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第33話 『因果律解析』と癒やしの光
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国境へと向かう旅は、ギデオンの非協力的な態度もあって、終始ぎこちない空気に包まれていた。
旅を始めて五日目のこと。僕たちは、地図にも載っていないような、小さな寂れた村に立ち寄った。次の街まで距離があり、馬を休ませる必要があったからだ。
だが、村に足を踏み入れた瞬間、僕たちはその異様な雰囲気に気づいた。
活気がない。家々の扉は閉ざされ、道には人っ子一人歩いていない。時折聞こえてくるのは、家の中から漏れる、苦しそうな咳の音だけだった。
「……何か、おかしいな」
リナが、鋭い嗅覚で異常を察知する。
僕たちは、村で唯一開いていた、小さな酒場兼雑貨屋の扉を叩いた。
中から現れたのは、顔色の悪い老婆だった。
「旅の方かい? 悪いが、今は食べ物も宿も、提供してはあげられないよ……。見ての通り、村は今、呪いの病で、それどころじゃないんだ」
老婆の話によると、一月ほど前から、原因不明の奇病が村中に蔓延しているらしい。
症状は、高熱と、体のだるさ、そして止まらない咳。村の井戸水を飲んだ者から、次々と発症しているという。王都から派遣された神官も、祈祷では治せず、さじを投げて帰ってしまったそうだ。
「任務が優先だ。こんな村に関わっている時間はない。出発するぞ」
話を聞き終えたギデオンが、冷たく言い放った。
彼の言うことは、理屈としては正しい。僕たちの任務は、あくまでダンジョンの調査だ。
だが、僕の目の前で、人々が苦しんでいる。それを見て見ぬふりなど、僕には到底できなかった。
「……ギデオンさん。少しだけ、時間をください」
僕は、彼の制止を振り切って言った。
「僕のスキルなら、この病の原因を突き止められるかもしれない」
「スキルだと? 神官様でも分からなかったことが、君のその得体の知れない力でどうにかなるとでも言うのか。思い上がりも甚だしい」
ギデオンは、僕の申し出を鼻で笑う。
隣で、リナがギリ、と歯を食いしばった。
「アルクは、できると言っている。あんたは、黙って見てろ」
「なんだと?」
「二人とも、やめて!」
一触即発の空気を、僕が制した。
僕は、ギデオンの前に立つと、まっすぐに彼の目を見て言った。
「僕を信じなくてもいい。でも、苦しんでいる人がいるのに、何もしないで見捨てるのは、あなたの言う『騎士の誇り』に反するんじゃないですか?」
僕の言葉に、ギデオンは一瞬、虚を突かれたような顔をした。
僕は彼に背を向けると、問題となっている村の井戸へと向かった。
井戸水は、見た目には透明で、何の異常も見られない。
僕は、その水に指を浸し、意識を集中させた。
ダンジョンで手に入れた、新たな力。それを、今こそ試す時だ。
【スキル『最適化』を発動。拡張機能『因果律解析』を起動します】
【解析対象:村に蔓延する奇病の、根本原因】
僕の脳内に、今までとは比較にならないほどの、膨大な情報が一気に流れ込んできた。
それは、この村の地理、地質、水脈の流れ、天候の変化、そして、村人たちの生活習慣に至るまで、ありとあらゆるデータだった。
僕の頭脳は、それらの情報を超高速で処理し、繋ぎ合わせ、一つの結論を導き出す。
まるで、無数の点と点が、一本の線で結ばれていくように。
そして、数秒後。
僕の目の前に、明確な答えが提示された。
「……分かった」
僕は、目を開けた。
「この病の原因は、呪いじゃない。毒だ」
「毒だと?」
遠巻きに見ていたギデオンが、怪訝な声を上げる。
「はい。この村の上流にある鉱山……そこから、大雨によって、特殊な鉱物の毒素が地下水脈に流れ込んだんです。その毒素が、ゆっくりと村人たちの体を蝕んでいた。神官様の治癒魔法が効かなかったのは、相手が病気ではなく、毒だったからです」
僕は、よどみなく、解析の結果を告げた。
あまりにも具体的で、論理的な僕の説明に、ギデオンは言葉を失っていた。
彼の青い瞳が、初めて、僕という存在を「理解できないもの」として、捉え直しているのが分かった。
