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ヒナ鳥の育て方4
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一日の作業を終えたのは定時を少しだけ回った時間だった。隣の席を見ると、久遠さんも最後のタスクをノートに貼り付けてメモを書いているところだった。
「久遠さんも終わったみたいだね、じゃあ、行こうか?」
そう言って立ち上がると、久遠さんは少しびっくりしたような顔で私を見上げた。
「え? 本当に?」
「ん? 嫌だった?」
「嫌じゃないです」
「そう、じゃあ行こう」
そうして二人並んで会社を後にする。
「あの、私、西島さんの誘いを断るための嘘だと思ってたので、びっくりして」
「ああ、まあそれはそうなんだけど、食事に行ってないって知られたら、この手が使えなくなるでしょう? でも、迷惑だったら、駅で別れてもいいけど……」
すると、久遠さんは首を大きく横に振った。
「迷惑じゃないです」
「本当に?」
「本当です」
嘘ではなさそうだ。少し後ろを付いてくる久遠さんを見て、板垣くんの言葉を思い出す。こうしていると本当にヒナを連れて歩いている気分になる。
「んじゃ、どこ行こうか」
私は選択肢を頭の中で考える。久遠さんは、私に対しては随分本音を言ってくれるようになったと思う。だが、自分の思いを主張することはまだできない。
「おしゃれなカフェレストラン、小粋な和食屋、小汚い焼鳥屋、どれがいい?」
お財布的には焼鳥屋がいいのだが、和食が好きだと言った久遠さんは和食を選ぶかもしれない。あの店は日本酒の種類が多いから飲み過ぎてしまわないように注意しないと。そんなことを考えつつ、久遠さんの返事を待つ。
「あの、焼鳥屋がいいです」
予想外の返事に私は少し驚いた。
「いいの? 本当に小汚いよ」
「そういうところに行ってみたいです」
その返事で少し納得した。久遠さんを食事に誘う男性陣は、きっと見栄を張ってオシャレできれいな店に連れて行くのだろう。久遠さんが一人で焼鳥屋に行っているイメージもない。
「OK、焼鳥屋に行こうか」
そう言って目的地に向かって歩みを進めながら、ヒナ鳥を引き連れて焼鳥屋なんて、笑えない冗談みたいだと考えていた。
それからも、西島くんと城田くんは交互に久遠さんを食事に誘い続けた。久遠さんには、私がいなくても私と約束があると言っていいと伝えてある。もちろん、仕事があったり、本当に別の先約があったりする場合には、その旨をきちんと伝えるようにしっかりと言いきかせた。
何度断られても諦めない西島くんと城田くんのおかげで、私も久遠さんとの外食比率が急激にアップしている。そのため、私のお財布事情も苦しくなってきた。
いつものようにヒナ鳥の久遠さんを引率しながら、食事先の候補をピックアップする。
「大衆居酒屋、大衆中華、私の家、どれがいい?」
私の財布事情があからさまに分かってしまう選択肢だ。
「え?」
久遠さんが驚きの声を上げて立ち止まる。選択肢があからさま過ぎただろうか。
「あー、ちょっとお財布が心もとなくてねー。選択肢が狭すぎた?それならねー」
「あ、あの、いえ、そうじゃなくて、家って?」
「ああ、私の家でご飯でも作って食べようかなって。狭いところだけど、ここから近いし」
「いいんですか?」
「もちろん、いいけど」
「それなら、高乃さんのお家に行きたいです」
「そう? だったら、スーパーに寄ろうか。今、冷蔵庫空っぽだから」
「あ、あの、私、料理を作っていいですか?」
私は少しびっくりした。久遠さんが自分からやりたいことを言ったのははじめてのことかもしれない。
「それなら、お願いしようかな? 何を作ってくれるの?」
そう聞くと、久遠さんはうれしそうな笑顔を見せた。
それからスーパーで食材を買って、私の家で久遠さんの料理を振る舞ってもらった。メニューを決める段階では、いつもの意見の言えない久遠さんに戻っていたけれど、「久遠さんの得意料理が食べたい」と言ったら、がんばって考えてくれた。
ワンルームにベッドとローテーブルがあるだけの狭い部屋は、人を呼べるようなものではないのだが、久遠さんは終始楽しそうにしていたようだ。
久遠さんが作ってくれた料理は、全体的に茶色っぽい素朴な家庭料理だった。それがちょっと意外で、私もそのひとときを楽しめた。
そして、帰るときに、久遠さんはまた自分の希望を私に伝えた。
「ま、また、おじゃましてもいいですか?」
それは、ヒナ鳥が少しずつ成長している姿を見ているようだった。
「もちろんいいよ。外食代も浮くしね」
