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5 時計塔に行きましょう
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「ひどいぜエミリー、昔のクラスメイトに向かってはぁっ?って何だよ」
「あー、ごめん! なんというか、記憶をちゃんと整理してなかったっていうか」
「記憶の整理ぃ?」
アルベルトはあからさまに私の様子を訝しむ。
当然よね、何年も付き合いのある学友にいきなりはぁっ?て。
エミリーにとっては久しぶり、えみりとしては初めての街の散策。
途中、偶然立ち寄ったお店で出迎えてくれたのは学友のアルベルトだった。
幼少時、私ことエミリー・ビスマルクは、この街の教会でどうやら勉学に励んでいたみたいだ。目の前の青年アルベルトや、この街の子どもたちとともに。
絶対体感してないのに記憶があるって不思議ねー。
とはいえ、この妙な気分を黙っていられるほど私も冷静ではなかった。
「いやいや、でもね、はぁっ!?って感じなの、はぁっ!?って」
身振り手振りで説明せずにはいられない。えみりとして初めて見るアレやコレが、エミリーの記憶と照合され、あっ!これ知ってるー!となるのだ。なんて奇妙な体験。
お屋敷の中ではおもしろかったけど、外に出るとなかなか厄介ねこの展開…!
「そんな何度も言われると傷つくな。まあいいや、で、今日はどうした? 買い物か?」
「ええ。夏用の服を新調しにね」
「おー、さすがは貴族様」
「何よー絡んでくる気?」
「こちとら商人の中でも下の方なんでね。毎日作業服だっての。ちょっとは大目に見てよ」
「言いたいことはわかるわ。学校で習ったもの。士農工商よね」
「シノ…何? そんなの習ったっけ?」
「え? あれ? あーごめんなさい! 記憶の整理! きおーくのぉー、せ、い、りぃ~」
「…なんか変だぞエミリー。妙に陽気っていうか…そんなに歌うの好きだったっけ」
「今日は暖かいから~仕方な~いのよおおお」
即興ダンスで場の空気を和ませようとする。実際はかき回してるだけなんだけど。
そんな私のアレコレを見ながら、アルベルトは諦めたようにふふふっと笑った。
「まあいいや。で、ウチにはどういったご用件で? 時計がご入用ですかねお嬢様?」
「いや別にいらないけど」
「じゃあなんでウチの店に入ってきたんだよ」
「なんかかわいいドアだなーって」
「それだけ?」
「それだけ」
「こいつ…!」
「ごめんごめん、素敵な街並みに気分が高揚する一方で。ほら、看板もかわいかったから勢いでね」
「街並みなんて見慣れたもんだろ。今更そんな感心するような景色じゃ…」
「いいのよ! とにかくお散歩して良い気分なの!」
「あーそう。要するにヒマなのか」
「その言い方はどうかと思うけど、まあ一人歩きなんてヒマじゃなきゃできないわよね。うんヒマ」
言い切った。おまけにふふんと鼻を鳴らして微笑んでみる。
そんな私の仕草にアルベルトは再び苦笑を浮かべ、じゃあ、と言いながら作業台に並んだ道具を集め始めた。
「俺、今から師匠のところに工具を届けなきゃいけないんだ。置いてっちゃったみたいでさ」
「届けるってどこに?」
「時計塔。月に一回、師匠が点検に入ってるんだ」
「あら、じゃ一緒にいきましょ。私も時計塔の広場で待ち合わせなの。どれを運ぶの? 手伝うわ」
「助かるよ、じゃあコレを」
こうして私はアルベルトと連れ立って時計塔広場に向かうことになった。
ガチャリと入口の鍵をかけてから、アルベルトが何かを思い出したように笑う。
「どうしたの?」
「いや、そういえば聖歌の練習時間の時、エミリーが一人で舞台に上がって気持ち良さそうに歌ってたなって思い出した」
「やだ、私ったら目立ちたがりじゃない」
「けっこう上手かったぜ、歌。さっきのはよくわかんなかったけど」
「即興の鼻歌みたいなものなんだから、比較しないでよ、もう!」
「ははは。よし、行こう」
工具の入った皮袋を肩にかけたアルベルトと並んで歩いていく。
私の知らない、私の昔を知っている人。
昔を知られているという感覚は久しぶりだ。えみりの頃は仕事ばっかりで誰とも連絡取ってなかったもんなー。
これから出会う人も、アルベルトみたいに知ってたり知らなかったり、チグハグの記憶になってるのかしら。
うーん、生活しづらいわね。
「あー、ごめん! なんというか、記憶をちゃんと整理してなかったっていうか」
「記憶の整理ぃ?」
アルベルトはあからさまに私の様子を訝しむ。
当然よね、何年も付き合いのある学友にいきなりはぁっ?て。
エミリーにとっては久しぶり、えみりとしては初めての街の散策。
途中、偶然立ち寄ったお店で出迎えてくれたのは学友のアルベルトだった。
幼少時、私ことエミリー・ビスマルクは、この街の教会でどうやら勉学に励んでいたみたいだ。目の前の青年アルベルトや、この街の子どもたちとともに。
絶対体感してないのに記憶があるって不思議ねー。
とはいえ、この妙な気分を黙っていられるほど私も冷静ではなかった。
「いやいや、でもね、はぁっ!?って感じなの、はぁっ!?って」
身振り手振りで説明せずにはいられない。えみりとして初めて見るアレやコレが、エミリーの記憶と照合され、あっ!これ知ってるー!となるのだ。なんて奇妙な体験。
お屋敷の中ではおもしろかったけど、外に出るとなかなか厄介ねこの展開…!
