20 / 30
村の議会
しおりを挟む
嫌な雪だった。粗い雪がこの村に降り注ぎ、目につくものを全て吸い取ろうとしていた。地面を覆いつくしては生気を吸い取り、堅い葉をつける木々を包み込み、いずれあの森を飲み込んでしまうのではないかと思った。粉雪は廃材を削り取り、そこに宿っていた魂までも消し去ってしまう。空を覆う雲から落ちてくる白い雨が、滅んだ村に死に化粧を施している。私は薄く心許ない屋根の下で、微かな光が丘の向こうから差してくるのを待っていた。朝が来ても気温は上がらなかった。夜が明けると、彼の暖炉に火の気配はなくなっているだろう。ロゲルトは荒れ果てた小屋の戸口に立ち、激しく厳しい風に煽られ、雪が渦を巻いて舞うのを眺めている。この地の雪が雪が彼の魂を蝕んでいく。粗末な煙突と、小さな暖炉。薄い衣と干し肉、瘦せ細った幾つかの野菜。彼は寒さを感じていないようにも見える。彼の肌には傷痕があり、それらは古かったり新しかったりする。彼は雪を眺めている。何も語らず、何も求めず、ただここで生きていた。彼は今やこの村の長であり、また同時に墓守でもあった。ロゲルトは時々静かに目を閉じる。その瞼の裏で、何を考えているのだろう。
私は肌を貪るような雪の中で、失われた村人たちの家々を一つずつ数え上げていった。彼を許してはならないこと、私がこの村を受け継ぐべきことを確かめようと考えていた。村人たちが使っていた家はどれも小さく縮み、そして崩れかけている。誰かの声が聞こえ、また誰かの影が見え隠れする。死者たちはどこにいるだろう? 彼らは死んだ後も、彼らの家に留まり続けている。透き通った青白い顔で、村長が大きな日時計を見つめている。二の腕に膨らんだ筋肉を持つ木こりが、熱い火事場で目を焼かれた鍛冶屋が、痩せぎすで薄ら笑いを浮かべた商人がいる。その妻も一緒だ。風の音に交じって、彼らの笑い声が聞こえる。あれは猟師の声だ。羊飼いも石工もいる。
彼らの話し声が聞こえる。
「もうすぐ冬が来る。今年の雪はきっとひどいだろうよ。森の木が倒れるし、畑の作物は枯れてしまうだろう」
「これは、この村ができた時に作られたものだ。いつまで残るもんかねえ」
農夫は何かを思い出したように口を開いた。
「まだ枯れた草が残ってるんだ。あれを取らなくちゃいけねえ。雪が降ればもうじき春だ。そしたら、また種まきをする。もっと新しい畑を作るんだ」
「なら、鋤を作りなおさなけりゃならんな。前のよりもいいやつを作ろうじゃないか」
「おい、いい小麦の種は手に入ったのかい?」
彼らは口々に自分の意見を言って、遠くの丘を見た。その丘は灰色に染まっており、ところどころに雪が積もり始めている。ふいに冷たい風が吹いた。男は自分の手を擦り合わせ、息を吹きかけた。
「そうさなあ、俺はあそこの切り株を掘り起こしたいんだが」
「いや、ひとまず村を直そう。この分じゃ隙間風がひどいぞ。もうボロボロだ。家からだ、家を直すんだよ」
男たちは口々に不満を言い始める。女の一人がそれを宥めようと声を上げる。
「まあまあ、あんたがた。そんなことを言わずに。あそこを見てご覧なさいな」
男たちは一斉にそちらを見る。彼女たちは微笑んでいる。
「ほら、見て御覧なさい。立派な教会でしょう。あれがある限り、あたしたちはまだ大丈夫です」
しかし教会の鐘は鳴らない。あたりは雲に覆われ、暗くなっていた。丘の光は望めそうもなかった。彼らは沈黙したまま、ただ白く塗りつぶされていく。私は冷たい空気を大きく吸う。肺が痛んだが、息を止めることはしなかった。不意に、そうだった、と誰かが言った。
「ここは死んでいるんだ。もう誰も帰っては来られないんだ」
「いや、一人だけここにいるじゃない。まだ小さな子供よ。かわいそうに、どうしてあの子が残るのかねえ」
猟師は私を見つけて、憐れむような調子で話した。
「坊やはどうしてここに来たんだ?」
羊飼いが名残惜しそうに言った。
「いいか。ここにはもう、誰もいないんだ。みんなすぐだ。もうすぐだ」
村人たちが白く塗りつぶされていく。風が吹きすさぶたびに、家の一部がまだ剥がれ落ちて、その下から朽ちた骨が現れた。かつて彼らがここに暮らしていたという証はほとんど残っていなかった。私は彼らに語りかけようと、何度も唇を動かそうとした。しかし言葉が出てこなかったし、声すらも聞こえなかった。彼らはもういないのだ。私は彼らを呼ぼうとしたが、喉からは掠れた音が漏れただけだった。彼らは皆死んでしまった。私の目の前にいるのは死者たちなのだ。私は彼らに声をかけようとしたが無駄だと悟った。死者の魂は肉体を離れ、もはや生きる者たちの領域に留まることはない。雪が彼らを連れ去ってゆく。私は一人になってしまった。
