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新月の弓
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ロゲルトはその場に立ち尽くし、俯いていた。私はその場を急いで離れ、息を切らしてロゲルトの小屋に弓矢を取りに行った。彼は私に気付かなかったはずだ。 しばらく呆然としていたが、突然自分の両手を広げてじっと見つめるだろう。彼の手は生温かい血に塗れて、指先から鉄錆びのような臭いがした。空は肌に透ける血の色に彩られ、彼の悲しみを嘲笑っているだろう。彼は肩を上下させて、村の果てへと歩き出す。夕陽が彼の影を引き伸ばしている。彼は疲れて歩くことを止め、地面に腰を下ろした。
そして夜が訪れる。私はその日、山から吹き下ろしてくる風が崖下の森を揺らす音を聞くだろう。夕闇と緑が濃くなってゆく。浅ましい風に吹かれて、遥かな木々が擦れる音が聞こえるだろう。新月が誰にも悟られずにこの村を覗きに来るだろう。見えない光と音を耳の奥に残しながら、我々は夜の訪れを知る。私は村人たちの骨の矢を握って、虚ろに噴き出てきた汗の冷たさに耐えている。質量をもった闇が私を抱きしめている。ロゲルトは松明を手にして、廃教会の墓地を目指すだろう。右手の炎が揺らめくのを、私は彼の魂と重ねているだろう。彼は教会の扉を開き、神秘を失った祭壇の前で、晒し首の神を見たように立ち止まる。虚ろな瞳が絨毯の残骸を反射しているだろう。彼は膝を折り、胸のすぐそばで奇妙な象形文字を描いている。彼が知らない祈りの言葉を呟くのを聞きながら、私はロゲルトの背中を見守っている。やがて不可解な祈りが終わり、彼は墓地へと歩き出す。夜にただ一つ浮かぶ松明の光めがけて、私は弓を引き絞っている。
私が放った一本の矢は、彼の耳を掠めて墓石の前で力を失った。彼は振り返るが、光に慣れた彼の眼は私を見つけるまでに時間がかかっただろう。ロゲルトは松明を投げ捨て、伏せるようにして誰かの墓標に身を隠した。彼はその矢を放ったのが私であることに気付いていただろう。私が二発目の矢を放っても、彼に当たることなく墓標の間をすり抜けていく。彼は立ち上がり、暗闇の中でやっと私を見据える。彼の表情は闇の中に隠れていて、まなざしだけが私の方に向いている。彼は小さな枯れ枝が最後に燃え上がったような瞳を見て、この子供にも笑っていた時期があったことを考えているだろう。弓を番える時間は足りない。彼は私の前で立ち止まると弓矢を取り上げた。ロゲルトは弓矢を墓地の外に放り投げ、這いずって追いかけようとする私を大きく硬い手で掴んだ。私は自分が死ぬことを思い、顔を濡らしながら呟き続けた。殺してやる、殺してやる、なぜこの村に来た……彼は武器を持っていなかったが、その力を持ってすれば子供の私を殺すことなど造作もなかっただろう。
しかし、その瞬間は何時まで経っても訪れなかった。遠くに松明の光る闇の中、彼は表情の読めない顔でこちらを見て立っていた。やがて、私の体を掴む手が緩められ、彼は踵を返していった。
そして夜が訪れる。私はその日、山から吹き下ろしてくる風が崖下の森を揺らす音を聞くだろう。夕闇と緑が濃くなってゆく。浅ましい風に吹かれて、遥かな木々が擦れる音が聞こえるだろう。新月が誰にも悟られずにこの村を覗きに来るだろう。見えない光と音を耳の奥に残しながら、我々は夜の訪れを知る。私は村人たちの骨の矢を握って、虚ろに噴き出てきた汗の冷たさに耐えている。質量をもった闇が私を抱きしめている。ロゲルトは松明を手にして、廃教会の墓地を目指すだろう。右手の炎が揺らめくのを、私は彼の魂と重ねているだろう。彼は教会の扉を開き、神秘を失った祭壇の前で、晒し首の神を見たように立ち止まる。虚ろな瞳が絨毯の残骸を反射しているだろう。彼は膝を折り、胸のすぐそばで奇妙な象形文字を描いている。彼が知らない祈りの言葉を呟くのを聞きながら、私はロゲルトの背中を見守っている。やがて不可解な祈りが終わり、彼は墓地へと歩き出す。夜にただ一つ浮かぶ松明の光めがけて、私は弓を引き絞っている。
私が放った一本の矢は、彼の耳を掠めて墓石の前で力を失った。彼は振り返るが、光に慣れた彼の眼は私を見つけるまでに時間がかかっただろう。ロゲルトは松明を投げ捨て、伏せるようにして誰かの墓標に身を隠した。彼はその矢を放ったのが私であることに気付いていただろう。私が二発目の矢を放っても、彼に当たることなく墓標の間をすり抜けていく。彼は立ち上がり、暗闇の中でやっと私を見据える。彼の表情は闇の中に隠れていて、まなざしだけが私の方に向いている。彼は小さな枯れ枝が最後に燃え上がったような瞳を見て、この子供にも笑っていた時期があったことを考えているだろう。弓を番える時間は足りない。彼は私の前で立ち止まると弓矢を取り上げた。ロゲルトは弓矢を墓地の外に放り投げ、這いずって追いかけようとする私を大きく硬い手で掴んだ。私は自分が死ぬことを思い、顔を濡らしながら呟き続けた。殺してやる、殺してやる、なぜこの村に来た……彼は武器を持っていなかったが、その力を持ってすれば子供の私を殺すことなど造作もなかっただろう。
しかし、その瞬間は何時まで経っても訪れなかった。遠くに松明の光る闇の中、彼は表情の読めない顔でこちらを見て立っていた。やがて、私の体を掴む手が緩められ、彼は踵を返していった。
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