「そんな何度も言われると傷つくな。まあいいや、で、今日はどうした? 買い物か?」
「ええ。夏用の服を新調しにね」
「おー、さすがは貴族様」
「何よー絡んでくる気?」
「こちとら商人の中でも下の方なんでね。毎日作業服だっての。ちょっとは大目に見てよ」
「言いたいことはわかるわ。学校で習ったもの。士農工商よね」
「シノ…何? そんなの習ったっけ?」
「え? あれ? あーごめんなさい! 記憶の整理! きおーくのぉー、せ、い、りぃ~」
「…なんか変だぞエミリー。妙に陽気っていうか…そんなに歌うの好きだったっけ」
「今日は暖かいから~仕方な~いのよおおお」
即興ダンスで場の空気を和ませようとする。実際はかき回してるだけなんだけど。
そんな私のアレコレを見ながら、アルベルトは諦めたようにふふふっと笑った。
「まあいいや。で、ウチにはどういったご用件で? 時計がご入用ですかねお嬢様?」
「いや別にいらないけど」
「じゃあなんでウチの店に入ってきたんだよ」
「なんかかわいいドアだなーって」
「それだけ?」
「それだけ」
「こいつ…!」
「ごめんごめん、素敵な街並みに気分が高揚する一方で。ほら、看板もかわいかったから勢いでね」
「街並みなんて見慣れたもんだろ。今更そんな感心するような景色じゃ…」
「いいのよ! とにかくお散歩して良い気分なの!」
「あーそう。要するにヒマなのか」
「その言い方はどうかと思うけど、まあ一人歩きなんてヒマじゃなきゃできないわよね。うんヒマ」
言い切った。おまけにふふんと鼻を鳴らして微笑んでみる。
そんな私の仕草にアルベルトは再び苦笑を浮かべ、じゃあ、と言いながら作業台に並んだ道具を集め始めた。
「俺、今から師匠のところに工具を届けなきゃいけないんだ。置いてっちゃったみたいでさ」
「届けるってどこに?」
「時計塔。月に一回、師匠が点検に入ってるんだ」
「あら、じゃ一緒にいきましょ。私も時計塔の広場で待ち合わせなの。どれを運ぶの? 手伝うわ」
「助かるよ、じゃあコレを」
こうして私はアルベルトと連れ立って時計塔広場に向かうことになった。
ガチャリと入口の鍵をかけてから、アルベルトが何かを思い出したように笑う。
「どうしたの?」
「いや、そういえば聖歌の練習時間の時、エミリーが一人で舞台に上がって気持ち良さそうに歌ってたなって思い出した」
「やだ、私ったら目立ちたがりじゃない」
「けっこう上手かったぜ、歌。さっきのはよくわかんなかったけど」
「即興の鼻歌みたいなものなんだから、比較しないでよ、もう!」
「ははは。よし、行こう」
工具の入った皮袋を肩にかけたアルベルトと並んで歩いていく。
私の知らない、私の昔を知っている人。
昔を知られているという感覚は久しぶりだ。えみりの頃は仕事ばっかりで誰とも連絡取ってなかったもんなー。
これから出会う人も、アルベルトみたいに知ってたり知らなかったり、チグハグの記憶になってるのかしら。
うーん、生活しづらいわね。
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