私は透明床歩けるけどね。咲夜くんいつもへっぴり腰だし……」
「落ちそうで怖いんだよ!! 聞いただけでゾクッとするじゃねぇか……」
「で、どうするの? 屋根ないと部屋びしょ濡れになっちゃうし……。その前にはりとか柱の設置しないと……」

(抜けすぎだよ。工程間違いすぎだろ!! 未来がいてよかった……)

「そ、その……僕は何をすれば……」

 オレが混乱しては未来が解決。そんな状況に質問してきたのは、木材を運び終えたレノンだった。
 全身に汗をかき、達成感で生まれたような優しい笑顔。愚痴しか言わないオレとは雰囲気が別物だ。
 運ばれた木材はガノンが加工したらしく、厚さ数センチの板が並ぶ。この板は床用とのことで、未来がお願いしたようだ。
 それ以外にも、柱もガノンが配置してくれていたから大助かりだ。

「まずは、立てる柱の先を出っ張らせて……」
「太さが約150ミリ四方だから、縦は80ミリ、横は60ミリくらいにね。キレイな正方形だと折れやすいみたいだから」
「へぇー……」
「も!! 少しは興味持ってよ!!」
「す、すまん……。つまりは長方形にするってことだろ?」
「そう。私は差し込む側作って来るから」
「おう!!」

 そう言って未来は一回り太い柱へ向かう。なのに、オレが並べた枠に杭を打っている。基礎を作っているのだろう。
 彼女が言うには、コンクリートが欲しいとのことだが、さすがに原材料が揃うはずがなかった。
 木材だけでは強度と耐久性に欠けるそうで、腐食も心配されるが仕方ない。近いうちにコンクリートの材料調達も考えておく。

「咲夜くん!! こっち準備できたよ!! たしかに300本でいいんだっけ?」
「そうだな。足りなければまた作ればいいし……」
「設計用紙欲しくなってきちゃった……」
「しょうがないだろ。紙もペンもインクも、パソコンもコピー機もねぇからよォ……」
「あの……。ぱそこんとこぴーきってなんですか?」
「あーえーそ、その。レノン。それはだな……」

(いちいち説明すんのめんどくせぇ……。集中できねぇじゃんかよ!!)

 オレの後ろでハテナを浮かべ続ける異世界人。物珍しそうな視線に苛立ちながら、ヤケになりつつ建材を加工する。
 ただひたすらノミで彫る。彫れるだけ彫る。ものすごくつまらない作業ばかりだ。
 魔法でパパっと終わらせられるならいい。でも、DIYに決めたからには、最後までやり遂げるのが一番達成感がある。

「はぁ……」
「なんでため息ついてるんだよ?」
「私に代わって。まずは彫る長さと太さに合わせて、ノミで線を引くでしょ。
 次はノコギリで大まかに切り取って、ノミで段差を無くす。ノコギリは横に刃を入れられないから。ノミが入る太さに……」
「どちらにしろ手間かかるんじゃん!!」
「ほら愚痴言わない!!」
「あーい……」

(オレは未来の召使いかっつーの!! 別に彼女だし? あんな意地悪クズ女帝馬鹿令嬢ライチよりはマシだけど……)

 彫刻刀みたいなアイテムも欲しい。手間はかかるが……。ひたすら足りない部材を作り、作ってははめ込み釘で留める。
 DIYがここまでつまらないとは知らなかった。そんなオレとは対照的に、未来はとても楽しそうだった。
 こんな作業のどこが面白いのやら。受験しか考えないオレには理解不能だ。

「こんな感じかなぁ? 咲夜くん!! ガノンさん!! ちょっとこの柱持ち上げてもらいたいんだけど……」
「持ち上げるって?」
「この出っ張りを穴に入れるの。ノミで彫るの大変だったんだからね!!」
「すま……」
「謝る前にさっさとやる!! 男性陣が動かないと何もできないの!! 持ち上げられない代わりに、差し込み穴を開けたわけだし」

(オレより楽しんでんじゃん。任せっきりはアウトだよな)

「本気でやりますか……」
「胸挟まないでね!!」
「いや、そこ心配するか? 未来?」
「見た目は女で中身は男。距離感難しいはずだから、腕力そのままならできるんじゃない?」
「は、挟むわけねぇって。ディスり方考えろ!!」
「ハイハイ。等間隔に差し込み穴彫ったから、柱の設置次第で筋交いを留める作業ね」

(まだ外枠作業なんかよ……)
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