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第二章 到着した王都サンドイで
第十四話 ディスト、始祖種と相対す
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更新安定しなくてすいません!!
お気に入り1000人突破しました!ありがとうございます!!
――――――――――
ディストが語り部に連絡――鷲鷹を使い手紙を出した――を取り、返事が送られてくる前にその当人が現れたのは大規模討伐の会議の最中だった。
(――――っ!!この野郎!!まじで勘弁してくれ)
声には決して出せない悪態を心の中でのみ吐いたのは、ディストのみ知る。
意気揚揚と街へ出掛けた――氾濫が近付いているにも関わらず暢気にしているのはマーリルゆえか、どんな戦いになるか実感がわかないからかはディストには分からない。果てしなく前者な気がするがそれは精神衛生上考えないようにした――マーリルが、総司令官であるファンダルとともに現れた時には反射的に額に青筋が立った。
(今度は何をしやがった)
そんな内心を隠して――決して隠しきれずついマーリルを見てしまったが――ディストはファンダルに問いかけた。
「何があったんですか?」
「ディストよ、お前は見えるか?」
質問の答えではなかったがファンダルは明らかにマーリルを気にしていた。もっと言うなれば、不自然に上げられた、明らかに何かを持っているマーリルの両手の上の物を、だ。瞬時に理解したディストは魔力を込めてマーリルの両手を観た。
「蟲……?」
そこで漸く何故マーリルこの場に連れて来られたのかを聞き理解した。不可抗力だったとは言え、日頃のマーリルの行い故なので説教をなくすつもりはないが。
それはさておき、折角優秀な冒険者がこの場にいるのだからまずは意見をだしあったほうが余程有意義だろうと魔力を纏い透明に見える蟲型の魔物の調査をすることになった。
結局わかったのは普通に居る団子蟲という蟲型の魔物だったことと、『カンジ』という渡り人であるニホンジンの使う文字が魔力で書かれていたことだ。
Sランク冒険者であるラリアは渡り人を疑っていたようだが、ニホンゴを日常的に使っていなくとも研究している者も、また教えている場所もあり知ろうと思えば知ることが出来る言語なのだ。そのお陰でディストも気付くことが出来たわけだが、習得していたわけではないので確認の意味でマーリルに聞いたのだ。
その時だった。
ディストが送った語り部への返事を送るよりも余程自分で行った方がはやいと言いたげに王城に侵入なんてしてきた気配を感じたのは。
(―――――っ!!この野郎!!まじで勘弁してくれ)
なんだかんだ面倒見のいいディストのようなお人好しは、得てして自分勝手に動く者に巻き込まれざるを得ない。マーリル然り、
「SXランク、リオウと申します」
少年のように楽しげに笑った、御仁然りである。
▽
「リオウ!ディスト!!」
冒険者互助組合内、ギルドマスターの執務室にその男は居た。
「マサユキお久しぶりです」
リオウがにこやかに挨拶した男は黒髪黒眼、明らかな日本人の特徴を持ったマサユキは母親が渡り人の『混じり』であった。三十代半ばのこの男は、
「こうして三人揃うのはディストがSXになった時だな」
始祖種討伐を目的としている語り部所属、最後のSXランクである。
「まさか俺たちの代で現れるとは思わなかったわ!」
笑い皺がトレードマークのマサユキは、いつもにこにこと笑顔を絶やさない男だ。楽しい時も怒っている時も、そして悲しい時もこの男は笑顔を絶やさないのだ。リオウとは違う種類の笑顔――リオウは何を考えているかわからない笑顔が多い――で、半分ほどは本気で楽しんでいる節があるが。
「そうですね。いくら文献の話を聞いては居ても、正直アヴァ・モントは御伽噺でしたからね」
「まぁ、普通はそうさな」
何時現れるとも限らない始祖種を、否何時現れてもいいように語り部を、SXランクという地位を、逸早く確立させたのがインフェリアという名の一族だった。
「俺だって族長に拾われていなければ、そんな話今も信じちゃいねぇよ」
はは、とマサユキを続けた。
マサユキは母を渡り人に持つ普通の人間だった。しかし幼い頃に路頭に迷っていたところを語り部に拾われ語り部の中で育ち、小さな頃より始祖種などの話を真実として聞かされていたのだ。
魔族――長寿の一族であるインフェリアはすでに部族としては残されてはいない。インフェリアの名は語り部一族の族長が受け継ぐ名として残されるのみとなっていた。
「さぁ、数百年ぶりの『はじまりの魔物』ですよ」
リオウ=インフェリアはこれから脅威と会うというのに、満面の笑顔で仲間たちに言った。
