忘却の海辺

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雪と夢

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 広場の死体を見せた後、ロゲルトはまた私を小屋に放り込んだ。彼はその日、牧人が家畜にするようにこの村が溜め込んできたものを搾り取ろうとしていただろう。震える月の光が人々のむくろに、取り残された一人の蛮族に、傾いた緑の屋根に突き刺さるように降り注いでいるだろう。散らばった石と木は死体の腕をしたたかに打ち、彼らの眠りを一層痛ましいものに変える。しかし夜も更けて、ロゲルトはこの村が既に枯れ切っているということを知るだろう。彼はどこか憮然としていた。戦士としての彼は今ごろ靄のかかった海に沈み、彼を待つ仲間はもういなくなっているだろう。しかし私はその時彼に恐怖を感じていたから、そんなことは気にしなかった。幼い私は小屋の隅にうずくまってひたすら震えている。私は自分の息遣いの音を聞いている。
  私たちの間に会話はなかった。冬の夜は我々を死の手に引き渡そうとするだろう。昨晩死んだ村人たちは、相変わらず真っ赤な山でロゲルトと私を待っている。私はそれに背を向けて眠るしかなかった。死んでいった人々の影が私に纏わりつくように思えて、必死でそれをかき消そうとした。当時は難しい言葉を知らなかったが、例えば天体の運行や、めぐる季節のイメージを思い浮かべて。そうすれば魂が清められると私は考えた。その作業は簡単だった。あと一月もすれば連なった丘に海風が当たって、鉄粉に似た粗い雪がこの村に降り始めただろう。私は多分死体の山に加わってその季節を迎える。あの男は分からないが、行きつく先は同じはずだ。いずれ白く濁った霜が村人の血管の中を走りだすだろう。上手くいけば肉は崩れずに残るだろう。潮風に晒されていなければ、春になっても私たちの亡骸は残る。脆くなった骨は氷柱に変わっていて、肌は雪のおかげで透き通るような川の色になっている。夏になれば私たちの体は半分近く溶け、泥沼に混じって幽界の裏側に滲み出している。そして次の冬が来る頃、この村を覚えているものは誰もいなくなっているだろう。
  ふとその時、窓の外に気配を感じた。村を一通り回り終えたロゲルトが見ていたのかもしれない。もしそうだったとしても彼は何も言わずに踵を返し、暗闇の中に消えていっただろう。あるいは錯覚かもしれない。私のほかに生き残り得たはずの村人の影だったかもしれない。広場は暗く、重苦しい沈黙が支配していた。村の明かりはもうすぐ燃え尽きるだろう。私は様々なことを考えずにはいられなかった。それを止めてしまえば、私の人生はきっと亡霊たちに乗っ取られていただろう。そのほうが良かったのかもしれないが。眠りに落ちるまでは長かった。夢というのは、人間に己がいかに無力か知らしめるためにある。私は自分の家のことを考えた。家々は幻の炎に包まれて、その中で母が死んでいる。父はあの死体の山に埋もれているはずだ。私の父がどんな死に方をしたか、その光景は思い浮かばなかっただろう。両親の面影はその他大勢の死にかき消され、私の頭は曖昧で生暖かい肉の塊を映し出すだけだろう。
 この村には沢山の死があり、その中には父や母の形をしたものもあるだろう。私より年下の子供の形をしたものも。体がもろい分苦痛は長引かなかったはずだ。冷たくなるまでにも、そう時間はかからなかっただろう。彼らは私に向かって何か言っているかもしれない。しかしそれは明確な声ではなく、意味のない亡者の囁きに過ぎないだろう。村の跡地の暗闇の中で彼らが笑っている。それはきっと遠くの木々が枝を振り回してざわめく音だったのだろう。私はそれらの言葉を聞きたくないと思って、耳を押さえたまま膝を抱えて小屋の隅でじっとしている。やがて私が眠りに落ちた時、溢血して生々しい記憶が父の魂を呼び寄せるだろう。いや、それは記憶というほど明確な形を得てはいなかった。父は最初、ぶっきらぼうだが愛情の籠った手つきで私の背中を叩いてくれただろう。私を叱ろうともせずに私を見つめ、30分ごとに訪れる浅い眠りの度に私の目の前に現れる。だが、時間が経つにつれてその眼からは輝きが失われていくだろう。私が目を覚ます頃には動かなくなっているはずだ。彼はいつのまにかカトブレパスのような眼になって、最後に一言こう言うだろう。
 お前はなぜ死ななかったのか、と。
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