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目頭が熱い

時と犬と少年

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「え?あそこの家の犬、
   死んじゃったの?」


「えぇ。

   それで今は新しい犬を
   飼っているんですって。」


「そうなんだ。」


「そこのうちの子、
   反対してたらしいわよ?

   でもそうよね、
   なかなか割り切れないんじゃないかしら。

   生まれた時からずっと一緒で、
   あの子にとっては
   兄弟みたいな存在だったんだもの。

   いくら中学生になったからって、
   すぐには納得出来ないわよね…。」


「…そうゆうもんかね………。」


「そういうもんよ。

   あいつの変わりになる犬なんて
   いないんだ!!って泣いていたもの…。

   可哀想にね…。」


「ふーん…。」




それが例え人でなくても、

何かを思って泣ける人は、

心の優しい人なんだと思う。


あんなに泣き虫だった少年が、

もう中学生になった。


犬も同じだけ、

いや、それ以上に年を食ったに違いない。



愛着、というわけでは無いだろう。


その子の時間が止まってしまうほど、

その子は本当にその犬を愛していたんだね。


人間と同じくらいの価値が、

その子にとってその犬にはあったのだろう。



ペットを飼えば分かるのだろうか。


何かを失えば分かるのだろうか。


何かを思い、泣ける気持ちを。


僕はあまりにも恵まれ過ぎていて、

何かを失い悲しむ儚い気持ちを
持ち合わせていない。


でも、僕にもいつかきっとくるのだ。



何かを失い、思う時が。



その時、僕は泣けるだろうか。


悲しむことが出来るだろうか。


優しい人間になれるだろうか。
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