▽
「主様、ここより徒歩で二日の場所に蟲型魔物の群を発見しました」
「ん、スコーピオンキングは確認できた?」
「いえ、ですが眷属であるスコーピオンは確認しました」
語り部からも数人派遣されており斥候に数名、始祖種を討伐するSXランクのサポートとなる者が数名、森の中に潜んでいる。あまり語り部の存在を公にする事も憚られる――国のパワーバランスが壊れかねない――ため、最低限の人数が来ているのだ。
語り部が手を出すのは飽くまで始祖種に対してのみであり、また始祖種を討伐出来るのが語り部だけなのである。
今ディストたちがいるのは王都から離れた北東に位置する森の中だ。王都の北側にあるササラーヤ山で魔物が氾濫をおこしており、本来の大規模討伐の対象となっている魔物たちはまっすぐ北側の平原を通り王都へ、始祖種である王色蠍以下蟲型魔物たちは回り込むように東に別たれて森を通り王都へと向かっているようだ。
始祖種が統率しているのは蟲型の魔物のみだ。それ以外の魔物は追い立てられるように氾濫を起こしているため、本来の時期よりも大幅に速度を上げてヒトの領域に踏み込んできているようだ。本能に従いまっすぐに王都へ向かってきている。
基本的には語り部が討伐するのは王色蠍のみだ。蟲型の魔物である眷族たちはついでであり、取り逃がした蟲型の魔物や始祖種が統率していない魔物の討伐は王都の冒険者や騎士団、軍が討伐する手はずになっている。
「氾濫した魔物はどうでしたか」
「はい。平原を埋め尽くすほどの魔物がサンドイに向かっております。空からの景観は圧巻でした」
「おいおいおいおい、暢気なねぇちゃんだな」
「口を慎みなさい」
「へいへい」
本気で侮辱するつもりでマサユキも言っているわけではないのだろう、一切の悪びれた様子も無く斥候役を買って出た犬の獣人――アリッサにつっこみを入れていた。
語り部族長であるリオウに仕えているアリッサは、森の中だと言うのにヒラヒラのひざ丈スカートに白いレースのエプロン、ヘッドドレスをつけた所謂メイド服というものを身につけていた。
初めて見た時ディストは言葉を失ったものだ。
SXランクになるにはそれぞれの国のSランクになってから語り部の審査を受ける必要がある。その中で一番何が必要か、それは単純な戦闘力である。
始祖種を倒すために存在するSXランクは語り部でも精鋭と呼ばれる人と戦い、勝つかまたは認められるほどの戦闘力が必要だったのだ。どうしてもSXランクにならなければならなかったディストは、若かりし時より大神殿――語り部及び教会の本部――に通い詰め、昨年漸くその資格を得た。その時の試験官がアリッサだったのだ。つまりメイドにボコボコにされたのである。
「アリッサ」
「はい」
「ジプニルに言ってサティア国に情報を持って行って下さい」
「わかりました」
指令を受けたアリッサはすぐにその場から消えた。勿論本当に消えたわけではない。脚力が異常に発達――身体強化済み――したアリッサは、消えたように見えるほどはやく走っていったのだ。
「まずはスコーピオンキングを探します。と言ってもこの辺りに居るのであれば直ぐに姿を現すでしょうが」
「サーチはいるか?」
「いえ、眷族くらいなら見えてからでも相手できます」
「先導します」
「よろしくお願いします」
森の中から出てきた語り部の男が、王色蠍の眷族の元へ案内してくれるようだ。
「二人とも武器を出して置きなさい」
「はい」
「あいよ」
リオウに命ぜられたディストとマサユキは、各々のマジックボックスから愛用の武器を取り出す。
マサユキが取り出したのは大剣と呼ぶには些か長い得物だった。身長を悠に超えるそれは幅広で普通の腕力では持ち上げられないほどの大きさを誇る。斬るよりも叩きつけることに特化し、楯にもなるだろうことが見受けられた。その名も『大叩剣』。前衛で戦うよりも楯の役割を担うことの多い、マサユキのために作られた愛剣である。
次いでディストが取り出したのは篭手である。鉤爪がついた身体を主体として戦うための武器だ。
マーリルと居る時には一度として出したことのないそれは、たんに出す必要がなかっただけである。ディストはSXランクを認められただけあり、世界最強の称号を持ち得る戦闘力を有する。ただしそれは今のままでは戦うだけならばSランクになれても、SXランクには届かなかったのだ。
それはディストの出自――古の血を引いた先祖が返り――というのが大きく関係しているのだが、今はまだマーリルにお目見えする事はないだろう。きちんとマーリルが大人しくしれいれば、の話であるが。
(嫌な予感がする)
それは始祖種に対しして武者震いしている、と思いたいのだが、ディストの野生の勘は激しく首を横に振っている。
(何もするなよ!!)
