メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
600 / 684
32.次元の狭間

30.姿を見せる憤怒

しおりを挟む
『ヴフゥ』

 シキを弾き飛ばしたミノタウロスが、レイド達を一瞥し、そしてシキの元へと向かった。

 その瞬間、レイドの怒りが天頂を振り切った。

 野郎、ぶっ殺してやる!

 血が出そうになるほど握り締める右拳とともに駆け出そうとするレイドを、コストイラが全力で止める。

「待て! レイド!」
「なぜ止める! 貴様も分かっているのだろう! 私がミノタウロスを、あの憎い自分の手で殺ミノタすべき相手ウロスを倒すのだ!」
「だからこそ止めさせてもらうぜ!」
「何!?」

 自分と同等かそれ以上の炎を、その魂に宿すレイドに圧されそうになるが、瞋恚の炎に真っ向から燃え上がる。コストイラが指を差し、レイドの意識を向けさせる。

 そこには三体の牛頭人体ミノタウロスがいた。

 レイドの炎がそちらに向く。

「オレが一体受け持つ。アストロのプライド的にも、一体はアストロ達が、だから、レイド、一体頼む」
「当たり前だ」

 レイドが大剣を抜き、憤怒をミノタウロスに向ける。

 人間の怒りは複雑だ。
 人間は脳が発達した猿だ。動物にある本能ですら、複雑となった。
 前頭前野が脳に複雑な仕事を可能にさせた。さらに、脳は未来を見るようになった。被害者でも加害者でもないのに怒るのは、未来が見られるようになった弊害だ。

 人が群れを成し、手製の拙い弓矢で狩猟していた頃、得られたものを活かして分かち合うかによって生まれた感情だ。ズルをして取り分を誤魔化すと、全体にとっても損であるし、将来的にも被害があるかもしれない。それを許してはいけないと考えた結果、怒りを選択した。

 しかし、現在のレイドの怒りは、そんな理知のありそうなものではない。獣と同じ、今に生きる怒りだ。
 相手を威嚇するように猛牛ミノタウロスを睨みつける。

 レイドを突き動かす炎を受け、暴力の化身ミノタウロスでさえ、少したじろいだ。しかし、それはほんの少しのこと。ミノタウロスはそんなレイドを叩き潰してやろうと、大棍棒を振り上げた。
 迫る棍棒を大剣で受け止める。

 ミノタウロスが目を丸くする。暴力の化身ともいわれているが、それを受け止めたのだ。とはいえ、このまま圧し潰してしまえばいい。

 ミノタウロスが両腕に血管を浮かび上がらせて、レイドを地面の染みにしようとする。

 対するレイドも血管を浮かび上がらせ、拮抗する。

 ここまで互角の力比べをすることなどなかった。ミノタウロスにとって、とても新鮮な気持ちだった。しかし、それでもプライドがある。ミノタウロスは相手を讃えつつ、力を込めていく。
 獣の怒りを滾らせるレイドは、ここで人間に戻った。真正面、獣のぶつかり合いではなく、技へ逃げたのだ。

 拮抗していた力がなくなり、重心が完全に傾いた。

『ブ!?』

 ミノタウロスが前傾となり、思わず手と膝を地面に着いた。両刃斧ラブリュスは半分以上が地面に埋まっている。その時の衝撃により、地面が湖のように波打った。少し離れているところで戦っていたコストイラ達も驚いた。

 レイドが断頭台の首刈り刃のように、近くにあった腰を両断しようとする。

『ヴ!』

 理不尽の権化ミノタウロスは立ち上がるよりも斧を優先した。抜きながらに振るわれた一撃は、レイドを叩き飛ばした。身長2m10㎝、体重は鎧や武具を合わせて400㎏を超えている。そんなレイドを飛ばすなど、なんて膂力だ。幸いだったのは、当てられたのが刃の方ではなく、腹の方だったことだろう。

『グ、ヴ』

 ミノタウロスの歯の隙間から血が零れ落ちた。
 レイドの振るった大剣はミノタウロスの脇腹半ばまで斬っていた。

 ミノタウロスは大剣を抜き取った。ゴプと血が溢れ出すが、臓物までは漏れてこない。それだけ筋肉が鎧となっているのだろう。

『ヴァフゥ』

 ミノタウロスは右手に両刃斧ラブリュス、左手に大剣を装備する。
 対して、レイドは丸腰。いや、正確に言えば大楯しかない。

 ミノタウロスは血と唾を吐きながら、斧と剣を振るう。

 レイドは斧を半身で躱し、大剣を楯で弾いた。懐に入った外人レイド猛牛ミノタウロスの顎にアッパーを入れた。さらに固めた拳をミノタウロスの胸を殴った。
 憤怒いかりを右の拳に乗せて、ミノタウロスの体を凹ませた。

 ミノタウロスの肺が片方潰れ、荒く息をし始める。ミノタウロスの左腕を取ると、力任せにせず、技でもって捩じり上げた。

『ブモッ!?』

 ミノタウロスの左手が自然と開く。そして、レイドは無理矢理大剣を奪取して、再び脇腹に大きく振るった。

 レイドは器用な男ではないため、先程とは違う部分に入った。しかし、結果的に、二つの傷の間にあった肉は落ち、中にあった臓物は外へと吐き出された。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...