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第一話 『人生二週目の少女』
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(さて、と。私はこうして、戻ってきたわけだ)
メルリーは光源ひとつない外の景色を眺めながら、心の中でつぶやいた。
数十時間前にいた地獄とは比べ物にならないきらびやかな空間も、二度目の人生を送る彼女にとって目新しいことは何もない。それでも嬉しいという感情だけは本心だった。
(これから、あの人が来るんだよな)
メルリーがそう思った直後、扉をたたく音が聞こえてきた。それとほとんど同時に扉を開ける音が聞こえてきた。後ろをゆっくり振り向くと、そこに立っていたのは見慣れた女性だ。
黒髪ボブをさらりと触りながら清純な印象を与える女性、アラーチェだ。彼女はメルリーの姿をとらえると開口一番こう告げた。
「メルリー。あなたはこれから給仕として働いてもらうわ。ここでは、仕事が如何に出来るかが求められるの。つまり、わかるわね? 私があなたより上ってことよ!!」
メルリーは突然マウンティングを取られたことに一瞬あっけにとられたが、すぐに平静を取り戻した。ここで動揺していたら対応が遅れてしまうことを理解していたからである。
「そうなんですね! なら私、アラーチェさんを目標に頑張ります!」
「ふーーん……え、私!?」
「はい、そうです!!」
「嬉しいこと……言ってくれるわねぇ!!」
アラーチェは笑みを浮かべながらメルリーの頭頂部を数秒間撫でた。
少しばかりくすぐったさを感じたが、メルリーは制止させなかった。関係性を構築することが最も重要だと、一週目の経験から理解していたからである。
「ふぅ……さてと、これから私はお仕事へ向かう予定だけれど、あなたはどうする? まぁ、私のお仕事が見たいのならついてきても良いですけれど……」
アラーチェは不敵に「ふふふ」と低い声で笑いながらにやりと視線を向けている。彼女が自慢をしたいのだろうと、メルリーは過去の経験から理解した。
「お、お願いします! アラーチェさん! 私にお仕事、教えてください!!」
ゆえに、メルリーは道化を演じることにした。
「あらららら……! 可愛らしいわね! いいわよ、ついてきなさい!!」
「は、はい!」
メルリーはてちてちと足音を鳴らしながら、調子のよいアラーチェの後を追うことにした。
時刻は夜。光源がほとんどない闇夜の世界。
二人の少女は光輝く鉱石が入った籠を持ちながら森の中へ入っていく。
何百回も訪れたことがある森の中は、とても不気味だった。それもその筈、メルリーが最初に訪れたのはここで働いてから何年もたった後だからだ。齢十一歳より精神年齢が高く、現実にあるものとないものがそれなりに見極められるようになっていたのだ。
故に――精神年齢の高くない現在の彼女にとって森の中は怖さの対象だった。
メルリーは湧き上がってくる恐怖心を抑えるために胸元に手を当てながらゆっくり歩いていた。そんな様子に気が付いたアラーチェはにんまりと笑みを浮かべる。
「あら、怖がっているんですの? しょうがないですわねぇ……ほら、この手を握りなさいな」
アラーチェはメルリーが握りやすい位置へ手を伸ばした。メルリーは少しばかり目を丸くしながら、その手を取った。温かくてそれでいて強さを感じる左手と感じられた。
「ほら、行きますわよ。もうすぐ、仕事場へ着きますからね」
アラーチェはメルリーにそう微笑みかけながら、少し距離のある職場へと向かっていく。
アラーチェはまだ知らない。
隣にいる少女が、自身よりも長生きしていることを。
そして――この日の仕事で、命を落とすことを。
メルリーは光源ひとつない外の景色を眺めながら、心の中でつぶやいた。
数十時間前にいた地獄とは比べ物にならないきらびやかな空間も、二度目の人生を送る彼女にとって目新しいことは何もない。それでも嬉しいという感情だけは本心だった。
(これから、あの人が来るんだよな)
メルリーがそう思った直後、扉をたたく音が聞こえてきた。それとほとんど同時に扉を開ける音が聞こえてきた。後ろをゆっくり振り向くと、そこに立っていたのは見慣れた女性だ。
黒髪ボブをさらりと触りながら清純な印象を与える女性、アラーチェだ。彼女はメルリーの姿をとらえると開口一番こう告げた。
「メルリー。あなたはこれから給仕として働いてもらうわ。ここでは、仕事が如何に出来るかが求められるの。つまり、わかるわね? 私があなたより上ってことよ!!」
メルリーは突然マウンティングを取られたことに一瞬あっけにとられたが、すぐに平静を取り戻した。ここで動揺していたら対応が遅れてしまうことを理解していたからである。
「そうなんですね! なら私、アラーチェさんを目標に頑張ります!」
「ふーーん……え、私!?」
「はい、そうです!!」
「嬉しいこと……言ってくれるわねぇ!!」
アラーチェは笑みを浮かべながらメルリーの頭頂部を数秒間撫でた。
少しばかりくすぐったさを感じたが、メルリーは制止させなかった。関係性を構築することが最も重要だと、一週目の経験から理解していたからである。
「ふぅ……さてと、これから私はお仕事へ向かう予定だけれど、あなたはどうする? まぁ、私のお仕事が見たいのならついてきても良いですけれど……」
アラーチェは不敵に「ふふふ」と低い声で笑いながらにやりと視線を向けている。彼女が自慢をしたいのだろうと、メルリーは過去の経験から理解した。
「お、お願いします! アラーチェさん! 私にお仕事、教えてください!!」
ゆえに、メルリーは道化を演じることにした。
「あらららら……! 可愛らしいわね! いいわよ、ついてきなさい!!」
「は、はい!」
メルリーはてちてちと足音を鳴らしながら、調子のよいアラーチェの後を追うことにした。
時刻は夜。光源がほとんどない闇夜の世界。
二人の少女は光輝く鉱石が入った籠を持ちながら森の中へ入っていく。
何百回も訪れたことがある森の中は、とても不気味だった。それもその筈、メルリーが最初に訪れたのはここで働いてから何年もたった後だからだ。齢十一歳より精神年齢が高く、現実にあるものとないものがそれなりに見極められるようになっていたのだ。
故に――精神年齢の高くない現在の彼女にとって森の中は怖さの対象だった。
メルリーは湧き上がってくる恐怖心を抑えるために胸元に手を当てながらゆっくり歩いていた。そんな様子に気が付いたアラーチェはにんまりと笑みを浮かべる。
「あら、怖がっているんですの? しょうがないですわねぇ……ほら、この手を握りなさいな」
アラーチェはメルリーが握りやすい位置へ手を伸ばした。メルリーは少しばかり目を丸くしながら、その手を取った。温かくてそれでいて強さを感じる左手と感じられた。
「ほら、行きますわよ。もうすぐ、仕事場へ着きますからね」
アラーチェはメルリーにそう微笑みかけながら、少し距離のある職場へと向かっていく。
アラーチェはまだ知らない。
隣にいる少女が、自身よりも長生きしていることを。
そして――この日の仕事で、命を落とすことを。
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