大人しくしていることを知らない危機感皆無の小坊主に内心悪態を吐きながら、ディストは目の前の事に集中した。
「とりあえず眷族を片っ端から消していきましょう」
リオウに言われて改めて気を引き締める。まだまだ距離はあるが数の暴力という言葉がある通り、一体一体はそれほど脅威になり得なくとも数が集まれば十分ヒトの街を占拠出来るだろうほどに、地面を埋め尽くす視界の中は異常であった。
―――蠍、蠍、蠍、蟲、蟲、蟲。語り部の男に案内された先で見たものは、虫が嫌いな者ならば、否戦いの心得のない者ならば誰でもすぐに卒倒してもおかしくはないような異様な光景であった。ディストは知らずごく唾を飲み込んだ。
「打ち洩らしは気にしなくていいですからね……散開」
「は!!」
リオウ、マサユキ、ディストが目指すは始祖種のみ。その途中にいる眷族や蟲たちを屠るのは飽くまで次いでである。
リオウの掛け声でSXランクの二人は同時に姿を消し、森に潜む語り部の精鋭たちは魔力を練った。
「さて―――――お出ましですね」
リオウが呟くその先にそれは姿を現した。
人間ほどの大きさの魔蠍がただの蠍に見えるほどの大きさの巨大な蠍。ズゥンズゥンと地響きを鳴らしながら歩くそれは――――――王色蠍。
とうとう始祖種が姿を現した。
「うてっ!!!」
リオウの合図で魔力を練っていた語り部たちが蟲型の魔物に一番有効であろう炎の魔術を放った。ディストとマサユキが魔物の群れに到着する前に、溢れかえる蟲たちにその洗礼は与えられた。
消えていく蟲たちを己の目で確認しながら、ディストはただただ始祖種を目指す。
近づけば近づくほどその大きさは計り知れない。こんな大きな魔物と相対するのは、Sランクの試験である蒼龍の時以来である。
(俺の力量では足りないな)
そのままでは勝つことが出来ないのは百も承知である。
(いっちょやるか!!)
ディストの身体近くを魔力が漂う。魔力はディストの髪の色である漆黒の色に変わり、視認できるほどの濃密なそれになると徐々にディストの身体を覆い隠してしまった。すぐさま靄のように薄くなり魔力が晴れるとそれは姿を現した。
――一頭の巨大な漆黒の狼。
鉤爪がついた籠手は、始めからそうだったのではないかと思わせるほどにその漆黒の巨狼の一部になっていた。始祖種には及ばないながらも他から見れば脅威になり得るほどの濃密な魔力を漂わせて、自らを鼓舞するように咆哮する。
魔蠍を優に超える巨大な漆黒の狼は、速度をそのままに始祖種――王色蠍へと突っ込んでいく。
『いくぞぉぉぉおおおおお!!』
マーリルが居れば「マヌアーサ様みたい!」とはしゃぐだろう姿――漆黒の狼となったディストは、始祖種と相対した。
赤狼族が末裔ブラストルト=ウルク=ストロバリヤの血が、今現代に蘇る。
――――――――――
苦労人ディストさんの話でした。
次回漸くマーリルが、戦う・・・?
