愛猫の願いで令嬢転生?~目指すべきゴールが見えません!~

梅雨野十

文字の大きさ
5 / 12

5 時計塔に行きましょう

しおりを挟む
「ひどいぜエミリー、昔のクラスメイトに向かってはぁっ?って何だよ」
「あー、ごめん! なんというか、記憶をちゃんと整理してなかったっていうか」
「記憶の整理ぃ?」

アルベルトはあからさまに私の様子を訝しむ。
当然よね、何年も付き合いのある学友にいきなりはぁっ?て。

エミリーにとっては久しぶり、えみりとしては初めての街の散策。
途中、偶然立ち寄ったお店で出迎えてくれたのは学友のアルベルトだった。

幼少時、私ことエミリー・ビスマルクは、この街の教会でどうやら勉学に励んでいたみたいだ。目の前の青年アルベルトや、この街の子どもたちとともに。
絶対体感してないのに記憶があるって不思議ねー。
とはいえ、この妙な気分を黙っていられるほど私も冷静ではなかった。

「いやいや、でもね、はぁっ!?って感じなの、はぁっ!?って」

身振り手振りで説明せずにはいられない。えみりとして初めて見るアレやコレが、エミリーの記憶と照合され、あっ!これ知ってるー!となるのだ。なんて奇妙な体験。
お屋敷の中ではおもしろかったけど、外に出るとなかなか厄介ねこの展開…!

「そんな何度も言われると傷つくな。まあいいや、で、今日はどうした? 買い物か?」
「ええ。夏用の服を新調しにね」
「おー、さすがは貴族様」
「何よー絡んでくる気?」
「こちとら商人の中でも下の方なんでね。毎日作業服だっての。ちょっとは大目に見てよ」
「言いたいことはわかるわ。学校で習ったもの。士農工商よね」
「シノ…何? そんなの習ったっけ?」
「え? あれ? あーごめんなさい! 記憶の整理! きおーくのぉー、せ、い、りぃ~」
「…なんか変だぞエミリー。妙に陽気っていうか…そんなに歌うの好きだったっけ」
「今日は暖かいから~仕方な~いのよおおお」

即興ダンスで場の空気を和ませようとする。実際はかき回してるだけなんだけど。
そんな私のアレコレを見ながら、アルベルトは諦めたようにふふふっと笑った。

「まあいいや。で、ウチにはどういったご用件で? 時計がご入用ですかねお嬢様?」
「いや別にいらないけど」
「じゃあなんでウチの店に入ってきたんだよ」
「なんかかわいいドアだなーって」
「それだけ?」
「それだけ」
「こいつ…!」
「ごめんごめん、素敵な街並みに気分が高揚する一方で。ほら、看板もかわいかったから勢いでね」
「街並みなんて見慣れたもんだろ。今更そんな感心するような景色じゃ…」
「いいのよ! とにかくお散歩して良い気分なの!」
「あーそう。要するにヒマなのか」
「その言い方はどうかと思うけど、まあ一人歩きなんてヒマじゃなきゃできないわよね。うんヒマ」

言い切った。おまけにふふんと鼻を鳴らして微笑んでみる。
そんな私の仕草にアルベルトは再び苦笑を浮かべ、じゃあ、と言いながら作業台に並んだ道具を集め始めた。

「俺、今から師匠のところに工具を届けなきゃいけないんだ。置いてっちゃったみたいでさ」
「届けるってどこに?」
「時計塔。月に一回、師匠が点検に入ってるんだ」
「あら、じゃ一緒にいきましょ。私も時計塔の広場で待ち合わせなの。どれを運ぶの? 手伝うわ」
「助かるよ、じゃあコレを」

こうして私はアルベルトと連れ立って時計塔広場に向かうことになった。

ガチャリと入口の鍵をかけてから、アルベルトが何かを思い出したように笑う。

「どうしたの?」
「いや、そういえば聖歌の練習時間の時、エミリーが一人で舞台に上がって気持ち良さそうに歌ってたなって思い出した」
「やだ、私ったら目立ちたがりじゃない」
「けっこう上手かったぜ、歌。さっきのはよくわかんなかったけど」
「即興の鼻歌みたいなものなんだから、比較しないでよ、もう!」
「ははは。よし、行こう」

工具の入った皮袋を肩にかけたアルベルトと並んで歩いていく。

私の知らない、私の昔を知っている人。
昔を知られているという感覚は久しぶりだ。えみりの頃は仕事ばっかりで誰とも連絡取ってなかったもんなー。

これから出会う人も、アルベルトみたいに知ってたり知らなかったり、チグハグの記憶になってるのかしら。
うーん、生活しづらいわね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!

翠月るるな
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。 侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。 そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。 私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。 この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。 それでは次の結婚は望めない。 その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

不確定要素は壊れました。

ひづき
恋愛
「───わたくしは、シェノローラよ。シェラでいいわ」 「承知しました、シェノローラ第一王女殿下」  何も承知していないどころか、敬称まで長々とついて愛称から遠ざかっている。  ───こいつ、嫌い。  シェノローラは、生まれて初めて明確に「嫌い」と認識する相手に巡り会った。  そんなシェノローラも15歳になり、王族として身の振り方を考える時期に来ており─── ※舞台装置は壊れました。の、主人公セイレーンの娘が今回は主人公です。舞台装置~を読まなくても、この話単体で読めます。 ※2020/11/24 後日談「その後の彼ら。」を追加

攻略対象の王子様は放置されました

蛇娥リコ
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

小さな親切、大きな恩返し

よもぎ
恋愛
ある学園の交流サロン、その一室には高位貴族の令嬢数人と、低位貴族の令嬢が一人。呼び出された一人は呼び出された理由をとんと思いつかず縮こまっていた。慎ましやかに、静かに過ごしていたはずなのに、どこで不興を買ったのか――内心で頭を抱える彼女に、令嬢たちは優しく話しかけるのだった。

処理中です...