エレンディア王国記

火燈スズ

文字の大きさ
35 / 197
第1章

32.女子会①

しおりを挟む
 ところ変わって、ヒナはシャリス、ルテラと共に東地区の中央を歩いていた。

「リアは旅のための物資を集めてって言ったけど、何を買えばいいのかしら。」シャリスが腕を組んで考える様子を見せる。すると、ヒナがそれに答えた。

「携帯食料とか、治療キットとかですかね。あ、その前に装備をしっかりしないといけないですね。ここから先、草原を超えたら、魔獣が出ますし。」

「魔獣!?逃げる…は無理よね。」

「ええ。魔獣からの逃走は難しいかと…。シャリス様は、武術の経験はあるのですか?」

「いえ、そっちはからっきしで…でも魔法なら少しはできるわ。」

 この世界には魔法が存在するが、一般的とは言えない。才能にかなり左右される技術な上に、学ぶには莫大な金が必要だ。貴族や王族が学ぶ学問であると人々は認識しているだろう。

「それは心強いです。ルテラさんは?」

「…え?」ルテラは突然話しかけられて戸惑う。二人が話している間、後ろに黙ってついてきていたが、話しかけられるとは思っていなかったのだろう。

「ルテラさんは魔獣に出会ったときに戦うことはできる?」

「ええっと…。剣術を少しは。独学ですけど。」それを聞いたヒナは「え?」と言いたげにルテラを見る。

「そうなんですね、でも武器を持ってないですよね。」すると、ルテラは悲しそうにうつむく。

「その、捕まった時に没収されてしまってるので…キース様でも回収は難しかったようです。」

「そうなんだ…。」ヒナが悩むそぶりを見せる。すると、シャリスが突然手を合わせた。

「そうだ!せっかくだし、3人で装備を買いに行きましょう!服もですけど、武器も!」

「いいですね。でもそんなに買えるかな…」ヒナが自分の財布をみてうなだれる。ルテラは絶望的な表情をしている。しかしシャリスは得意げに笑った。

「ふふふ、実はリアから経費分としていくらか預かってますわ。だから大丈夫!」
 ヒナは自慢げに腕を組むシャリスを見てルテラと顔を見合わせる。そして、笑ってしまうのだった。

「な、なにを笑ってるのよー!」
(…よかった、少しずつでも溶け込んでもらえれば…。)シャリスは二人に突っ込みを入れながら、ルテラの笑顔が見れたことにほっとするのだった。

 さかのぼること昨日。キースに最後に会ったとき、つまり、ルテラを預けられたとき、シャリスはキースに言われたのだ。

「ここではルテラは罪人だが、お前たちと外に出てしまえば、ただの旅人だ。この王都でつらい思いをしている分、思いっきり羽を伸ばさせてやってくれ。悪い子じゃないんだ。」

 シャリスは、なぜキースがあんなにルテラを気にかけているのか、謁見の間での話も含めて疑問は多く残っていた。しかし、目の前のルテラという年下の少女を見ていると、守ってあげなくてはならないという気持ちになってしまうのだった。

「よし、じゃあまずは服を買いましょー!」

「おー!」シャリスが手を上げると、それに続いてヒナが手を上げ、ルテラの手も握る。

「お、おー?」ルテラは戸惑いつつも、二人と一緒に手を上げるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥
ファンタジー
ある世界、ある時代、ある国で、一人の若者が領地を取り上げられ、誰も人が住まない僻地に新しい領地を与えられた。その領地をいかに発展させるか。周囲を巻き込みつつ、周囲に巻き込まれつつ、それなりに領地を大きくしていく。 ざまぁっぽく見えて、意外とほのぼのです。『新米エルフとぶらり旅』と世界観は共通していますが、違う時代、違う場所でのお話です。

『婚約破棄された聖女リリアナの庭には、ちょっと変わった来訪者しか来ません。』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
王都から少し離れた小高い丘の上。 そこには、聖女リリアナの庭と呼ばれる不思議な場所がある。 ──けれど、誰もがたどり着けるわけではない。 恋するルミナ五歳、夢みるルーナ三歳。 ふたりはリリアナの庭で、今日もやさしい魔法を育てています。 この庭に来られるのは、心がちょっぴりさびしい人だけ。 まほうに傷ついた王子さま、眠ることでしか気持ちを伝えられない子、 そして──ほんとうは泣きたかった小さな精霊たち。 お姉ちゃんのルミナは、花を咲かせる明るい音楽のまほうつかい。 ちょっとだけ背伸びして、だいすきな人に恋をしています。 妹のルーナは、ねむねむ魔法で、夢の中を旅するやさしい子。 ときどき、だれかの心のなかで、静かに花を咲かせます。 ふたりのまほうは、まだ小さくて、でもあたたかい。 「だいすきって気持ちは、  きっと一番すてきなまほうなの──!」 風がふくたびに、花がひらき、恋がそっと実る。 これは、リリアナの庭で育つ、 小さなまほうつかいたちの恋と夢の物語です。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢、前世の記憶を駆使してダイエットする~自立しようと思っているのに気がついたら溺愛されてました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢エヴァンジェリンは、その直後に前世の記憶を思い出す。 かつてダイエットオタクだった記憶を頼りに伯爵領でダイエット。 ついでに魔法を極めて自立しちゃいます! 師匠の変人魔導師とケンカしたりイチャイチャしたりしながらのスローライフの筈がいろんなゴタゴタに巻き込まれたり。 痩せたからってよりを戻そうとする元婚約者から逃げるために偽装婚約してみたり。 波乱万丈な転生ライフです。 エブリスタにも掲載しています。

処理中です...