詠み人知らず、言わずと知れて。

立花伊作

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君を守りたい

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声を上げて、
叫びだしたくなる事がある。



その声に、気づいてほしくて。


誰かに、分かってもらいたくて。


だから、僕は今も、
枯れるくらいの大きな声で、
君を呼んでいる。


でも、君は何も答えてくれなくて。


僕は不安で不安でたまらないんだ。


君はどこか遠くにいるのだろうか。


近くで息を潜めているのだろうか。


僕がそっと息絶えるのを、
黙って見ているのだろうか。


涙が出るほど声を張り上げても、
枯れるほど君の名を呼んでも、
何も起こらないし、
君も返事をしてくれない。



君は酷い人だ。


愛だと言って僕を罵り、
特別だと言って僕を騙した。


僕は、
何がなんだか分からないままだ。


昔も、今も。


ずっと。


何も教えられないままだ。


涙を拭った世界はモノクロで、
思いやりや慰めなんて通用しなくて、
ただ誰かを憎んでいる。


負の感情だけが渦巻いていて、
希望の光は、
絶望の闇に喰い殺された。


君の影法師が僕の頭をそっと撫でて、
僕をまた突き落とす。


僕はもう疲れ果てていて、
奈落の底に落ちて行くだけ。


僕の声は、君には届かない。


届いたとしても、
君には分からないのだろう。


この世界に生まれてしまった僕達は、
愛する人をただ憎み、罵り、
殺すことしか出来ないのだ。


そもそも、愛するということを、
知らないままなのだ。



優しい言葉を拒絶し、
ぬくもりのある声を聞き流す。


あたたかいものなど
無いのだと教えられ、
生まれてから死ぬまでずっと、
誰かを傷つけ、恨んで、憎み続ける。



君は失った。


僕を。


愛する僕を。


だから、もう、いいんだよ。


僕を殺せば、君は、楽になれる。


この世界のルールに乗っ取って、
僕が君を愛していた証を残す。


君の心に深く、深く、刻み込む。


君に疎まれて死んで行く僕の、
唯一出来る最大の悪足掻き。




僕の声を聞いて。


あたたかくなくて、
ぬくもりなんてなくて、
優しくもない、
僕の声を。



「________________…。」



君の唇に、長く触れて、
直接吹き込む。



僕の声が、聞こえる?



この唇が離れた時が、
僕の最後だ。


なんの役に立たないこの声も、
いつか、いつの日か、
君に聞こえていればいい。




「愛しているんだ。君を。」




僕達はなんて愚かで、無様で、
情けない人間なんだろう。


無知で、寡黙で、慈悲の無い、
奇天烈な存在。


決して結ばれることのない
君との未来を、
僕は諦めたくなかった。




「…愛しているよ。

    …さようなら。」




君の唇を塞いだ自分の唇に、
まだ君の熱が残っている。


その熱が冷めてしまわないように、
僕は口を堅く結んだ。


君に僕の声が届いた時、
その唇は、熱を失うのだろう。
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