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第1章
11.派閥
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「面白い宣誓だったよ、リア。」
キースは、入るなりリアに話しかける。リアは警戒を解くことなく対峙した。
「兄上こそ、まさか罪人を連れてくるとは。予想していませんでしたよ」
「あれは偶然さ。レオン兄上に牙をむいた不届き者を見てみようと思って地下牢に行ってみたらあれだからな。まあレオン兄上が気づかないのは仕方がない。兄上は歴史に興味がおありではない。ましてや神話など、これっぽっちも興味がないのだろう。」
第1位王位継承者レオンは、武に造詣が深い人物であるが、歴史や文化といった過去をひもとく学問にはほとんど関心を示さず、古き文献を読むよりは剣を振るうことを好む。彼にとって、知とは即ち実利をもたらす技術や軍略のことであり、伝承や哲学といった抽象的な知は無用の長物でしかない。そのため、エレニア国民の髪色と瞳の色からなる差別の歴史や、階級の歴史など知る由もなかったのだろう。仮に知っていたとしても、神話の時代に王の血筋とされた髪と瞳の組み合わせなど、本当かどうかもわからないものはさっさと処刑してしまえばよい、とでも思っていたのかもしれない。
「あれの重要性は、学のあるやつにしかわからないさ。俺や、お前、あとはネロくらいか。」
「私はともかく、ネロはそうでしょうね。」
ネロというのは、第21位王位継承権をもつ一番年下の王族だ。ネロは最年少であるにもかかわらず、知識があり、キースとよく会話をしているのを見かける。逆に剣術の腕は残念なほうで、レオンからは嫌われているようだ。
「さて、リア。俺はほかの兄弟たちと違い、お前の宣誓に異を唱えるつもりはない。むしろ支援してもいいと思っている。しかし、王の最後におかけになられた言葉にも賛同できる。要は心配なのさ。それだけあの地は未知だ。何か策でもあるのか?」
リアは笑って返す。
「策といっても、大したものはないですが、私の独自の情報網は持っているつもりです。現状この王都の中でエレンディア周辺の情報について詳しいのは私を除いて他にいないでしょう。」
「ふむ。その情報があの自信の表れってことか。」
「ええ、まあ。」
キースは何かリアを品定めするかのように眺めて、一瞬だけ見下したような眼をしたのをヒナは見逃さなかった。
(キース様は…味方、と言えるのでしょうか…)
「まあ、これから王族は分裂の時期に入る。少しでも味方は多い方がいい。お前にとっても、私にとってもな。」
「ええ、そうですね。味方はしっかりと見定める必要もありますが、キース兄さまとは良い関係を築けそうですね。」
「そうなることを祈っているよ。出立は早いのか?」
「ええ。王からの許可が出次第すぐに出るつもりです。」
それを聞いたキースは満足そうにうなづく。
「その方がいいだろう。余計な政略争いに巻き込まれたくはないだろう。…ここだけの話、お前をよく思わない者は俺の派閥にもいるが、特にレオン兄上の派閥にいる者は皆お前を敵視しているようだ。気を付けるといい。」
「はい、ありがとうございます兄上。」
そう言ってキースは部屋から出ていった。扉が閉まった後、リアは疲れたように椅子に座った。キースが来た途端にベッドの裏に隠れたシャリスはのそのそと出てくる。
「なんでシャリスはそうキース兄上を避けるのさ。」
リアが呆れたように言うと、シャリスはぶつぶつと何か言い始めた。
「だってキース兄上って怖いんですもの。なんというか、人を人と思っていないというか、全部実験動物くらいにしか思っていなさそうで。」
言いたいことはわかるけど、とリアは言いそうになるのをぐっとこらえた。リアもキースのことは苦手である。その理由は、シャリスとは、いや、他の誰とも違う理由だが。
「感情の色がわからない。初めての人種だ。」
「リア様は、いつもそういわれますね。感情の色とは?」ヒナが聞く。
「ああ、そういえば話したことなかったっけ。俺、人のウソがわかるんだよ。」