いつもお読みいただきありがとうございます!
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ディストが語り部に連絡――鷲鷹を使い手紙を出した――を取り、返事が送られてくる前にその当人が現れたのは大規模討伐の会議の最中だった。
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声には決して出せない悪態を心の中でのみ吐いたのは、ディストのみ知る。
意気揚揚と街へ出掛けた――氾濫が近付いているにも関わらず暢気にしているのはマーリルゆえか、どんな戦いになるか実感がわかないからかはディストには分からない。果てしなく前者な気がするがそれは精神衛生上考えないようにした――マーリルが、総司令官であるファンダルとともに現れた時には反射的に額に青筋が立った。
(今度は何をしやがった)
そんな内心を隠して――決して隠しきれずついマーリルを見てしまったが――ディストはファンダルに問いかけた。
「何があったんですか?」
「ディストよ、お前は見えるか?」
質問の答えではなかったがファンダルは明らかにマーリルを気にしていた。もっと言うなれば、不自然に上げられた、明らかに何かを持っているマーリルの両手の上の物を、だ。瞬時に理解したディストは魔力を込めてマーリルの両手を観た。
「蟲……?」
そこで漸く何故マーリルこの場に連れて来られたのかを聞き理解した。不可抗力だったとは言え、日頃のマーリルの行い故なので説教をなくすつもりはないが。
それはさておき、折角優秀な冒険者がこの場にいるのだからまずは意見をだしあったほうが余程有意義だろうと魔力を纏い透明に見える蟲型の魔物の調査をすることになった。
結局わかったのは普通に居る団子蟲という蟲型の魔物だったことと、『カンジ』という渡り人であるニホンジンの使う文字が魔力で書かれていたことだ。
Sランク冒険者であるラリアは渡り人を疑っていたようだが、ニホンゴを日常的に使っていなくとも研究している者も、また教えている場所もあり知ろうと思えば知ることが出来る言語なのだ。そのお陰でディストも気付くことが出来たわけだが、習得していたわけではないので確認の意味でマーリルに聞いたのだ。
その時だった。
ディストが送った語り部への返事を送るよりも余程自分で行った方がはやいと言いたげに王城に侵入なんてしてきた気配を感じたのは。
(―――――っ!!この野郎!!まじで勘弁してくれ)
なんだかんだ面倒見のいいディストのようなお人好しは、得てして自分勝手に動く者に巻き込まれざるを得ない。マーリル然り、
「SXランク、リオウと申します」
少年のように楽しげに笑った、御仁然りである。
▽
「リオウ!ディスト!!」
冒険者互助組合内、ギルドマスターの執務室にその男は居た。
「マサユキお久しぶりです」
リオウがにこやかに挨拶した男は黒髪黒眼、明らかな日本人の特徴を持ったマサユキは母親が渡り人の『混じり』であった。三十代半ばのこの男は、
「こうして三人揃うのはディストがSXになった時だな」
始祖種討伐を目的としている語り部所属、最後のSXランクである。
「まさか俺たちの代で現れるとは思わなかったわ!」
笑い皺がトレードマークのマサユキは、いつもにこにこと笑顔を絶やさない男だ。楽しい時も怒っている時も、そして悲しい時もこの男は笑顔を絶やさないのだ。リオウとは違う種類の笑顔――リオウは何を考えているかわからない笑顔が多い――で、半分ほどは本気で楽しんでいる節があるが。
「そうですね。いくら文献の話を聞いては居ても、正直アヴァ・モントは御伽噺でしたからね」
「まぁ、普通はそうさな」
何時現れるとも限らない始祖種を、否何時現れてもいいように語り部を、SXランクという地位を、逸早く確立させたのがインフェリアという名の一族だった。
「俺だって族長に拾われていなければ、そんな話今も信じちゃいねぇよ」
はは、とマサユキを続けた。
マサユキは母を渡り人に持つ普通の人間だった。しかし幼い頃に路頭に迷っていたところを語り部に拾われ語り部の中で育ち、小さな頃より始祖種などの話を真実として聞かされていたのだ。
魔族――長寿の一族であるインフェリアはすでに部族としては残されてはいない。インフェリアの名は語り部一族の族長が受け継ぐ名として残されるのみとなっていた。
「さぁ、数百年ぶりの『はじまりの魔物』ですよ」
リオウ=インフェリアはこれから脅威と会うというのに、満面の笑顔で仲間たちに言った。
▽
「主様、ここより徒歩で二日の場所に蟲型魔物の群を発見しました」
