詠み人知らず、言わずと知れて。

立花伊作

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届けたい想いがある

きっと伝えたい

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「ありがとう」



僕はこの言葉を、

一体どれだけの人に
伝えることが出来ただろう。


真面目に、目を見て言えたことが
果たしてあっただろうか。




僕は小さいころ、かくれんぼが得意だった。


得意すぎて、
最後まで見つけてもらえなかった
こともあった。


それがすごく悲しくて、寂しくて、

ずっとそこに隠れて泣いていた。


すると母がやって来て、

泣いてグシャグシャになった
僕の汚い顔を拭ってこう言ったんだ。



「お母さんはかくれんぼが得意なのよ。
   あなたなんて、
   すぐ見つけてしまうんだから。」



優しい、優しい言葉。


母の温もりと言うものなのだろうか。


とても不思議な感じがした。


いつの間に泣き止んで、

母に手を引かれるままに、

家に帰った覚えがある。



僕はあの時、
「ありがとう」と言えただろうか。


何か返すことが出来ただろうか。


自分の事でいっぱいいっぱいだった
あのころの自分が情けない。


その時の感情に身を任せて、
蹲っていた自分が憎らしい。


そしてその時実感した。


僕はまだ子供だったのだと。




学生時代に、いじめられたことがあった。


僕には仲のいいといえる友達もいなくて、
ただ一人。


そんな僕を、助けてくれた奴がいた。


先輩達に殴られて
ボロボロになっていた時に、

遠く離れたところから
そいつはいきなり叫んだんだ。



「先生ぇ~!!!!」



僕を囲んでいた先輩達は
その言葉にビビって逃げて行ってしまった。

声のした方には奴がいたけれど、
奴はニカッと笑った後
ダッシュで逃げて行きやがった。


あの時、僕は言いそびれてしまった。



「ありがとう」と。



翌日も、そのあとの日も、

奴と話す機会は持てなかった。



そして今、僕は多くの人に支えられている。


あなたにも、あなたにも、あなたにも。



数え始まったら止まらない。



そう言うものだと思うから。




僕は精一杯生きようと思う。



いつかきっと、
あなたに「ありがとう」を伝えたいから。
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