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空洞
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教会の壁は崩れ、祭壇と墓地を繋げる小さな穴が開いていた。ロゲルトは長い間眼を閉じていたが、やがて私の姿を認めるだろう。陽の光が教会の屋根から漏れ出し、無気力な光となって私の足元を照らしている。彼の頭にあったのは復讐と正義のことだろう。私は彼に話しかけようとして、口を開く直前で改めて彼の表情を見た。私はその時になって、彼は怪物ではなく、恐怖や後悔を抱く一人の人間であったことを知るだろう。彼は私の目を見て、何か言おうとした。だが、言葉は出てこなかった。喉が凍り付いてしまったようだ。ロゲルトの体は傷ついている。凍てつく空気が彼の肺を責め立て、祈るように組まれた手の感覚を奪っていたのだろう。彼は苦しそうに咳込むが、それでも言葉を紡ぐことができない。彼は口元を押さえて、その場に膝をつくだろう。私はそんな彼を黙って見ている。彼はようやく立ち上がり、震える唇を動かした。掠れて聞き取りづらい声だった。
「俺が来る前、俺が来る前に」
彼はそこで一度口を噤み、口の中で何か言葉を噛みしめるように転がしていた。
「この村の人々は、何を、どう、生きていたんだ。生きて、薪や家を……この村を作ったのは、誰なんだ。もういないのか? 俺が、死んで、消えてしまって……」
彼の声は小さくなり、やがて途切れた。この崩れた教会には何もなかった。幻も、人々の影も。彼の手は強く握り締められ、小刻みに震えていた。彼は何かに追われるように駆け出し、汚れた雪の残る廃墟を巡るだろう。彼は自分が奪った命のことを思っている。彼は自分が奪った家族のことを考えている。彼は自分が奪った愛のことを考える。彼は自分が奪った幸福のことを考えている。彼は奪うことしか知らなかった。私は心を失ったように教会に立ち尽くしている。ロゲルトの足取りは重く、疲労が滲んでいただろう。自分が死に誘われていると感じ、一度自分が死んだときのことを想像するかもしれない。しかし彼が死んでも誰も気にしないだろう。死者が墓場の中で蘇って再び死んだとしても、生きている者はそれを知らないまま温かいスープを飲むだろう。誰も気に留めることなく、時間は流れ、忘れ去られる。
この村を、と彼は言う。陽気に歌っていた口で、言葉を詰まらせながら、掠れた声で呟き続ける。
「継がなければ。俺が、この村を。誰がいなくなっても、俺は、この村を……」
そんなことはありえない、と私は思う。彼の忘れがたい言葉は反響もせずに消えていく。彼は自分が殺した者たちのことを忘れたくないと思うが、そもそも覚えてなど居なかったことに気付くだろう。海の向こうで夕焼けが時間を歪め、我々の心を蝕んでいる。私は彼の背中を見つめたまま動けず立ち尽くしている。ロゲルトは自分の為にこの村が消えたことを悟り、村を甦らせようとし始めるだろう。だが、それが何だというのか。あの村は消えてしまった。今や彼の心の中だけに存在する村に、私の思い描ける人々は居なかっただろう。私は彼に何も言わない。私はその晩、初めて弓を手に取って、彼を殺そうとするだろう。
「俺が来る前、俺が来る前に」
彼はそこで一度口を噤み、口の中で何か言葉を噛みしめるように転がしていた。
「この村の人々は、何を、どう、生きていたんだ。生きて、薪や家を……この村を作ったのは、誰なんだ。もういないのか? 俺が、死んで、消えてしまって……」
彼の声は小さくなり、やがて途切れた。この崩れた教会には何もなかった。幻も、人々の影も。彼の手は強く握り締められ、小刻みに震えていた。彼は何かに追われるように駆け出し、汚れた雪の残る廃墟を巡るだろう。彼は自分が奪った命のことを思っている。彼は自分が奪った家族のことを考えている。彼は自分が奪った愛のことを考える。彼は自分が奪った幸福のことを考えている。彼は奪うことしか知らなかった。私は心を失ったように教会に立ち尽くしている。ロゲルトの足取りは重く、疲労が滲んでいただろう。自分が死に誘われていると感じ、一度自分が死んだときのことを想像するかもしれない。しかし彼が死んでも誰も気にしないだろう。死者が墓場の中で蘇って再び死んだとしても、生きている者はそれを知らないまま温かいスープを飲むだろう。誰も気に留めることなく、時間は流れ、忘れ去られる。
この村を、と彼は言う。陽気に歌っていた口で、言葉を詰まらせながら、掠れた声で呟き続ける。
「継がなければ。俺が、この村を。誰がいなくなっても、俺は、この村を……」
そんなことはありえない、と私は思う。彼の忘れがたい言葉は反響もせずに消えていく。彼は自分が殺した者たちのことを忘れたくないと思うが、そもそも覚えてなど居なかったことに気付くだろう。海の向こうで夕焼けが時間を歪め、我々の心を蝕んでいる。私は彼の背中を見つめたまま動けず立ち尽くしている。ロゲルトは自分の為にこの村が消えたことを悟り、村を甦らせようとし始めるだろう。だが、それが何だというのか。あの村は消えてしまった。今や彼の心の中だけに存在する村に、私の思い描ける人々は居なかっただろう。私は彼に何も言わない。私はその晩、初めて弓を手に取って、彼を殺そうとするだろう。
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