しかし ぼうけんは つづく!▼~37歳独身元冒険者、引退してスローライフ……のはずが、勇者(ヤンデレ)に懐かれて世界を救うことになりました~

da8

文字の大きさ
1 / 13

第一話 たび の おわり▼

しおりを挟む
「――また会おう! 俺、絶対に迎えに行くから! もう一度冒険者になって、世界のどこにいても見つけ出してやるからな!」

 ――それは、ありふれた冒険の終わりだった。

 26歳の終わり、俺たち――冒険者パーティ『銀翼の鷹』の冒険は、唐突に幕を閉じた。大陸を揺るがす大事件とまではいかない。けれど、長年拠点にしてきたあの街のギルドの連中くらいは、惜しんでくれただろうか。……いや、どうだろうな。あいつらのことだ、表向きは神妙な顔をして、裏では「やっと厄介払いできた」なんて言いながら、祝杯をあげていたかもしれない。それも冒険者らしいっちゃらしいか。

 嘆きの森の調査。瘴気に満ちた古代遺跡の奥深く、巨大なバジリスクの幼体との死闘は、今でも悪夢に見る。
 俺の振るうミスリルのダガーと、ドワーフのバルガスが振り回す黒鉄の戦斧。エルフのセレナが放つ氷結魔法と、ハーフビーストマンのファルコのまるで曲芸みたいな弓捌き。どれか一つでも欠けていたら、俺たちは間違いなく、あそこで朽ち果てていた。あの時嗅いだ、バジリスクの腐った肉と血の混じった臭い。肺を焼くような瘴気の熱さ。今でも鼻の奥にこびり付いているような気がする。

 駆け出しのころに受けた、盗賊団『黒い牙』の討伐依頼もそうだ。あの頃の俺たちは、若くて、未熟で、無鉄砲で……とにかく、勢いだけは一人前だった。何度も死にかけた。盗賊たちの罠にかかり、毒矢を受け、意識が朦朧としたこともあった。
 視界がぼやけ、体が痺れる。そうして失血死を覚悟した瞬間、セレナの治癒魔法が俺を包み込んだ。温かい光が体中を駆け巡り、凍りついた心臓が再び動き出すような感覚。あの時、俺は確かに、仲間の大切さを知った。村人の笑顔を見て、宴会に出て――命がけで依頼をやってよかったんだって、たしかに思えたんだ。
 村娘たちが差し出す、冷えたエールと温かい手料理。焚き火を囲んでの歌と男たちのへったくそな踊り。村人たちの感謝の言葉と笑顔。あの夜の熱気は、今でも肌で感じられる。……あの娘、可愛かったな。今頃どうしてるだろうか。


 ――Bランク。

 俺たち『銀翼の鷹』が辿り着けたのは、そこまでだった。冒険者ギルドに登録されている冒険者のランクは、FからSまで存在する。Fは駆け出し、E、Dと続き、C、Bは中堅、Aはベテラン。そしてSは大陸でも指折りの英雄級だ。 Sランクともなれば、その名は吟遊詩人によって歌い継がれ、歴史書に名を残すことだってある。アレスティア大陸には、そんなSランク冒険者パーティ『レジェンド』がいた。彼らは、まさに伝説。俺たちなんかとは格が違う。、ずっと目標にしてきた伝説の冒険者。

 たかがBランク、されどBランク。……少なくとも、前世を含めて、俺の人生で最も輝いていた日々だった、と断言できる。Fランク冒険者だった頃に、初めて手にした鋼鉄の剣。錆び付いて刃こぼれだらけだったけど、それでも俺にとっては宝物だった。毎晩寝る前に磨いては枕元に置いていたっけ。……懐かしいな。あれ、どこにやったかな。

 純白の幌馬車から眺める、どこまでも続く大平原。涙ぐむ三人の仲間たちに別れを告げた時のことは、昨日のことのように思い出せる。

「……太陽が目に染みやがる」

 バルガスはゴツゴツした手で乱暴に目元を拭った。俺とこいつのコンビから『銀翼の鷹』は始まったんだ。ドワーフらしく情に厚い奴で、こんな風に涙もろい。酒癖は最悪だし、酔うとすぐに暴れ出す。 数えきれないほど迷惑をかけられて、それを遥かに超えて救われた。憎めない奴だった。ドワーフガルドに帰ってからも、元気にやっているだろうか。

「私、ムーンウィスパーの雑貨屋で働いてるから、さ。……たまにでいい。絶対顔出してよね」

 セレナは顔を逸らしながら呟く。こんな言葉を聞けるとは思わなかった。いつも冷静沈着で、何を考えているのか分からない奴だったからな。でもあの時、普段は長い銀髪に隠されているセレナの耳が、少し赤くなっていたのが見えた気がした。いつも冷静な彼女なら、きっと雑貨屋でもうまくやるだろう。ハーフエルフ特有の長い耳が、感情の揺れに合わせてかすかに震えていた。

「ま、せいぜい長生きしろよ。お前は僕がいないとすぐに野垂れ死にそうだからな」

 ファルコは、いつもの皮肉めいた口調で、あいつなりに精一杯の別れの言葉を紡いだ。……ああ見えて寂しがり屋なんだよな。あいつのことだ、きっと今頃、どこかの街で女を引っ掛けて、楽しくやってるだろう。

 馬車はもう出立しようとしている。御者の合図と、馬のいななきが俺たちの言葉をかき消していく。真っ赤な夕焼けが目に滲み、吹いて来る風が妙に冷たくて、涙が止まらなかった。……あの時、俺は確かに、夢が終わったんだと感じた。

「寂しいけど――」

 最後に俺は、絞り出すように言った。

「――今日で、さよならだ!」

 古代遺跡の最深部。罠にかかったファルコを庇い、俺は右腕に深手を負った。もう剣を振るうことはできない。巧妙に隠された罠。床に仕掛けられたスイッチを踏んだファルコに、無数の矢が降り注いだあの日。咄嗟に庇った俺の右腕を、鋭い痛みが貫いた。
 ……熱い。痛い。折れたか? いや、それどころじゃない。
 視界が歪み、意識が遠のいていく。セレナの叫び声が遠くで聞こえた気がした。
 右腕で剣が振るえなくなる。鍵開けの精度が、投擲技術が急速に落ちる。それだけじゃない。
 俺の右腕はもはや、日常生活を送るにも不十分なほどに壊れていた。それが、俺たちの冒険の終わりだった。
 俺たちの、熱くて、苦しくて。
 それでいてどうしようもなく眩しい日々は、こうして終わったんだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

男女比1:50の世界に転生したけど、前世の感覚で普通に接してたら幼馴染も姉妹もお嬢様もみんな沼にハマっていった件 ~ダンジョンにも潜ります〜

ベリーブルー
ファンタジー
男女比1:50――この世界で男は、守られ、大切にされ、穏やかに生きることを求められる存在。 だけど蓮は違った。 前世の記憶を持つ彼には、「男だから」という枷がない。女の子にも男の子にも同じように笑いかけ、距離を詰め、気負いなく手を差し伸べる。本人にとってはただの"普通"。でもこの世界では、その普通が劇薬だった。 幼馴染は気づけば目で追っていた。姉は守りたい感情の正体に戸惑い始めた。名家のお嬢様は、初めて「対等」に扱われたことが忘れられなくなった。 そして蓮はと言えば――。 「ダンジョン潜りてえなあ!」 誰も見たことのない深淵にロマンを見出し、周囲の心配をよそに、未知の世界へ飛び込もうとしている。 自覚なき最強のタラシが、命懸けの冒険と恋の沼を同時に生み出す、現代ダンジョンファンタジー。 カクヨムさんの方で先行公開しております。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

処理中です...