僕のスキルは、ただの幸運や、得体の知れない力ではない。
それは、世界の真理を解き明かす、知恵の光なのだ。
旅を始めて五日目のこと。僕たちは、地図にも載っていないような、小さな寂れた村に立ち寄った。次の街まで距離があり、馬を休ませる必要があったからだ。
だが、村に足を踏み入れた瞬間、僕たちはその異様な雰囲気に気づいた。
活気がない。家々の扉は閉ざされ、道には人っ子一人歩いていない。時折聞こえてくるのは、家の中から漏れる、苦しそうな咳の音だけだった。
「……何か、おかしいな」
リナが、鋭い嗅覚で異常を察知する。
僕たちは、村で唯一開いていた、小さな酒場兼雑貨屋の扉を叩いた。
中から現れたのは、顔色の悪い老婆だった。
「旅の方かい? 悪いが、今は食べ物も宿も、提供してはあげられないよ……。見ての通り、村は今、呪いの病で、それどころじゃないんだ」
老婆の話によると、一月ほど前から、原因不明の奇病が村中に蔓延しているらしい。
症状は、高熱と、体のだるさ、そして止まらない咳。村の井戸水を飲んだ者から、次々と発症しているという。王都から派遣された神官も、祈祷では治せず、さじを投げて帰ってしまったそうだ。
「任務が優先だ。こんな村に関わっている時間はない。出発するぞ」
話を聞き終えたギデオンが、冷たく言い放った。
彼の言うことは、理屈としては正しい。僕たちの任務は、あくまでダンジョンの調査だ。
だが、僕の目の前で、人々が苦しんでいる。それを見て見ぬふりなど、僕には到底できなかった。
「……ギデオンさん。少しだけ、時間をください」
僕は、彼の制止を振り切って言った。
「僕のスキルなら、この病の原因を突き止められるかもしれない」
「スキルだと? 神官様でも分からなかったことが、君のその得体の知れない力でどうにかなるとでも言うのか。思い上がりも甚だしい」
ギデオンは、僕の申し出を鼻で笑う。
隣で、リナがギリ、と歯を食いしばった。
「アルクは、できると言っている。あんたは、黙って見てろ」
「なんだと?」
「二人とも、やめて!」
一触即発の空気を、僕が制した。
僕は、ギデオンの前に立つと、まっすぐに彼の目を見て言った。
「僕を信じなくてもいい。でも、苦しんでいる人がいるのに、何もしないで見捨てるのは、あなたの言う『騎士の誇り』に反するんじゃないですか?」
僕の言葉に、ギデオンは一瞬、虚を突かれたような顔をした。
僕は彼に背を向けると、問題となっている村の井戸へと向かった。
井戸水は、見た目には透明で、何の異常も見られない。
僕は、その水に指を浸し、意識を集中させた。
ダンジョンで手に入れた、新たな力。それを、今こそ試す時だ。
【スキル『最適化』を発動。拡張機能『因果律解析』を起動します】
【解析対象:村に蔓延する奇病の、根本原因】
僕の脳内に、今までとは比較にならないほどの、膨大な情報が一気に流れ込んできた。
それは、この村の地理、地質、水脈の流れ、天候の変化、そして、村人たちの生活習慣に至るまで、ありとあらゆるデータだった。
僕の頭脳は、それらの情報を超高速で処理し、繋ぎ合わせ、一つの結論を導き出す。
まるで、無数の点と点が、一本の線で結ばれていくように。
そして、数秒後。
僕の目の前に、明確な答えが提示された。
「……分かった」
僕は、目を開けた。
「この病の原因は、呪いじゃない。毒だ」
「毒だと?」
遠巻きに見ていたギデオンが、怪訝な声を上げる。
「はい。この村の上流にある鉱山……そこから、大雨によって、特殊な鉱物の毒素が地下水脈に流れ込んだんです。その毒素が、ゆっくりと村人たちの体を蝕んでいた。神官様の治癒魔法が効かなかったのは、相手が病気ではなく、毒だったからです」
僕は、よどみなく、解析の結果を告げた。
あまりにも具体的で、論理的な僕の説明に、ギデオンは言葉を失っていた。
彼の青い瞳が、初めて、僕という存在を「理解できないもの」として、捉え直しているのが分かった。
僕のスキルは、ただの幸運や、得体の知れない力ではない。
それは、世界の真理を解き明かす、知恵の光なのだ。
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