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第37話 風の巫女と残響の歌
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僕の『最適化』によるナビゲートで、僕たちは『風鳴りの深淵』の空中回廊を、驚異的なスピードで進んでいった。
出現するエア・エレメンタルは、ギデオンの破風の剣と、リナの俊敏な動きで危なげなく対処していく。
僕たちの役割分担は、もはや完璧と言ってよかった。
僕が脳となり、リナとギデオンが手足となる。三位一体の連携で、このダンジョンが仕掛けた数々の罠や、幻惑の魔法を、僕たちは次々と突破していった。
数時間が経過した頃だろうか。
僕たちは、ひときわ大きな、神殿のような建築物が立つ浮島にたどり着いた。
その神殿の中心に、一人の少女が、静かに祈りを捧げていた。
亜麻色の髪を風になびかせ、純白の衣をまとった、幻想的な雰囲気の少女。
だが、彼女は、生きている人間ではなかった。その体は、風のエレメンタルと同じように、半透明に透けている。
おそらく、この神殿に宿る、残留思念か、あるいは精霊のような存在なのだろう。
「……よくぞ、ここまで参りました。旅の方々」
僕たちに気づくと、少女はゆっくりと振り返り、穏やかな声で言った。
「私は、古の時代より、この『風鳴りの深淵』を守り続けてきた、風の巫女。この先の祭壇へ進むためには、私の試練を乗り越えていただかなくてはなりません」
「試練、だと?」
ギデオンが、剣に手をかけて身構える。
だが、巫女は、穏やかに首を横に振った。
「私の試練は、力で乗り越えるものではありません。それは、『記憶』と『共感』の試練」
彼女がそう言うと、僕たちの周りの景色が、再び変化した。
僕たちは、いつの間にか、吹き荒れる嵐の中、一隻の小舟の上に立っていた。
巫女の幻術だ。
「これは、私が生きていた時代の記憶。私の故郷は、大いなる嵐によって、海の底へと沈みました。私は、ただ一人、生き残った。この悲しみを、この絶望を、あなた方に理解できますか?」
巫女の悲痛な声が、僕たちの心に直接響く。
凄まじい精神攻撃だ。第一のダンジョンで経験したものとは、また質の違う、個人の深い悲しみに直接訴えかけてくる、強力なものだった。
ギデオンが、苦しげに膝をついた。彼の脳裏には、彼自身の過去の辛い記憶が呼び起こされているのかもしれない。
「……分かるよ」
静かに、しかし、はっきりと答えたのは、リナだった。
「私も、仲間を……家族を、目の前で失った。すべてを奪われる悲しみも、一人だけ取り残される絶望も、痛いほど分かる」
リナは、幻術の嵐の中で、まっすぐに巫女の目を見つめていた。
その瞳には、深い共感と、同じ痛みを乗り越えてきた者だけが持つ、強い光が宿っていた。
≪リナ……!≫
≪そうだ、彼女も同じ悲しみを経験してるんだ≫
≪これは、リナの試練でもあるんだな≫
コメント欄も、リナの言葉に心を打たれているようだった。
リナは、ゆっくりと、歌を口ずさみ始めた。
それは、彼女の故郷に伝わる、魂を鎮めるための、古い子守唄。
オークの森で、亡くなった仲間たちを弔った時にも、彼女が口ずさんでいた歌だった。
優しくて、どこか切ないそのメロディは、幻術の嵐の中に、静かに染み渡っていく。
巫女の瞳が、驚きに見開かれた。
彼女の体から、荒々しい悲しみのオーラが、少しずつ和らいでいく。
「その歌は……」
「私の故郷の歌だ。失われた魂に、安らぎを与えるための」
リナの歌声に、僕は、自分の力を重ね合わせた。
『最適化』を発動し、リナの歌声が持つ「癒やし」と「鎮魂」の効果を、最大限に増幅させる。僕の光のエネルギーが、彼女の歌声に乗り、巫女の傷ついた魂へと届けられていく。
それは、力と技の連携ではない。
心と心の、魂の連携だった。
やがて、嵐は止み、幻術は解けた。
僕たちは、再び神殿の中に戻っていた。
風の巫女は、涙を流していた。しかし、その表情は、とても穏やかだった。
「……ありがとう、ございます。私の魂は、ようやく、長きにわたる悲しみから、解放されました」
彼女は、僕たちに深々と頭を下げた。
「あなた方は、試練を乗り越えました。あなた方には、資格がある。どうぞ、この先の祭壇へとお進みください。そして、どうか、この世界の『風』を、あるべき姿へと、お戻しください……」
そう言うと、巫女の体は、光の粒子となって、風の中に溶けるように消えていった。
彼女が消えた後には、一筋の、清らかな風の道が、祭壇へと続いていた。
