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第四話 ギデオンは エリクサーを つかった!▼
しおりを挟む――本来ならば、勇者エリス・サンライトは、今頃、世界各地を巡り、仲間たちとの絆を深め、魔王軍との戦いに備えているはずだった。俺が寝食を忘れ、青春の全てを捧げたRPG「ブレイブ・クロニクル」では、それがお決まりの展開だった。
「ブレイブ・クロニクル」――通称「ブレクロ」は、当時としては画期的な自由度の高さを誇るゲームだった。広大な世界を自由に冒険し、無数のクエストをこなし、個性豊かなキャラクターたちを仲間に加えることができる。その中でも特に人気だったのが、ほぼ全てのNPCを仲間にできるスカウト機能だ。屈強な騎士団長から、酒場の看板娘、果ては街角で花を売る少女まで、プレイヤーの選択次第で、誰とでも共に冒険することができた。もちろん、俺のような、街道沿いの街で薬草を売るだけの、地味なサブキャラでさえも。
しかし、そんな自由度の高さとは裏腹に、メインストーリーは王道中の王道だった。聖王国の王女エリスは、光明神の神託を受け、勇者として覚醒する。そして、幼馴染の騎士レオナルトを始め、各地で出会う仲間たちと共に、魔王討伐の旅に出る。それが、プレイヤーが体験するはずの物語だった。
正史での勇者パーティーは、聖王国セレスティアを出発し、アルカディア王国で騎士レオナルトを仲間に加え、商業都市同盟「リベルタス」で魔術師カサンドラと出会い、エルフの森「エルフィニア」で……と、順調に仲間を増やし、力をつけていく。
そして、この世界でも、つい最近まで、その流れは順調に進んでいるように見えた。エリスは、各地で人々を助け、魔物を討伐し、勇者としての名声を高めていた。その活躍は、吟遊詩人によって歌われ、遠く離れたこのエルムントの村にも届いていたほどだ。
だが、今、ベッドの上で苦しげに眠るエリスの姿は、そんな輝かしい勇者のイメージとはかけ離れていた。
薄暗い小屋の中、焚き火の明かりが揺らめく。古びた木組みが風に軋み、隙間から入り込む冷気が肌を刺す。ギデオンは、粗末なベッドに横たわる金髪の少女――エリスを見つめ、深く息を吐き出した。埃っぽい匂いと、微かな血の匂い、そして、どこか懐かしい聖なる香りが混ざり合い、独特の雰囲気を醸し出している。
――拾ってきてしまった。よりにもよって、世界の命運を握る勇者様を。
額に浮かんだ汗を布きれで拭い、ギデオンは改めてエリスの容体を確認する。血と泥にまみれた服は応急処置として切り裂き、代わりに清潔な布を巻き付けてある。消毒と傷口の止血が最優先だ。腕に残る痛々しい紫のアザは、毒がまだ完全に抜けきっていないことを示していた。
その傷は深い。冒険者として数多の死線を見てきたギデオンから見ても危険な状態だということが理解できた。
――何があったんだ? まさか、本当に魔王軍に寝返ったのか……? いや、そんなはずはない。俺の知っているエリスは、そんなことをするような奴じゃなかった。
――しかし、俺の知っているエリスじゃないとしたら?
混乱する思考の中、ギデオンは必死に冷静さを保とうとする。
しかし、もし彼女が本当に裏切ったのだとしたら。聖王国は、彼女を追っているはずだ。そんな危険人物を匿えば、自分もただでは済まない。最悪の場合、処刑される可能性だってある。
ギデオンは、小屋の隅に置いてある木箱を開けた。中には、冒険者時代から集めてきたポーションや錬金素材がぎっしりと詰まっている。色とりどりの液体が入った小瓶、乾燥させた薬草、怪しげな光を放つ鉱石。まるで魔法使いの工房のような品揃えだ。
「もう使う場面もないと思ってたが、ラストエリクサー症候群もいいとこあるのかもな」
自嘲気味に笑い、ギデオンは迷わず最高級のポーションを取り出した。淡い光を放つ液体は、どんな傷や病気も癒すと言われる、希少なエリクサーだ。熟練の錬金術師でも、数ヶ月に一つ作れるかどうかという代物。かつて、ギデオンはこれを、自分の命を守るために大切に保管していた。
裏切ったとされる勇者を治療することにどれだけのリスクがあるのか、考えなかったわけではない。国に目を付けられるのはもちろん、彼女が目を覚ました瞬間に首を刎ねられることだってあり得る。それでもエリクサーを使うのは、この世界で冒険者になると決めたときのことを思い出したからだ。
――なぜ俺がこの世界で冒険者になったのか。
脳裏に、ファルコを庇って右腕に重傷を負った、あの日の光景が蘇る。ファルコの悲鳴、飛び散る血しぶき、痛みで歪む視界、セレナの絶望的な叫び声……。
――それでも。
子供の頃、万年Eランクのおばさん冒険者に――そう、おばさんだ。この世界は、ゲームでは名前のなかった無数の人たちによって支えられている。彼女にゴブリンから助けられて。ゲームじゃないと思って。
たしかにこの世界の人々は生きているんだ、と感じたあの日から。
――目の前で苦しんでいる人を、見捨てることなどできなかった。
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