「ん、スコーピオンキングは確認できた?」
「いえ、ですが眷属であるスコーピオンは確認しました」
語り部からも数人派遣されており斥候に数名、始祖種を討伐するSXランクのサポートとなる者が数名、森の中に潜んでいる。あまり語り部の存在を公にする事も憚られる――国のパワーバランスが壊れかねない――ため、最低限の人数が来ているのだ。
語り部が手を出すのは飽くまで始祖種に対してのみであり、また始祖種を討伐出来るのが語り部だけなのである。
今ディストたちがいるのは王都から離れた北東に位置する森の中だ。王都の北側にあるササラーヤ山で魔物が氾濫をおこしており、本来の大規模討伐の対象となっている魔物たちはまっすぐ北側の平原を通り王都へ、始祖種である王色蠍以下蟲型魔物たちは回り込むように東に別たれて森を通り王都へと向かっているようだ。
始祖種が統率しているのは蟲型の魔物のみだ。それ以外の魔物は追い立てられるように氾濫を起こしているため、本来の時期よりも大幅に速度を上げてヒトの領域に踏み込んできているようだ。本能に従いまっすぐに王都へ向かってきている。
基本的には語り部が討伐するのは王色蠍のみだ。蟲型の魔物である眷族たちはついでであり、取り逃がした蟲型の魔物や始祖種が統率していない魔物の討伐は王都の冒険者や騎士団、軍が討伐する手はずになっている。
「氾濫した魔物はどうでしたか」
「はい。平原を埋め尽くすほどの魔物がサンドイに向かっております。空からの景観は圧巻でした」
「おいおいおいおい、暢気なねぇちゃんだな」
「口を慎みなさい」
「へいへい」
本気で侮辱するつもりでマサユキも言っているわけではないのだろう、一切の悪びれた様子も無く斥候役を買って出た犬の獣人――アリッサにつっこみを入れていた。
語り部族長であるリオウに仕えているアリッサは、森の中だと言うのにヒラヒラのひざ丈スカートに白いレースのエプロン、ヘッドドレスをつけた所謂メイド服というものを身につけていた。
初めて見た時ディストは言葉を失ったものだ。
SXランクになるにはそれぞれの国のSランクになってから語り部の審査を受ける必要がある。その中で一番何が必要か、それは単純な戦闘力である。
始祖種を倒すために存在するSXランクは語り部でも精鋭と呼ばれる人と戦い、勝つかまたは認められるほどの戦闘力が必要だったのだ。どうしてもSXランクにならなければならなかったディストは、若かりし時より大神殿――語り部及び教会の本部――に通い詰め、昨年漸くその資格を得た。その時の試験官がアリッサだったのだ。つまりメイドにボコボコにされたのである。
「アリッサ」
「はい」
「ジプニルに言ってサティア国に情報を持って行って下さい」
「わかりました」
指令を受けたアリッサはすぐにその場から消えた。勿論本当に消えたわけではない。脚力が異常に発達――身体強化済み――したアリッサは、消えたように見えるほどはやく走っていったのだ。
「まずはスコーピオンキングを探します。と言ってもこの辺りに居るのであれば直ぐに姿を現すでしょうが」
「サーチはいるか?」
「いえ、眷族くらいなら見えてからでも相手できます」
「先導します」
「よろしくお願いします」
森の中から出てきた語り部の男が、王色蠍の眷族の元へ案内してくれるようだ。
「二人とも武器を出して置きなさい」
「はい」
「あいよ」
リオウに命ぜられたディストとマサユキは、各々のマジックボックスから愛用の武器を取り出す。
マサユキが取り出したのは大剣と呼ぶには些か長い得物だった。身長を悠に超えるそれは幅広で普通の腕力では持ち上げられないほどの大きさを誇る。斬るよりも叩きつけることに特化し、楯にもなるだろうことが見受けられた。その名も『大叩剣』。前衛で戦うよりも楯の役割を担うことの多い、マサユキのために作られた愛剣である。
次いでディストが取り出したのは篭手である。鉤爪がついた身体を主体として戦うための武器だ。
マーリルと居る時には一度として出したことのないそれは、たんに出す必要がなかっただけである。ディストはSXランクを認められただけあり、世界最強の称号を持ち得る戦闘力を有する。ただしそれは今のままでは戦うだけならばSランクになれても、SXランクには届かなかったのだ。
それはディストの出自――古の血を引いた先祖が返り――というのが大きく関係しているのだが、今はまだマーリルにお目見えする事はないだろう。きちんとマーリルが大人しくしれいれば、の話であるが。
(嫌な予感がする)
それは始祖種に対しして武者震いしている、と思いたいのだが、ディストの野生の勘は激しく首を横に振っている。
(何もするなよ!!)
