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はじまりの唄

迷子

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あるところに、少女が居た。


その少女の父親は人殺しで、
母親はアルコール中毒。


少女によく暴力を振ってくる。



少女は笑わなくなった。




少女は毎日いじめられて居た。


「お前の父ちゃん、人殺し~!」


「殺人犯!殺人犯!」


「あの子のお母さん怖いよね。」


「死んでるみたいな顔してる。」



少女は独り、寂しく歩く。



それでも少女は生きている。



寂しく悲しく生きている。



ある時、少女を見た一人の女性が
少女の家のお隣のお婆さんにこう尋ねた。


「あの子、どうして泣かないんですか?
   辛いでしょうに…。」


お婆さんは答えた。


「泣く事も知らないんだよ。
   一度も笑った事も無い。
   喜びも、痛みも、
   全部分からなくなっちゃったんだよ。」


そう言ったお婆さんは、
とても悲しい目をしていた。


あの子が産まれてから今までずっと、
隣の家から見守ってきた。


お婆さんはどんな気持ちなんだろう。


辛いとか、苦しいとか、
そんな単純なものじゃない。


簡単じゃない。



女性は何も言えないまま、
下を向いて歩いていった。



あの子は居場所を探してるのよ。


自分が居てもいい場所を。


自分がいなきゃいけない場所を。



人から拒否されていた人は
人から求められる事を強く望む。



あの子はいつか、
壊れてしまうんじゃないかと、
不安で仕方が無い。




少女はある日、一人の少年と出会った。


暖かい両親に、
たくさんの友達に囲まれた少年。


少女とはまるで正反対。



少年は言った。



「一緒に遊ぼう?楽しいよ。」




その時初めて少女は泣いた。


初めて喜びを知った。


初めて笑うと言う事を知った。




その何でも無い一言が、
少女にとって
どれだけ大きなものだったかと言う事を、



あのお婆さんだけが、知っている。
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