忘却の海辺

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廃教会

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 彼は雪に包まれて目を覚ますだろう。全身を襲う激痛に思わず声を上げて、そしてすぐに思い出すのだ。自分は死んだはずではなかったのか、と。まだ夢を見ているのではないか、と。彼は目を開いた。そこは廃墟となった村だった。彼の魂は滅び、肉体だけがこの場所に留まっていた。ロゲルトはゆっくりと立ち上がった。彼は村の中心に立ち、周囲にある荒れ果てた建物を見渡す。自分が引き起こした破壊の記憶が脳裏をよぎり、後悔の念が微かに胸をかすめるのを感じた。蛮族の群れは破壊の波のように押し寄せ、この地に死と廃墟しか残さなかった。かつて家族が住んでいた建物は瓦礫の山でしかなく、かつて村人たちを暖めた火は冷たい灰でしかない。彼が誰もいない道を歩いていると、遠くにかすかに教会の輪郭が見えた。何か見えない力に引っ張られるような感覚を覚えた。その教会も破壊を免れていない。石造りの壁もステンドグラスの窓もひび割れ、冬の孤独に耐えていた。
 彼は重い木の扉を押し開け、中に入った。暖かっただろう席は氷に包まれ、彼は冷たく硬い床の上に腰を下ろして祈る人々の幻影を見た。彼らの顔には表情がなかった。彼らはただ黙って、天井から差し込む光の筋を見つめているだけだった。ロゲルトも見よう見まねで祈りを捧げたが、心の片隅にある恐怖を拭い去ることはできなかった。座席は空っぽで、祭壇には何の装飾もない。神の気配は消え去っていた。彼は膝をつき、目を閉じる。自分が引き起こした破壊、奪った命、引き裂いた家族への赦しを祈るが、それを聞き届ける神はもうこの地にはいないだろう。彼はかつてこの村に住んでいた家族のこと、この通りで遊んでいた子供たちのこと、この場所に存在していた愛のことを考え始めるだろう。それらは全て消え去り、時間とともに薄れゆく遠い記憶となっている。ロゲルトは教会で何時間も思考と祈りに没頭するだろう。彼は祭壇の前に跪き、目を閉じている。そこに神はいない。誰が彼の犯した罪を赦してくれるというのか?
 教会の割れたステンドグラスが月光に照らされて輝いていたが、それをロゲルトは見なかっただろう。その光は教会の壁に茫洋とした紫の色彩を投げかけていたが、彼はそれを見なかっただろう。壁には壊れた椅子の囁くような無数の影が映っていたが、彼はそれを見なかっただろう。彼はその時間が永遠に続くことを願っていたに違いない。だが、それは叶わぬことだ。やがて日が落ち、月が昇り、夜が来る。それでもなお彼の心は定まらず、彷徨い続けるだろう。夜の教会は静まり返り、彼が僅かに身じろぎする音さえ村中に響いたことだろう。夜が再び彼に問うている。
「お前の魂はどこにあるのか?」
 ロゲルトが答えることはない。彼の心は目を瞑り、俯いたまま過去へと戻っていく。失われたものへ手を伸ばし、取り戻そうとするだろう。だが、彼の手が触れるものは全て無であり、彼の手は何も掴みはしないだろう。廃教会に木霊が満ちる。
「お前の魂はどこにあるのか?」
 彼がそれに答えることは、ない。
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