忘却の海辺

da8

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夜の子

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 彼は古ぼけた小屋の中に座っているだろう。薄暗い小さな部屋で、周囲を舐める火のそばに身を寄せながら、彼は先ほどの事に思いを馳せている。そこでは火花の音だけが小さく弾け、静かな内省が続いていただろう。彼は自分の手をじっと見つめている。かつてそこにあったものを、手に感じていたものを思い出していただろう。彼は自分の心に問い続けている。何故、俺はまだ生きているのか。何故、俺はまたここにいるのか。俺が奪った命は何処へ行ったのか。俺は何故、死ねないのか。古い渇きのために飲んだ血が、段々と腐り始めていた。彼は自分の中に巣食う狂気を理解していただろう。ロゲルトは果てしない群青の海から亡霊たちの声がするのを聞こうとしている。彼らが何を言っているのか、ロゲルトには理解できなかっただろう。死者の囁きが波と共に不可視の月に砕けて消える。その日は誰も眠ることが無いだろう。ワイバーンも、カトブレパスも、一角兎も。全ての生き物が耳をそば立てて、村の教会が焼け落ちる音を聞いているだろう。
 殺してやる、と私は思う。私はそこで死者の声を聞いた。彼らは皆、私に語りかけるときだけ、少しだけ音量を上げて話すのだ。彼らの言葉が私の耳に届くたび、私は自分が狂いかけていることを知る。私は彼らと同じ言葉を話している。私を包む夜を切り裂いて、彼らは私を呼ぼうとする。私は壊れた笛のように喉を鳴らしながら、ロゲルトが放り投げた弓矢を取りに行った。手探りに墓地を歩いたが、見つかった矢は一本だけだった。私はロゲルトのもとに向かおうとする。その背中には、焼け焦げる神の匂いが染み付いているだろう。
 彼のそばには血塗られた斧があった。ロゲルトは小さな部屋のベッドに座って、扉が開く瞬間を待っているだろう。見逃した子供が自分の命を狙い続けることは分かっていた。贖罪の希望を捨てきれずにいる彼は、口を固く結んだまま不恰好な暖炉の小さな火をじっと見ているだろう。前屈みになり、時折視界の端にちらつく火花を誰かの血に重ねているかもしれない。ロゲルトはあの日、私が見たのと同じように、自分の両手をじっと眺めて微動だにしないだろう。その両手が赤く見えているのは、寂しく燃える炎のせいだっただろう。
 暴力と憎しみの絶え間ない回転は、世界の上で永遠を巡る星々に似ていた。夜はゆっくりと流れ、闇は果てしない虚空のように広がっていた。彼は焚き火のそばに座り、揺らめく炎に目を凝らし、避けられない事態を待っている。そしてその通り、私は導かれるようにしてそこにやってくるだろう。彼はその光景を想像して、唇を強く噛んでいるだろう。
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