「もっとお料理勉強しておきます」
「本当に? それじゃあ楽しみにしておこうかな」
そう言うと、久遠さんは笑顔で頷いた。
「久遠さんも終わったみたいだね、じゃあ、行こうか?」
そう言って立ち上がると、久遠さんは少しびっくりしたような顔で私を見上げた。
「え? 本当に?」
「ん? 嫌だった?」
「嫌じゃないです」
「そう、じゃあ行こう」
そうして二人並んで会社を後にする。
「あの、私、西島さんの誘いを断るための嘘だと思ってたので、びっくりして」
「ああ、まあそれはそうなんだけど、食事に行ってないって知られたら、この手が使えなくなるでしょう? でも、迷惑だったら、駅で別れてもいいけど……」
すると、久遠さんは首を大きく横に振った。
「迷惑じゃないです」
「本当に?」
「本当です」
嘘ではなさそうだ。少し後ろを付いてくる久遠さんを見て、板垣くんの言葉を思い出す。こうしていると本当にヒナを連れて歩いている気分になる。
「んじゃ、どこ行こうか」
私は選択肢を頭の中で考える。久遠さんは、私に対しては随分本音を言ってくれるようになったと思う。だが、自分の思いを主張することはまだできない。
「おしゃれなカフェレストラン、小粋な和食屋、小汚い焼鳥屋、どれがいい?」
お財布的には焼鳥屋がいいのだが、和食が好きだと言った久遠さんは和食を選ぶかもしれない。あの店は日本酒の種類が多いから飲み過ぎてしまわないように注意しないと。そんなことを考えつつ、久遠さんの返事を待つ。
「あの、焼鳥屋がいいです」
予想外の返事に私は少し驚いた。
「いいの? 本当に小汚いよ」
「そういうところに行ってみたいです」
その返事で少し納得した。久遠さんを食事に誘う男性陣は、きっと見栄を張ってオシャレできれいな店に連れて行くのだろう。久遠さんが一人で焼鳥屋に行っているイメージもない。
「OK、焼鳥屋に行こうか」
そう言って目的地に向かって歩みを進めながら、ヒナ鳥を引き連れて焼鳥屋なんて、笑えない冗談みたいだと考えていた。
それからも、西島くんと城田くんは交互に久遠さんを食事に誘い続けた。久遠さんには、私がいなくても私と約束があると言っていいと伝えてある。もちろん、仕事があったり、本当に別の先約があったりする場合には、その旨をきちんと伝えるようにしっかりと言いきかせた。
何度断られても諦めない西島くんと城田くんのおかげで、私も久遠さんとの外食比率が急激にアップしている。そのため、私のお財布事情も苦しくなってきた。
いつものようにヒナ鳥の久遠さんを引率しながら、食事先の候補をピックアップする。
「大衆居酒屋、大衆中華、私の家、どれがいい?」
私の財布事情があからさまに分かってしまう選択肢だ。
「え?」
久遠さんが驚きの声を上げて立ち止まる。選択肢があからさま過ぎただろうか。
「あー、ちょっとお財布が心もとなくてねー。選択肢が狭すぎた?それならねー」
「あ、あの、いえ、そうじゃなくて、家って?」
「ああ、私の家でご飯でも作って食べようかなって。狭いところだけど、ここから近いし」
「いいんですか?」
「もちろん、いいけど」
「それなら、高乃さんのお家に行きたいです」
「そう? だったら、スーパーに寄ろうか。今、冷蔵庫空っぽだから」
「あ、あの、私、料理を作っていいですか?」
私は少しびっくりした。久遠さんが自分からやりたいことを言ったのははじめてのことかもしれない。
「それなら、お願いしようかな? 何を作ってくれるの?」
そう聞くと、久遠さんはうれしそうな笑顔を見せた。
それからスーパーで食材を買って、私の家で久遠さんの料理を振る舞ってもらった。メニューを決める段階では、いつもの意見の言えない久遠さんに戻っていたけれど、「久遠さんの得意料理が食べたい」と言ったら、がんばって考えてくれた。
ワンルームにベッドとローテーブルがあるだけの狭い部屋は、人を呼べるようなものではないのだが、久遠さんは終始楽しそうにしていたようだ。
久遠さんが作ってくれた料理は、全体的に茶色っぽい素朴な家庭料理だった。それがちょっと意外で、私もそのひとときを楽しめた。
そして、帰るときに、久遠さんはまた自分の希望を私に伝えた。
「ま、また、おじゃましてもいいですか?」
それは、ヒナ鳥が少しずつ成長している姿を見ているようだった。
「もちろんいいよ。外食代も浮くしね」
「もっとお料理勉強しておきます」
「本当に? それじゃあ楽しみにしておこうかな」
そう言うと、久遠さんは笑顔で頷いた。
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