僕たちは、巫女の最後の願いを胸に、第二の封印が待つ、祭壇へと歩を進めた。
出現するエア・エレメンタルは、ギデオンの破風の剣と、リナの俊敏な動きで危なげなく対処していく。
僕たちの役割分担は、もはや完璧と言ってよかった。
僕が脳となり、リナとギデオンが手足となる。三位一体の連携で、このダンジョンが仕掛けた数々の罠や、幻惑の魔法を、僕たちは次々と突破していった。
数時間が経過した頃だろうか。
僕たちは、ひときわ大きな、神殿のような建築物が立つ浮島にたどり着いた。
その神殿の中心に、一人の少女が、静かに祈りを捧げていた。
亜麻色の髪を風になびかせ、純白の衣をまとった、幻想的な雰囲気の少女。
だが、彼女は、生きている人間ではなかった。その体は、風のエレメンタルと同じように、半透明に透けている。
おそらく、この神殿に宿る、残留思念か、あるいは精霊のような存在なのだろう。
「……よくぞ、ここまで参りました。旅の方々」
僕たちに気づくと、少女はゆっくりと振り返り、穏やかな声で言った。
「私は、古の時代より、この『風鳴りの深淵』を守り続けてきた、風の巫女。この先の祭壇へ進むためには、私の試練を乗り越えていただかなくてはなりません」
「試練、だと?」
ギデオンが、剣に手をかけて身構える。
だが、巫女は、穏やかに首を横に振った。
「私の試練は、力で乗り越えるものではありません。それは、『記憶』と『共感』の試練」
彼女がそう言うと、僕たちの周りの景色が、再び変化した。
僕たちは、いつの間にか、吹き荒れる嵐の中、一隻の小舟の上に立っていた。
巫女の幻術だ。
「これは、私が生きていた時代の記憶。私の故郷は、大いなる嵐によって、海の底へと沈みました。私は、ただ一人、生き残った。この悲しみを、この絶望を、あなた方に理解できますか?」
巫女の悲痛な声が、僕たちの心に直接響く。
凄まじい精神攻撃だ。第一のダンジョンで経験したものとは、また質の違う、個人の深い悲しみに直接訴えかけてくる、強力なものだった。
ギデオンが、苦しげに膝をついた。彼の脳裏には、彼自身の過去の辛い記憶が呼び起こされているのかもしれない。
「……分かるよ」
静かに、しかし、はっきりと答えたのは、リナだった。
「私も、仲間を……家族を、目の前で失った。すべてを奪われる悲しみも、一人だけ取り残される絶望も、痛いほど分かる」
リナは、幻術の嵐の中で、まっすぐに巫女の目を見つめていた。
その瞳には、深い共感と、同じ痛みを乗り越えてきた者だけが持つ、強い光が宿っていた。
≪リナ……!≫
≪そうだ、彼女も同じ悲しみを経験してるんだ≫
≪これは、リナの試練でもあるんだな≫
コメント欄も、リナの言葉に心を打たれているようだった。
リナは、ゆっくりと、歌を口ずさみ始めた。
それは、彼女の故郷に伝わる、魂を鎮めるための、古い子守唄。
オークの森で、亡くなった仲間たちを弔った時にも、彼女が口ずさんでいた歌だった。
優しくて、どこか切ないそのメロディは、幻術の嵐の中に、静かに染み渡っていく。
巫女の瞳が、驚きに見開かれた。
彼女の体から、荒々しい悲しみのオーラが、少しずつ和らいでいく。
「その歌は……」
「私の故郷の歌だ。失われた魂に、安らぎを与えるための」
リナの歌声に、僕は、自分の力を重ね合わせた。
『最適化』を発動し、リナの歌声が持つ「癒やし」と「鎮魂」の効果を、最大限に増幅させる。僕の光のエネルギーが、彼女の歌声に乗り、巫女の傷ついた魂へと届けられていく。
それは、力と技の連携ではない。
心と心の、魂の連携だった。
やがて、嵐は止み、幻術は解けた。
僕たちは、再び神殿の中に戻っていた。
風の巫女は、涙を流していた。しかし、その表情は、とても穏やかだった。
「……ありがとう、ございます。私の魂は、ようやく、長きにわたる悲しみから、解放されました」
彼女は、僕たちに深々と頭を下げた。
「あなた方は、試練を乗り越えました。あなた方には、資格がある。どうぞ、この先の祭壇へとお進みください。そして、どうか、この世界の『風』を、あるべき姿へと、お戻しください……」
そう言うと、巫女の体は、光の粒子となって、風の中に溶けるように消えていった。
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僕たちは、巫女の最後の願いを胸に、第二の封印が待つ、祭壇へと歩を進めた。
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