そういうと、リアは立ち上がり、ヒナとシャリスの方を見た。
「ちょっと、実験してみようか。」
キースは、入るなりリアに話しかける。リアは警戒を解くことなく対峙した。
「兄上こそ、まさか罪人を連れてくるとは。予想していませんでしたよ」
「あれは偶然さ。レオン兄上に牙をむいた不届き者を見てみようと思って地下牢に行ってみたらあれだからな。まあレオン兄上が気づかないのは仕方がない。兄上は歴史に興味がおありではない。ましてや神話など、これっぽっちも興味がないのだろう。」
第1位王位継承者レオンは、武に造詣が深い人物であるが、歴史や文化といった過去をひもとく学問にはほとんど関心を示さず、古き文献を読むよりは剣を振るうことを好む。彼にとって、知とは即ち実利をもたらす技術や軍略のことであり、伝承や哲学といった抽象的な知は無用の長物でしかない。そのため、エレニア国民の髪色と瞳の色からなる差別の歴史や、階級の歴史など知る由もなかったのだろう。仮に知っていたとしても、神話の時代に王の血筋とされた髪と瞳の組み合わせなど、本当かどうかもわからないものはさっさと処刑してしまえばよい、とでも思っていたのかもしれない。
「あれの重要性は、学のあるやつにしかわからないさ。俺や、お前、あとはネロくらいか。」
「私はともかく、ネロはそうでしょうね。」
ネロというのは、第21位王位継承権をもつ一番年下の王族だ。ネロは最年少であるにもかかわらず、知識があり、キースとよく会話をしているのを見かける。逆に剣術の腕は残念なほうで、レオンからは嫌われているようだ。
「さて、リア。俺はほかの兄弟たちと違い、お前の宣誓に異を唱えるつもりはない。むしろ支援してもいいと思っている。しかし、王の最後におかけになられた言葉にも賛同できる。要は心配なのさ。それだけあの地は未知だ。何か策でもあるのか?」
リアは笑って返す。
「策といっても、大したものはないですが、私の独自の情報網は持っているつもりです。現状この王都の中でエレンディア周辺の情報について詳しいのは私を除いて他にいないでしょう。」
「ふむ。その情報があの自信の表れってことか。」
「ええ、まあ。」
キースは何かリアを品定めするかのように眺めて、一瞬だけ見下したような眼をしたのをヒナは見逃さなかった。
(キース様は…味方、と言えるのでしょうか…)
「まあ、これから王族は分裂の時期に入る。少しでも味方は多い方がいい。お前にとっても、私にとってもな。」
「ええ、そうですね。味方はしっかりと見定める必要もありますが、キース兄さまとは良い関係を築けそうですね。」
「そうなることを祈っているよ。出立は早いのか?」
「ええ。王からの許可が出次第すぐに出るつもりです。」
それを聞いたキースは満足そうにうなづく。
「その方がいいだろう。余計な政略争いに巻き込まれたくはないだろう。…ここだけの話、お前をよく思わない者は俺の派閥にもいるが、特にレオン兄上の派閥にいる者は皆お前を敵視しているようだ。気を付けるといい。」
「はい、ありがとうございます兄上。」
そう言ってキースは部屋から出ていった。扉が閉まった後、リアは疲れたように椅子に座った。キースが来た途端にベッドの裏に隠れたシャリスはのそのそと出てくる。
「なんでシャリスはそうキース兄上を避けるのさ。」
リアが呆れたように言うと、シャリスはぶつぶつと何か言い始めた。
「だってキース兄上って怖いんですもの。なんというか、人を人と思っていないというか、全部実験動物くらいにしか思っていなさそうで。」
言いたいことはわかるけど、とリアは言いそうになるのをぐっとこらえた。リアもキースのことは苦手である。その理由は、シャリスとは、いや、他の誰とも違う理由だが。
「感情の色がわからない。初めての人種だ。」
「リア様は、いつもそういわれますね。感情の色とは?」ヒナが聞く。
「ああ、そういえば話したことなかったっけ。俺、人のウソがわかるんだよ。」
そういうと、リアは立ち上がり、ヒナとシャリスの方を見た。
「ちょっと、実験してみようか。」
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