メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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32.次元の狭間

24.皆のアイドル! 魔法少女セルンちゃん!!

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「その子がセルン?」
「ん? おぉ、そうだぜ」

 コストイラがケーキを頬張りながら答えた。

 孤児院でケーキなど、かなりの贅沢品に思われるかもしれないが、ここは違う。子供達に超激甘なシュルメ、フォン、テシメ、カーミラがいるため、いまだ定期的にお菓子を届けてくれるのだ。
 子供が食べるには美味しすぎるケーキを食べながら、セルンの頭を撫でる。セルンは100%警戒モードのため、アストロの方を全然見ない。

 セルンはコストイラの服をがっちりと掴み、胸に顔を押し付けている。アストロからは小枝のような細い腕と、大爆発を起こしている淡い紫色の髪しか見えない。モフモフしたら気持ちよさそうだが、櫛は通りにくそうだ。

「セルン、お風呂、というか水浴びしたら?」
「ッ!?」

 提案されたセルンは弾かれたように顔を上げ、アストロを睨むと、自分の匂いを嗅ぎだした。

「ん? 別に臭かねぇだろ」
「いや、ごめん。私が悪かったわ。匂いじゃなくて髪の毛、ほら、指の通り、悪くない?」
「あぁ、そっち」

 焦り散らすセルンの頭に顔を突っ込み、まさかの遠慮なしで匂いを嗅ぎ始めた。セルンは顔を真っ赤にして拳を叩きつけて抗議するが、コストイラは全く動じていない。
 アストロから誤解を解かれたコストイラは顔を離して、無造作にセルンの頭を撫で繰り回し始めた。

 セルンは声が出せないまま悶える。

 アストロは何だかセルンが可哀想になってきてしまった。

「あぁ、でもギシギシしているな」
「ム?」
「ほら、だから絶対濡らした方がいいわよ」

 コストイラはアストロの言うことに納得した。そして、自身の顎に触れながら、自身のするべきことを考える。

「よし! じゃあ必要なのは水浴びだな。井戸に行こうぜ!」
「っ!?」

 言外で一緒に行こうと言っている。それに気付いてしまったセルンは、顔を耳まで真っ赤にして暴れ出した。

「ん? どした、急に。あ、成る程。お前ももう立派なレディだもんな、すまんすまん」
「レディ? ちなみに失礼を承知で聞きますが、……セルンさんのお年っておいくつなのですか?」
「ん? 同い年だぞ」
「ブッ!?」

 アシドとアストロ、アレン、エンドローゼ、そしてレイドに至るまで、思い切り噴出した。

 アストロが一気にコストイラに詰め寄り、胸倉を掴んだ。アストロがコストイラを持ち上げてしまったため、膝に乗っていたセルンは簡単に落ちて、コロコロと転がってしまった。

「え、何?」
「おい、コストイラ! アンタと同い年ってことは私とも同い年ってことじゃん! つまり、……私をアンタが洗うってことじゃん! 変態!!」

 勇者一行、孤児、シスターの全員がアストロとセルンを交互に見比べた。男の胸倉を掴み威圧する女トロ地面を転がって隅で震えている女が一緒? え? 豊満な体でボンキュッボンな女小枝の四肢に幼児体型の女が?

「うげ、そういえばそうじゃん。ヤベッ、どうしよ」

 コストイラがセルンを見る。セルンは可哀想なくらいにプルプルと震えていた。

『あ、えっと。私が連れて行きましょうか?』
「し、シスタールチア。良いのか?」
『シスターですから』

 ルチアが静かにセルンに近づく。プルプルなセルンがルチアを見上げた。
 ルチアは服に注意しながら屈み、視線の高さを揃えた。

『さ、一緒に水浴びに行きましょう』
「や」
『え』

 優しく誘うルチアに、セルンは即答で拒否した。ルチアは目を丸くする。

「で、で、では、私が行きましょう!」

 なぜかエンドローゼが元気よく手を上げた。その手には孤児がくっついている。アストロと違い、膝裏に届くほど伸びている髪にも孤児がくっついていた。

「ごめん、コストイラ。貴方がエンドローゼっぽいって言ったことに納得したわ」
「だろ!」

 孤児達から解放されたエンドローゼがセルンに近づいた。

「さ、さぁ! わ、わ、私と水浴びを、しーますよっ!」

 有無を言わさずにエンドローゼはセルンの腕を掴み、引っ張る。セルンは涙目をして首を振っているが、エンドローゼの目は謎にキラキラしている。
 なかなか動かせないことに痺れを切らし、エンドローゼはセルンを持ち上げた。

「え? え? え?」
「じ、じゃあ、い、きます、ね!」

 自身と同じくらいに小さく、細腕であるエンドローゼに持ち上げられ、狼狽してしまう。

「……なんであんなにやる気なんだ?」
「……久し振りの孤児院で、お姉ちゃんしたいんじゃない?」
「……成る程な」
「おぉ」

 コストイラが感嘆の声を上げた。それを受け取ったセルンは、やはり顔を真っ赤にしてうつむいている。
 現在のセルンは、孤児院の天使によって綺麗にされ、孤児院の魔女によっておめかしされた状態だ。

「よかったな、可愛くしてもらえて」
「う、うん」

 コストイラが無遠慮に頭を撫でるため、セルンの頭からは湯気が出ているように見える。

「あ、あの!」
「うん?」

 セルンが何かを決してようにコストイラの顔を見た。

「私もコストイラと一緒に行きたい!」
「駄目」
「え!?」

 セルンの覚悟を、コストイラは即答で拒否した。先程のルチアを再現するかのようだ。

「な、何で」

 相当の覚悟と勇気をしていたのだろう。既に涙目になっている。
 コストイラは屈み、セルンと視線を合わせると、少女の肩に手を置いた。

「オレは好きな女の前じゃ無茶してでも格好いい姿を見せたくなっちまう。お前が来たら、オレは死んじまうよ」
「な!?」
「お前が待ってくれていると思う方が、生きて帰ってこれる」
「ッ!?」

 セルンは目をグリンと剥いて、その場に硬直して倒れてしまった。
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