私は肌を貪るような雪の中で、失われた村人たちの家々を一つずつ数え上げていった。彼を許してはならないこと、私がこの村を受け継ぐべきことを確かめようと考えていた。村人たちが使っていた家はどれも小さく縮み、そして崩れかけている。誰かの声が聞こえ、また誰かの影が見え隠れする。死者たちはどこにいるだろう? 彼らは死んだ後も、彼らの家に留まり続けている。透き通った青白い顔で、村長が大きな日時計を見つめている。二の腕に膨らんだ筋肉を持つ木こりが、熱い火事場で目を焼かれた鍛冶屋が、痩せぎすで薄ら笑いを浮かべた商人がいる。その妻も一緒だ。風の音に交じって、彼らの笑い声が聞こえる。あれは猟師の声だ。羊飼いも石工もいる。
彼らの話し声が聞こえる。
「もうすぐ冬が来る。今年の雪はきっとひどいだろうよ。森の木が倒れるし、畑の作物は枯れてしまうだろう」
「これは、この村ができた時に作られたものだ。いつまで残るもんかねえ」
農夫は何かを思い出したように口を開いた。
「まだ枯れた草が残ってるんだ。あれを取らなくちゃいけねえ。雪が降ればもうじき春だ。そしたら、また種まきをする。もっと新しい畑を作るんだ」
「なら、鋤を作りなおさなけりゃならんな。前のよりもいいやつを作ろうじゃないか」
「おい、いい小麦の種は手に入ったのかい?」
彼らは口々に自分の意見を言って、遠くの丘を見た。その丘は灰色に染まっており、ところどころに雪が積もり始めている。ふいに冷たい風が吹いた。男は自分の手を擦り合わせ、息を吹きかけた。
「そうさなあ、俺はあそこの切り株を掘り起こしたいんだが」
「いや、ひとまず村を直そう。この分じゃ隙間風がひどいぞ。もうボロボロだ。家からだ、家を直すんだよ」
男たちは口々に不満を言い始める。女の一人がそれを宥めようと声を上げる。
「まあまあ、あんたがた。そんなことを言わずに。あそこを見てご覧なさいな」
男たちは一斉にそちらを見る。彼女たちは微笑んでいる。
「ほら、見て御覧なさい。立派な教会でしょう。あれがある限り、あたしたちはまだ大丈夫です」
しかし教会の鐘は鳴らない。あたりは雲に覆われ、暗くなっていた。丘の光は望めそうもなかった。彼らは沈黙したまま、ただ白く塗りつぶされていく。私は冷たい空気を大きく吸う。肺が痛んだが、息を止めることはしなかった。不意に、そうだった、と誰かが言った。
「ここは死んでいるんだ。もう誰も帰っては来られないんだ」
「いや、一人だけここにいるじゃない。まだ小さな子供よ。かわいそうに、どうしてあの子が残るのかねえ」
猟師は私を見つけて、憐れむような調子で話した。
「坊やはどうしてここに来たんだ?」
羊飼いが名残惜しそうに言った。
「いいか。ここにはもう、誰もいないんだ。みんなすぐだ。もうすぐだ」
村人たちが白く塗りつぶされていく。風が吹きすさぶたびに、家の一部がまだ剥がれ落ちて、その下から朽ちた骨が現れた。かつて彼らがここに暮らしていたという証はほとんど残っていなかった。私は彼らに語りかけようと、何度も唇を動かそうとした。しかし言葉が出てこなかったし、声すらも聞こえなかった。彼らはもういないのだ。私は彼らを呼ぼうとしたが、喉からは掠れた音が漏れただけだった。彼らは皆死んでしまった。私の目の前にいるのは死者たちなのだ。私は彼らに声をかけようとしたが無駄だと悟った。死者の魂は肉体を離れ、もはや生きる者たちの領域に留まることはない。雪が彼らを連れ去ってゆく。私は一人になってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界子供ヤクザ【ダラムルバクト】
忍絵 奉公
ファンタジー
孤児院からスラムで育ったバクト。異空間収納と鑑定眼のダブルギフト持ちだった。王都西地区20番街では8割を縄張りとする先代のじいさんに拾われる。しかしその爺さんが死んだときに幹部同士のいざこざが起こり、組は解散。どさくさにまぎれてバクトが5・6番街の守役となった。物語はそこから始まる。7・8番街を収めるダモンとの争い。また後ろ盾になろうと搾取しようとする侯爵ポンポチーコ。バクトは彼らを越えて、どんどん規格外に大きくなっていく。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる