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第四話 『幸福を呼ぶ遊び鳥』

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 激動の一日を終え、朝を迎えた。メルリーは眠そうに体を起こした後、ゆっくり屈伸を行った。体を上げ下げするたび、あくびが口から漏れてくる。



「ふぁぁ……久しぶりに熟睡出来たからか眠たいやぁ……」



 彼女はほんわかと言葉を口にしながら裾の長いズボンをずりずりと引きずる。



「よいしょっ……と」



 力の入らない体で窓を開いた途端、聞こえてくるのは鳥の鳴き声だ。視線を向けると、きれいな青色の体毛を持った鳥が鳴いていた。



「わぁ! かわいい!!」



 メルリーはストレートに思ったことを口にした。昨日見た糞オオカミと比べれば、どんな生物も可愛らしく見えるのは至極当然のことだ。



「ほら! おいで!!」



 彼女は元気よく右手を出し、鳥が乗れるような足場を作った。鳥はその手に気が付くと、一歩一歩近づいてくる。あと数センチで鳥が手に乗るところまでやってきていた。



「おはようですわ、メルリーさん。朝早く起きていらっしゃるとは、熱心ですわね」



 集中の糸がぽろりと途切れた。透き通るような声でメルリーに話しかけたのは、昨日糞オオカミをともに倒した戦友、アラーチェだ。予想だにしなかったお迎えに驚いたメルリーは右手を焦って窓からだし振り返った。



「お、おはようございます! アラーチェさん!! きょ、今日は良いお天気ですね!!」

「えぇ、そうね。とりあえず、ついていらっしゃい」

「――へ? どこへですか?」

「決まっているじゃない。朝ご飯を食べるのよ」

「あ、あぁ! そうでしたね!! いやぁ忘れていました!!」



 メルリーはそう言いながら自分の後頭部を右手で擦ろうとした。直後、彼女の耳元でバタバタと羽音が響く。何事かと思いながら辺りを見渡すと、アラーチェが笑い声を出す。



「ふっ……あははっ! メルリーさん、小鳥があなたの頭に乗っていますわよ」

「えっ……えぇ!?」



 メルリーが鏡の前へ向かうと、くしで整えた髪の毛を両足で遊ぶ鳥の姿が映った。

 当然、彼女は激怒した。この日のために頑張って作成したセットアップをくそ鳥に破壊されたのだ。



「なんだこのくそ鳥がぁ!? 焼き鳥にしたろうかぁ!?」

「ま、待ってください!! その鳥、悪い子じゃないんです!!」

「はぁ!? なんでそんなことわかるんですか!?」



 怒髪冠を衝くどころではないメルリーをアラーチェが落ち着かせた後、二人はベッドの上に座り込みながら説明を始めた。



「この鳥は遊び鳥と言いますの。滅多に表れることがない希少種で、個体数が少ないですわ」

「ふぅ~~ん……なら、金にしましょうよ!! 売れるんでしょ!?」

「ピィっ!? ぴぃぃ~~」



 遊び鳥が逃げられない強さで握りながら、メルリーは怒りを露わにする。就寝前にセットした黒色の髪はところどころよれてしまっている。鳥が原因なのは明らかだった。



「メルリーさん、待ってくださいまし。お金にしたところで、良いことは起きませんわ。むしろ厄災を招くことになってしまいますわ」

「厄災……?」

「えぇ、そうですわ」



 アラーチェはそう言いながら姿勢を整えた。



「遊び鳥にはとある習性がありますの。それは、自分が危害を加えたら100倍の力で加害者を攻撃するというものですわ」



 これを聞いたメルリーは絶句した。いつの間にか抜け出し頭頂部でコサックダンスする鳥がそこまで厄介だと知らなかったからだ。



「やられたらやり返す習性がある一方、彼らにはとある特徴がありますの。気に入った対象に恩を返すというものですわ」

「恩を返す……? それって、どういう……?」

「詳細はわかりませんわ……」

「そうですか……まぁ、はい。わかりましたよ」



 メルリーはため息を一つついた後、嫌そうに言葉を口にした。



「私が責任もって面倒見ますよ」



 メルリーの言葉を聞いたアラーチェは困り眉で「そう……」といった後、明るい表情になった。



「メルリーさん、困ったら何でも言ってくださいね! いつでも手伝いますわ!!」

「ありがとうございます、アラーチェさん。それと最後に一つ、いいですかね?」



 アラーチェは不思議そうな顔で「何かしら?」と返事を返す。

 質問主は死んだ魚の目を浮かべながら足遊び中の鳥を指さした。



「こいつの名前、なんて付けたらよいと思いますか? 因みに、私はヤキがいいです」

「あら……いいと思うけど、その名前にするのは何で?」

「……言えません」

「そう。まぁ、元気に育つんじゃないかしら? ね、ヤキちゃん?」

「ピッ!」



 遊び鳥、ヤキはメルリーの頭に片足立ちで乗りながら右羽で敬礼していた。

 こうして、彼女の仲間として新しくヤキが加わったのだった。
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