メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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32.次元の狭間

29.巨厳の魔宮

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 ブフゥ。

 死は廻る。

 ブフゥ。

 魂は巡る。

 ブフゥ。

 想いは環る。

 ブフゥ。

 ユメはメグル。




 どこか闘技場めいた円形の箱庭。そこにいる数々の強者達。その中にいる――銀の少女。

 目が映したその光景に、彼の心に光が差した。一振りの斧を握りしめ、強靭な足を一歩、踏み出した。

 嗚呼、あれだ。

 彼は喚起した。

 あれこそが私の求めていたものだ。

 再戦を。

 この身はそのためだけに生まれてきた。唸る血潮、猛る肉体。かつてないほどの飢えが甚だしい力を呼び起こす。
 迸る歓喜、そしてそれ以上の戦意に満ち溢れ、彼は雄叫びを放った。

『オオオオオオオ!!』

 迷いも悲しみも、何もかもを打ち砕く大咆哮が打ち上がった。

「何だ!?」

 気付いた時にはもう遅い。すでに彼は両刃斧ラブリュスを振るっていた。

 シキが咄嗟にナイフを抜き、刃を防いだ。しかし、その圧倒的な膂力から繰り出される一撃を防ぎきることはできなかった。
 シキはすっかり風の矢と化し、円形闘技場アンフィテアトルムの壁に激突した。

「ぐ、ぬ」

 瓦礫の中から身を起こすシキは、全身を焼くような痛みに呻く。咄嗟のナイフがなければ、背骨をやられていたかもしれない。

 陽光とも月光ともつかぬ微妙な光が差し込む屋内で、シキはふらつく体を押して立ち上がる。

 そこへ、ドッ! と。

 瓦礫を踏み砕く音に、シキが顔を上げた。
 ボロボロの壁をくぐって現れるのは、シキを吹き飛ばしたあの赤銅の怪物。レイド以上の身の丈に筋骨隆々の体躯。アレンならば震え上がって失神するであろう猛牛を前に、シキは静かに息を吐いた。

 シキの状態など気にすることなく両刃斧ラブリュスを振るう。シキは猛牛ミノタウロスの斧刃に命を脅かされながらも、幻惑的なステップにて躱し続けた。
 恐れなどないシキは一気に肉薄し、二振りのナイフで斬撃を放つ。

 巨大な斧を楯のように使って防いだ怪物が、片足を振り下ろした。

 粉砕する地面。それだけでシキの体勢は崩れた。その隙を見逃す彼ではない。間髪入れずに振るわれた両刃斧ラブリュスに対し、シキは殺人的な蹴りを繰り出し、回避する。
 銀の頭髪を数本散らしながら、距離を少しとっていく。その距離を食い破る。

 ウォオオオオと遠くで叫びが聞こえてくる。コストイラやレイドが戦っているようだ。

『ヴン!』
「フッ!」

 二刀のナイフと両刃斧ラブリュスが膨大な火花を散らし合う。何度も何度もかちあった。何度も何度も斬撃の音色を奏でた。

 命令おもいを力に変えて、絶人シキはナイフを振るう。

 憧憬おもいを力として振り絞り、猛牛ミノタウロスは斧刃を振るう。

 打ち払われる魔剣ナイフ、弾かれた勢いを転化した回転斬り、これも両刃斧ラブリュスで防ぐ。
 反対にミノタウロスが斧刃を振るう。その刃先が掠め、少し肌が露出する。

 シキの武装が次々に剥落していく。少しの胸当て、僅かな脚甲が猛牛ミノタウロスの猛攻によって失われていく。赤銅の濁流が脅威となってシキを磨り潰さんとする。
 シキは一気に力を入れ、黒き世界へと加速した。黒い靄とともに駆けるシキが、両刃斧ラブリュスの猛攻を躱しながら、霞むほどの勢いで懐へと入っていった。

 限界を食い千切ったのではないかと思わせる程の加速、遅れる敵の反応。それ以上など許すものかと、振り上げられた両刃斧ラブリュスが一振りのナイフを上空に弾き飛ばした。
 シキはこれまでの一連をすべて無視し、疾走の動きから跳躍へ。虚を突かれる赤銅の牛の頬骨に、左上段蹴りを炸裂させる。

 決戦だ。

 洗練さの欠片もない。本能に頼った両刃斧ラブリュスを、シキはナイフで防いだ。いや、これは防御ではなく、攻撃だった。

 魔剣に魔力を流した。巨大な両刃斧ラブリュスを叩きつけた。

『ヴン!』

 形の変わった斧でシキを急襲する。シキに焦りは一切ない。ただ魔力を吸い続けるナイフを合わせる。

 そして。

「ありがとう」
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