エレンディア王国記

第１章

１０．覚悟

「どういうつもりだリア！」

　儀式が終わり、部屋から出ようとしたリアを引き留め、リアの胸ぐらをつかむのは、ユリオスだった。

「…なんですか、兄上。」リアは冷たい目でユリオスを見る。リア、ユリオス、シャリスの仲の良さは王族内では周知の事実。だからこそ事情を知らず激高するユリオス、そしてそれを冷たくあしらうリアは異様な光景に見られた。

「なぜあんなわけのわからないことを…！シャリスまで巻き込むなんて！」ユリオスはリアをにらみつけ、手に力をこめる。リアはへらへらと笑う。

「兄上こそ、第１３位の身で王位を継ぐなどというわけのわからないことをしておいででしょう？まさか、勝ち目もなくそんなことを？それに、シャリスは勝手に俺に協力すると言った。私が強制したわけではないので、ご理解いただきたい。」

「理解できるかっ！俺はお前やシャリスと共に…！」ユリウスの目が潤む。リアは緩んだ手をはねのけ、身なりを整えた。

「少なくとも、儀式でああ発言した以上、私もシャリスも、そして兄上、あなたももう戻れない。宣誓した後にこんなことを言うのも無粋ですが、お覚悟を決められた方がよろしいのでは？」

　ユリウスはその言葉を聞きながらリアの方をにらんだ。リアは笑いながらユリオスに背を向けた。

「それでは、私は失礼します。準備がありますのでね。」

　リアは謁見の間を出て、その扉を閉めた。その後ろでくぐもった音でユリオスの声が聞こえた気がした。



　部屋に戻ると、シャリスがヒナと話していた。

「お疲れ様、リア。」シャリスの表情は、清々しさを感じさせるようだ。リアはその表情を見てほっとした顔をした。

「ここまでは予定通り。次はスピード感が必要だ。早急に準備をしないとな。」

「ええ。…予定通りで、いいのよね。」シャリスの表情が一瞬だけ曇る。ユリオスのことを考えていたのだろう。そう推測したリアはシャリスを鋭く見つめる。

「覚悟していたことだろう？それに、この宣誓の日から王族たちは、それぞれの利益のために動く。悩む暇はないんだ。」

「…そうね。だからこそ、そろそろ…」シャリスがそういったとき、ドアがノックされる。ヒナが扉を開け、相手を確認する。そしてリアに来訪者の名を告げた。

「…キース様がリア様にお話があると言われています。」