大人しくしていることを知らない危機感皆無の小坊主に内心悪態を吐きながら、ディストは目の前の事に集中した。
「とりあえず眷族を片っ端から消していきましょう」
リオウに言われて改めて気を引き締める。まだまだ距離はあるが数の暴力という言葉がある通り、一体一体はそれほど脅威になり得なくとも数が集まれば十分ヒトの街を占拠出来るだろうほどに、地面を埋め尽くす視界の中は異常であった。
―――蠍、蠍、蠍、蟲、蟲、蟲。語り部の男に案内された先で見たものは、虫が嫌いな者ならば、否戦いの心得のない者ならば誰でもすぐに卒倒してもおかしくはないような異様な光景であった。ディストは知らずごく唾を飲み込んだ。
「打ち洩らしは気にしなくていいですからね……散開」
「は!!」
リオウ、マサユキ、ディストが目指すは始祖種のみ。その途中にいる眷族や蟲たちを屠るのは飽くまで次いでである。
リオウの掛け声でSXランクの二人は同時に姿を消し、森に潜む語り部の精鋭たちは魔力を練った。
「さて―――――お出ましですね」
リオウが呟くその先にそれは姿を現した。
人間ほどの大きさの魔蠍がただの蠍に見えるほどの大きさの巨大な蠍。ズゥンズゥンと地響きを鳴らしながら歩くそれは――――――王色蠍。
とうとう始祖種が姿を現した。
「うてっ!!!」
リオウの合図で魔力を練っていた語り部たちが蟲型の魔物に一番有効であろう炎の魔術を放った。ディストとマサユキが魔物の群れに到着する前に、溢れかえる蟲たちにその洗礼は与えられた。
消えていく蟲たちを己の目で確認しながら、ディストはただただ始祖種を目指す。
近づけば近づくほどその大きさは計り知れない。こんな大きな魔物と相対するのは、Sランクの試験である蒼龍の時以来である。
(俺の力量では足りないな)
そのままでは勝つことが出来ないのは百も承知である。
(いっちょやるか!!)
ディストの身体近くを魔力が漂う。魔力はディストの髪の色である漆黒の色に変わり、視認できるほどの濃密なそれになると徐々にディストの身体を覆い隠してしまった。すぐさま靄のように薄くなり魔力が晴れるとそれは姿を現した。
――一頭の巨大な漆黒の狼。
鉤爪がついた籠手は、始めからそうだったのではないかと思わせるほどにその漆黒の巨狼の一部になっていた。始祖種には及ばないながらも他から見れば脅威になり得るほどの濃密な魔力を漂わせて、自らを鼓舞するように咆哮する。
魔蠍を優に超える巨大な漆黒の狼は、速度をそのままに始祖種――王色蠍へと突っ込んでいく。
『いくぞぉぉぉおおおおお!!』
マーリルが居れば「マヌアーサ様みたい!」とはしゃぐだろう姿――漆黒の狼となったディストは、始祖種と相対した。
赤狼族が末裔ブラストルト=ウルク=ストロバリヤの血が、今現代に蘇る。
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